野菜を食べない都会人、都市農業は生き残れるのか?【進化する都市農業 #10】

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野菜を食べない都会人、都市農業は生き残れるのか?【進化する都市農業 #10】

連載企画:進化する都市農業

野菜を食べない都会人、都市農業は生き残れるのか?【進化する都市農業 #10】
最終更新日:2019年05月23日

都市農業に関する法制度が2018年に整い、都市農業は今まさに転換点にあるといえます。そんなさなか、これからの都市農業の可能性を考えてきたこの連載も今回が最終回となります。以前に比べれば都市農業への理解と注目度は増していますが、注目されても野菜の消費量が増えなければ販売農家は稼げません。都市農業は令和の時代をどう生き抜くべきなのでしょうか?

「野菜をつくりたい!」都市住民とのGW10連休

ゴールデンウイーク10連休は平成から令和へというビッグイベントもあり印象に残るものでした。そのあいだ私はといえばまさに「都市農業のいま」にどっぷりと浸っておりました。
まずは恵比寿ガーデンプレイスで開かれた「アーバンファーマーズサミット2019」にて「東京農業案内所」という東京農業を紹介しながら野菜も販売するテントを3日間出展。
イベント自体は4日間続き、収穫体験や苗販売、プランターづくりワークショップなど、恵比寿ガーデンプレイスは「都市農」の展示場となっていました。

進化する都市農業

恵比寿ガーデンプレイスに出展した「東京農業案内所」

そして国立市の私が運営する農園では毎年恒例の「親子やさい畑体験」を3日間にわたり開催。およそ60家族を対象に夏野菜の作付けと収穫体験を実施しました。これは4回シリーズでひと家族2万円(税抜)と、いわゆる農体験のなかでも高価格の方ですが毎年満席でご好評をいただいています。さらにホームセンターでミニトマト苗の販売スタッフもやりました。これは、あるミニトマト品種のブランディングも兼ねて実際にその果実を試食してもらいながら苗を販売するというユニークな販促イベントです。
都心での「都市農」をテーマにした催事、畑での食農教育プログラム、ホームセンターでの苗販売と、それぞれ異なるシーンで都市に暮らす人々の農との接点に立ち会ったわけですが、特に若い世代の農への関心の高まりをみるにつけ、これからますます「自分で育てて自分で食べる」という野菜づくり体験へのニーズは高まると確信しました。

市民ファーマーが増えると野菜は売れなくなる!?

都市農業への関心が高まり、参加する人たちが増えていく……というのは農業振興にとって望ましいことだと思います。しかし、ここには忘れてはならない大きな落とし穴があると私は思っています。
それは「野菜を作る人が増え、生産性も上がれば野菜の供給量は増える。しかし人口減、高齢化の日本では野菜の消費は減り続けている」という点です。
農林水産省の「食料需給表」をみると、1980年から比べて2017年の時点で一人当たりの野菜消費量は20%ほど減、総人口も減っているわけですから全体の需要はかなり下がっています。

野菜の消費量は減る一方、農業や野菜に関心の高い層は自分自身でも生産をはじめるとなると、厳しくなるのは野菜の生産農家です。野菜の供給が需要以上に増えてしまうからです。
最近は市民ファーマーであってもメルカリなどの売買アプリをつかって販売することが可能ですし、今後広がるであろうシェアリングエコノミー的な物々交換や地域通貨などを使っても野菜を流通させることが可能となるでしょう。すると消費者はますます既存の仕組みで野菜を買わなくなる可能性が高いと私は見ています。

進化する都市農業

大型マンションのコミュニティー農園、野菜づくりのニーズは高い

小規模多品目で直売所や地元スーパーなどでの販売が多い都市農家にとって、売上や価格にそれほどこだわる必要がない市民ファーマーの存在は脅威となりえます。農への関心の高まりは、むしろ既存の農業売上を侵食していく可能性があるのです。

それでも「都市農家」が生き残るわけ

連載7回目「都市農業は『儲かる』のか? 新規参入農業者の懐事情を教えます」でも紹介した通り、都市農家は相続のたびに農地を減らさざるを得ず、小規模化していきました。その上さらに、野菜が売れない、価格を下げざるを得ないなどのことがあればますます離農が進むでしょう。
その一方で市民農園やコミュニティー農園、福祉農園などの需要が高まれば、離農する農家の田畑がそれらに入れ替わり、野菜を買う必要のない都市住民が増えていきます。
この状況は農家にとってかなり厳しいものと予測されます。しかし、都市農家はいままでも常にそのような危機にさらされながらもあの手この手で業態を変えて生き残ってきました。
私はこれからも都市農業は進化し続け、新たな営農の形を生み出していくに違いないと思っています。

進化する都市農業

国立市の畑で実施したイスラム教徒との食の交流会

例えば、野菜を売るのではなく農村の歴史や文化を背景とした暮らしそのものを提供するサービス業にシフトしていく農家は確実に増えるでしょう。
教育サービス、飲食店と連携した食農イベント、宿泊を伴うアグリツーリズムなど、私も実際に提供していますがまだまだ伸びしろを感じています。外国人も対象とすればさらにマーケットは拡大するでしょう。
いずれは農家がファンコミュニティーのような会員を保有し、会員はサブスクリプション(利用量や頻度に関わらず一定の期間、定額で受けられるサービス)やシェアリングサービスの一環として農家にかかわり農作業を手伝ったり、宿泊したり、料理を作ったりビジネスパートナーとなったり、コミュニティーを作ったりするようになると私は予測しています。
すでに先進的な若手農家はそれぞれでファンを獲得して徐々にそういった方向へと門戸を開いていっています。
こうした取り組みは決して都市だけのものにとどまらないでしょう。より本格的な農村体験を求める人は地方に流れ、その輪が広がっていくのではないかと私はある種楽観的にとらえています。
そして、私ももちろん常にその先端にあって新たな農サービスを生み出し提案し続けていくつもりです。

参考
野菜をめぐる情勢(PDF):農林水産省

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