小さな畑でもダイコンで稼げる!?
自分で生産物の価格を決められるからこそ、直売所はおもしろい。
だが一方で、自由価格だからこそ、商品がダブついた場合、「安売り競争」という事態にも陥る。
夏はキュウリやナス、冬の筆頭はダイコンだ。ダイコンは大きな畑で薄利多売する野菜、自分には関係ない、と思っていた。
「ダイコンだったら、夏まきと冬まきをすればいいよ。1本が200円になる!」と、「岡山の師匠」こと、岸さんが教えてくれた。
この2つの作型なら、収穫時期のダイコン売り場は岸さんの独壇場。高いときは1本200円でも売れ、数本のウネで数万円になる。
それなら、小さな畑でもやる価値がある。1カ月3万円稼ぐために、ぜひ習得したい技術だ!
真夏まき──品種の力で「黒芯・赤芯」を防ぐ
真夏まきは、8月上旬の頃にタネをまく作型で、秋まきのダイコンよりも半月〜1カ月早い、10月上旬から出荷できる。
ただし、8月上旬といえば「立秋(りっしゅう)」の頃。岸さんが住む標高の高い岡山県久米南町(くめなんちょう)でさえ、最高気温が30度を超える1年でもっとも暑い時期だ。
涼しい気候が好きなダイコン。さすがにこれには参ってしまいそうなものだが……。
おもむろにタネ袋をあさりはじめる岸さん。
「ほら、これこれ。この品種がいい」
岸さんオススメの夏まきダイコンが「夏の翼」(タキイ種苗)。
その名のとおり、夏まき栽培に特化した品種で、「首」のあたりから腐ってくる「軟腐(なんぷ)病」や、ダイコンの中が黒くなる「黒芯」や赤くなる「赤芯」などの高温によって引き起こされる生理障害が出にくい。
雨が少なく、畑が乾きやすい時期ゆえに、播種(はしゅ)後からしばらくの水やりがちょっと大変だそうだが、品種をちゃんと選べば、そう難しくない作型のようだ。
真冬まき──透明マルチとトンネルでトウ立ちを防ぐ
「1年でもっとも暑い」時期にまく夏まきに対して、こちらは「1年でもっとも寒い」2月初旬にまく。この作型だと、直売所がお客さんであふれかえるゴールデンウイーク中に新鮮なダイコンが出せるそうだ。
トンネル密閉でトウ立ちを防ぐ
真冬の久米南町は最低気温が氷点下7度まで下がることもある。となると、心配なのがトウ立ち(花が咲いて売り物にならないこと)。ダイコンは、生育期間中に低温に当たることで花を咲かせようとする。ゴールデンウイークといえば、そこら中の畑で昨年の秋にまいた取り遅れのダイコンが白い花を咲かせる時期だ。
岸さんはトウ立ちを防ぐため、透明のマルチ(フィルム)をウネにはり、播種したら寒冷紗(かんれいしゃ:遮光や保温のための薄い布)をベタがけ。さらに、ビニールのトンネルで覆うなどして、ダイコンを寒さから守る。
3月の天気のよい日には、トンネルの中は40度以上になっているだろうが、「絶対に開けちゃダメ」と念を押す岸さん。トンネル内に十分な湿度があれば、ダイコンがヤケてしまうことはないそうだ。あえて高温に当てることで、花を咲かせる気をなくさせる、という効果があるらしい。
トンネルを日中開けるようになるのは、ダイコンが随分大きくなった3月中旬頃。間引きすると同時に寒冷紗をとってから。そこからは毎日、朝晩の開け閉めを欠かさない。
そして、最低気温が10度を超す4月中旬頃になったらマルチとトンネルを取っ払ってしまう。高温による黒芯や赤芯などの障害を防ぐためだ。
トウ立ちに強い「春神楽」
真冬まきは岸さんが何年も続けている作型だが、花が咲きやすい品種もあった。
安定してトウが立ちにくいのは「春神楽」(タキイ種苗)。トウ立ちが遅いうえに、低温でも太ったいいダイコンになる。それに、「生でかじっても、サラダにしても、おいしい」らしい。
早春まき──透明マルチだけの簡単な作型
ちなみに岸さんは、3月上旬に播種、5月中旬に収穫する「早春まき」の作型もやっている。こちらは、トンネルは不要。透明マルチを張るのみで、トウ立ちを防ぐことができる。真冬まきよりも手のかからない簡単なやり方だ。品種も「春神楽」だけではなく、真冬まきではトウ立ちすることもある、ずんぐりとした「三太郎」(タキイ種苗)や、赤ダイコンの「紅三太」(タキイ種苗)と、幅も広がる。だがこれらの品種も、今年のように春が異様に寒いときにはトウ立ちすることもある。今年、トウ立ちせずに大きく育った「トップランナー」(タキイ種苗)が確実だと岸さんはみている。
岸さんの話を聞いていると、ダイコンを育てる情熱がわいてきた。人の工夫を聞くと、やってみたくなってワクワクする。うまくいくと、ドキドキする。これこそ、直売所ライフの醍醐味だ。
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