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下水道資源はポテンシャルの宝庫!農業活用の可能性とは

下水道資源はポテンシャルの宝庫!農業活用の可能性とは

近年の下水道普及に伴い、処理過程で生まれる下水汚泥の量も増え、そのリサイクルが課題とされています。実は、下水汚泥には窒素やリンといった植物の成長に欠かせない栄養素が含まれており、堆肥(たいひ)や肥料 に加工して農業に利用することが出来できます。汚泥の他にも、処理水や熱エネルギー、二酸化炭素もハウス栽培 などに活用できることから、下水道は‟資源”の宝庫だといえます。農業の生産性向上に貢献する、下水道資源の可能性を探りました。

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下水道普及で増える下水汚泥、農業に有効利用

国土交通省のデータより作成(※)

約30年前から日本各地に下水道施設・設備が整い始め、2018年3月時点の普及率は78.8%とされ、1990年の44%から飛躍的に向上しています。

下水道が普及する一方で、下水処理施設で水を浄化する際に発生する汚泥の量も増えています。焼却して灰を埋め立てる処理方法が一般的ですが、処分できる量にも限界があるため、リサイクル利用が課題とされてきました。2015年の下水道法改正では下水汚泥の再利用の努力義務が設定され、建設業など他分野と連携しての利活用が進んでいます 。

実は、下水処理場に集まる水や下水汚泥には、植物の成長に欠かせない栄養素の窒素とリンが豊富に存在しているのです。特に、リンは年間20万トンを海外輸入に頼っていますが、その約1割に当たる量が下水道に集約されているといいます。
また、栄養分を含んだ処理水は農業用水に、下水汚泥の処理時に発生する二酸化炭素と熱エネルギーはハウスでの栽培に利用できるなど、“資源”として有効活用ができます。

このような下水道資源を農業などに利用し、生産性向上に貢献しようとする活動を「BISTRO 下水道」と名付け、2013年から国土交通省が関連企業や自治体などと取り組んでいます。

(※)2015年度末の下水道処理人口普及率は、東日本大震災の影響で岩手・宮城・福島県において調査不能な市町村があったため、3県を除いた44都道府県の数値。

収量アップ&コスト削減も、下水汚泥由来肥料の底力

農業

下水道資源の活用で最も事例数が多いのが、堆肥や肥料として使用する方法です。汚泥を処理場で高温発酵させると、有機物のアミノ酸を豊富に含む良質な堆肥や肥料に生まれ変わります。堆肥が土壌を健全にすることで病虫害が減少し、収量や食味が向上したという使用効果が全国各地から報告されています。

コスト面での強みも持ち、処理場での堆肥化に取り組んでいるある自治体では、10キロ当たり数十円という安価で販売。実際に下水道由来肥料を使った佐賀県の農家では、化学肥料を使用していた年に比べて収量が18%アップしたにもかかわらず、経費が69%削減できたといいます。

下水道広報プラットフォーム(GKP)企画運営委員の馬淵沙織(まぶち・さおり)さんは、「クチコミを通して、農家さんの間で利用が広まりつつあるようです。下水道由来肥料は、肥料取締法の基準値を満たし、肥料登録もされています」と、安全性をアピールします。実際に、下水道由来肥料の重金属類含有量は許容最大量の約6分の1~30分の1と低い数値が出ているといいます。同委員の佐々木俊郎(ささき・としろう)さんは、「効果や安全性を伝えることで、下水道資源に対するイメージが変わり、当たり前に使ってもらえるようになれば」と期待します。

ブランド農産物「じゅんかん育ち」の普及拡大へ

スーパーの直売コーナーで「じゅんかん育ち」ブランドとして下水汚泥由来肥料で栽培した野菜を販売、好評を集めました

下水道資源を使って育てた農作物やその加工物などの食材に「じゅんかん育ち」とブランド名を付け、直売コーナーで販売したり、都内の飲食店で提供したりと、消費者にもPRを行っています。アスパラガスやトマトなどの野菜に限らず、再生水を使用して栽培されたお米で作った日本酒など「じゅんかん育ち」ブランドの食品は多岐にわたります。
下水道資源を活用して作られたものであれば、自由にブランドを名乗ることができるため、馬淵さんは「農家さんには、たとえば『エコな農業をしている』など、ご自分の農業のカラーを表現するときなどに、ぜひ利用してほしい」と、呼びかけます。

馬淵さんはさらに、「生産コストを抑えつつ、農産物をブランド化することで収益性を上げ、農家の経営状況改善に寄与することで、後継者がやってみたいと思える農業を根付かせ、地域経済に良い循環を生み出すことができれば」と、力を込めます。佐々木さんは、「取り組みを通して、作る人も食べる人も笑顔になれる社会を作りたい」と、意気込みました。

当たり前のように私たちの側に存在してくれている下水道ですが、水・エネルギー・栄養素といったさまざまな資源が集まる場として、そのポテンシャルは非常に高いといえそうです。

【関連リンク】
国土交通省ホームページ(下水道資源の農業利用」ページ)

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