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大企業のドラマから学ぶ試練の乗り越え方〜つらいのは農業だけじゃない〜【農家のお悩み解決!おすすめビジネス書#02】

大企業のドラマから学ぶ試練の乗り越え方〜つらいのは農業だけじゃない〜【農家のお悩み解決!おすすめビジネス書#02】

「農業経営の裾野を広げる、業界外の知恵」という視点で、佐川友彦さんにお気に入りのビジネス書を紹介してもらう連載第2弾。農業も過酷で大変な職業ですが、どんな仕事でも困難はつきものです。今回は大企業の世界をのぞいてみましょう。大企業の立ち上げ期や拡大期のドラマを追体験することで、共感や新しい学びが得られるはずです。カリスマ経営者の魅力あふれる、エンターテインメントとしても珠玉の2冊を紹介します。

大企業の悲喜こもごもを知るメリット

私も現場に寄り添ってきましたから、農業の厳しさを少しはわかるつもりです。労働負荷が高く休みも少ない、キツイ仕事だと感じていらっしゃる方がほとんどではないでしょうか。機械や施設への投資額が大きく、生産資材や人件費も年々上がっている割に、生計は市場の相場に握られています。気候変動や天災、病害虫から深刻なダメージを受けるリスクも常に負っています。人間関係や権利問題に頭を悩ませているという話もよく伺います。日本の豊かな食は生産者さんの強いプロ精神の上に成り立っているわけですから、感謝と尊敬の念しかありません。

そんな農業のハードさゆえか、「大企業は安定しているから気楽でいいな」「リスクを負わないサラリーマンがうらやましい」という声も耳にします。果たして本当に、大企業やサラリーマンのほうが、低負担で安定しているのでしょうか。私の知る限りでは大企業こそ、資本家や取引先、従業員など多数の関係者の利害を背負い、リスクを抱えています。厳しい競争社会の中では必死の場面が続きます。「隣の芝生は青い」ではありませんが、それぞれに苦労や悩みがあるのです。

今回は、大企業の悲喜こもごもをうかがい知れるような書籍を選んでみました。しかも、それらの企業のスタートアップと呼ばれる、立ち上げ期を取り上げたものです。今でこそ著名な企業でも、人手不足でワンオペ同然だった時期があり、ビジネス展開に悩み苦しんだ時期があり、突然のトラブルで窮地に立たされた時期がありました。2冊に共通しているのは、ビジョンに向かって突き進む、創業者の人並み外れた行動力です。彼らの人生を仮想体験することで皆さんにも、日々の業務と試練に向き合う希望をもっていただけたら幸いです。

なお、どちらも読み物としても秀逸で、読み進めるとすぐストーリーへ引き込まれます。ノンフィクション小説としても十分に楽しめてオススメです。

「不格好経営―チームDeNAの挑戦」から学ぶ、不格好の格好よさ

「不格好経営―チームDeNAの挑戦」は、いわずと知れたDeNAの創業者、南場智子(なんば・ともこ)さんの著書です。一流コンサルティング企業マッキンゼー・アンド・カンパニーを退職した後に、DeNAを起業してから本書出版時に至るまでに起こったさまざまなドラマが書きつづられています。ネットオークションからはじまり、モバイルゲームをはじめとする多くの事業を展開する中で、押し寄せる修羅場や危機にさらされる場面はまさに迫真の内容です。

本書から学べる試練の乗り越え方は、「仲間と楽しんで乗り越える」ということです。文中では、危機に陥る場面で同社の社員がどのように振る舞い、どのように活躍したかが克明に描かれています。多くの社員の貢献について事細かに触れられている様子からも、著者が社長でありながら、社員をよく観察しつつ共に戦ってきたことがうかがい知れます。

また本書では、担当の社員に権限と責任を与え、信じて任せることの重要さも強調されています。みなさんは、自分一人が責任をとり、何でも決断しなければならないと、すべてを背負おうとしていないでしょうか。たしかに、これまでの農業経営では、一人で何でもできることがよしとされてきた風潮もあります。しかし、一人でできることに限りがあることも自明です。複数人で危機や試練に向き合えば、それぞれの能力や知恵を持ち寄り、負担を分かち合って軽減できます。すでに仲間がいる皆さんは、苦楽を共にできるチーム作りに取り組んでみてください。まだ仲間がいない皆さんは、仲間集めを意識してみるとよいでしょう。

帯には「経営とは、こんなにも不格好なものなのか。だけどそのぶん、おもしろい。最高に。」とあります。艱難(かんなん)辛苦の場面でさえも、著者がそれをどこか楽しんでいるような様子は、本全体から感じられます。そういうポジティブな姿勢が、望む結果を引き寄せるのでしょう。読めば著者の明るさに励まされることは間違いありません。不格好をすがすがしく認める格好よさをご体感ください。

不格好経営―チームDeNAの挑戦
著者:南場智子
出版:日本経済新聞出版社

「SHOE DOG(シュードッグ) 靴にすべてを。 」で、すべてを賭ける勝負勘を学ぼう

「SHOE DOG(シュードッグ) 靴にすべてを。」はナイキの創業者、フィル・ナイトの自伝です。自身もランナーであるナイトは、優れたランニングシューズの必要性を感じ、靴のビジネスをはじめました。彼はスタンフォード大学でMBA(経営学修士)を取得し、会計士としての約束された人生がありながら、それを捨てて靴の進歩に人生を賭けています。

本書から学べる試練の乗り越え方は、「試練を自らに課して乗り越える」です。今日では有名なスポーツ用品の世界的企業ですが、本書では、同社が首の皮一枚で勝負に勝ち続けた様子が事細かに記されています。序盤は、入金をすべて次の生産に投じる局面ばかりが続き、ギャンブル狂のようにさえ思えます。社外との取引先に対しても、社内の従業員に対してもグレーゾーンぎりぎり、むしろ禁じ手を使ってまで壮絶な駆け引きをしています。敵を作ることをいとわず、人を傷つけるとわかっていてもビジネス拡大を優先し、キレイゴトではありません。

著者は自らにチャレンジを課し続けることで、独創的な価値を生み出すことに成功しました。試練から逃げ回るのではなく、困難に対峙(たいじ)することで自ら試練を生み出し、主体的にそれを乗り越え、幸運さえも呼び込んでいます。

リスクという代償を支払って優位性を買うことは、競争戦略の基本です。自由競争の流れが加速すると予想される今後の農業界でも、このような、リスクを味方につけるビジネス感覚は役に立ちます。

本書は500ページを超える骨太な物語です。はじめ日本メーカー「オニツカ」に製造委託していたので、高度成長期の日本の製造業を、アメリカ側の視点から垣間見ることができます。後に自社生産へ切り替える丁々発止のやりとりは、息をのまずにはいられません。著者が理想の靴を熱狂的に追い求める姿は「モノづくり」そのものです。おいしい農産物づくりにこだわる農業生産者さんこそ共感できるのではないでしょうか。

SHOE DOG(シュードッグ) 靴にすべてを。
著者:フィル・ナイト(訳:大田黒奉之)
出版:東洋経済新報社

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