都市での農ライフは仕事になるのか? ある20代男子が実現させたこと【進化する都市農業 #9】

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都市での農ライフは仕事になるのか? ある20代男子が実現させたこと【進化する都市農業 #9】

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都市での農ライフは仕事になるのか? ある20代男子が実現させたこと【進化する都市農業 #9】
最終更新日:2019年05月10日

ここ数年「農業サークル」に所属する学生たちや「農業ベンチャー」を志す若者たちとよく出会ってきました。私が大学生だった20年前には、農学部もなければキャンパスライフに「農業」などというキーワードはほぼ存在しなかったと記憶しています。
いまや多くの若者たちが「農業」や「農ある暮らし」を目指していますが、代々続く農家であってもそれなりの生計を立てていくのは容易ではありません。
農家出身でなくとも農ある暮らし(農ライフ)を生業(なりわい)にしつつ、都市で生きていくことは可能なのか? 私の身近にいる20代男子、武藤芳暉(むとう・よしき)さんを実例に考えてみます。

アルバイトと個人事業主との狭間(はざま)の「農業」

武藤さんは平成2(1990)年生まれの29歳。都心で育ち、大学まで進みましたが卒業後いわゆる就職はしませんでした。
現在、私が理事長を務めるNPO法人「くにたち農園の会」の理事を務めていますが、固定給というものは存在せず、会が主体となって実施している事業収益のなかから自身の報酬を自身で決めて受け取っています。
具体的には週3回実施している「放課後クラブニコニコ」(小学生向けの学童的な畑体験)、そして水田を使った「田んぼ体験」を主に担当しています。

進化する都市農業

田んぼ体験は親子向けに加えて大人のみの体験もスタート

それ以外の収入源として大きいのが地場野菜の集荷配送、連載6回目「企業も都市農業に参入できる?」で紹介した東京農業活性化ベンチャー「エマリコくにたち」の仕事です。
田畑を使ったアクティビティと地場野菜流通というまさに都市農業らしい仕事が彼の生業となっているのです。
同世代の会社勤めをしている人たちに比べれば収入は多いとは言えないでしょうし、音楽活動をしている彼女と2人暮らしですので金銭的な余裕があるわけもないのですが、それでもずいぶんと楽しそうに日々を過ごしているように見えます。
最近では彼自身の取り組みもメディアで取り上げられたり、田んぼの活動を対外的にプレゼンしたりといった機会も増えてきており、農を志す人からするとむしろうらやましいばかりの活躍と言えるかもしれません。
では彼はどうやって「農ライフ」を生業とすることができたのでしょうか?

最初は「なんとなく」畑にやってきた

私が武藤さんと出会ったのは確か2013年、ちょうどコミュニティー農園「くにたちはたけんぼ」を開設した年の事でした。農園を開設するにあたって地元在住の大学生もメンバーとして手伝ってくれていたのですが、そのメンバーの高校時代の同級生としてふらりと畑にやってきたのです。ハッキリ言って印象が薄く彼自身も「なんとなく、やりたいこともなかったので同級生を手伝いに来た」ぐらいのモチベーションで、ぽわーんとした雰囲気の若者でした。当時は暇だからゲームばかりしていたといいます。
「はたけんぼ」には4、5人から多いときには10人ぐらいの大学生たちが出入りしていましたが、みんな就職したり引っ越したりと1、2年のうちに去っていきます。ところが彼はなぜか残っていて、時々私たちの事業を手伝ったりどこかにしばらく行っていたかと思ったら戻ってきたりという感じで、“なんとなくよくいる若者ポジション”を保っていました。
私自身の懐事情も連載7回目の「都市農業は『儲かる』のか?」で紹介した通りの乏しい状況で、十分な仕事をあてがえるわけでもなかったのですが、それでも人手が必要な時はお願いして、特に畑での忍者体験教室を始めてからは見習い忍者「武藤丸」として活躍するようになっていきます。

進化する都市農業

毎年恒例の「どろまみれ」イベントの実行委員長も務める

私のような「ブラック企業上等、気合と根性でゴリゴリ働いてなんぼ」みたいな団塊ジュニア世代と違い、武藤さんはキツイ言葉や大言壮語を吐いたりすることはなく、他者を尊重しつつフレンドリーに接するという振る舞いが板についています。
子ども達や女性たちは彼が対応するとすぐに警戒心が解けるようで、2014年に始まった放課後クラブや、田んぼ体験でもだんだんと重要な役割を果たすようになり、2016年の法人化の際には中核メンバーの一人として理事になってもらうことにしたのです。

大志を抱くよりも目の前のことをコツコツやる

現在では新しくできた都市農地関連の法律にのっとって農地貸借の案件を進めたり、農地の基本的な管理を担ったり、新しい企画の立案、募集などマルチに活躍しているのですが、そうなるまでに5年ぐらいかけて徐々に信頼関係や基礎技術を身に着けてきたと言えるでしょう。
最近は農業界隈(かいわい)でベンチャー企業を立ち上げ、出資してもらった資金をもとに流通や生産の仕組みそのものを大きく変えていこうという20代、30代も珍しくなくなってきました。そうした起業家が掲げるような大きな目標を持つでもなく武藤さんのように目の前の小さな仕事を大事にし、少しずつできることを増やしていくというやり方でもなんとか形になっていくのです。

進化する都市農業

農園での活動を報告する武藤さん

最近よく「農業関係で起業したい」「都市農業をテーマに何か実践したい」という相談を受けますが、転ばぬ先の杖としての事業計画に試行錯誤したり、短期的に利益を上げられるイノベーションにこだわりすぎたりしている人も多いという印象です。
武藤さんは「農業を本業にする気あるの?」などと尋ねても「どうなんでしょうね~?」とか「ひとまず今は楽しいですよ」とかあまり手ごたえのないような人物です。
しかし、そもそも土を耕すとか、植物を育てるというのは人間が主体的にコントロールするというよりも地域性や天候、土地や人との出会いに身をゆだねながら少しずつ形が定まっていくような面が大きいと私は思っています。
「都市での半農半X」「農が身近にある暮らし」を実現させる「農ライフ」を本業にできるかどうかはやってみないとわかりません。でも少なくとも彼は彼なりに実践しているし、着実に仲間を集めて事業を拡大しているのも事実です。
もしかしたらこういう柔軟性をもって結果にそれほど執着しない事業の組み立て方こそが持続性が高いのではないかと期待しています。

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