1日240束出しても「花は売れ残りやしまへん」
夏の直売所に並ぶのは大量の夏野菜。だが、野菜は売れ残りも結構多く、後半戦にもなると競合が始まり、安売りセールとなってしまう。
その一方で、花売り場の主役である仏花はというと「値段も一定やし、売れ残りやしまへん」と前田佐之さんが言う。
最盛期のお盆には、1日にバケツ12杯分、約240束の花束を出す日もあるが、ほとんど売れてしまうそうだ。1束が200円としても1日で4万8000円。「月3万円」とか言っている自分が恥ずかしくなる……。
前田さんは今年で86歳。「年やさかい、キャベツなんか1玉持ったらやっとや」。その点、花は軽い。
さらに、花は、密植するので小さい畑でもたくさんとれる。全部で約10アールある畑のうち、休耕するところや、菊の苗床にするところを除けば実質5アール。たったそれだけで、菊やアスター、シンテッポウユリなどの仏花をつくり、なんと、年間100万円も稼いでいるそうだ。
畑が小さければ、大がかりな機械も必要ないし、体力も使わない。前田さんのような高齢者にはもちろん、大きな機械を持っていない私のような新米にもうってつけかもしれない。
ただ、ちょっと難しそうと言う私に、「そんなことはない」と前田さんは言う。
品目別に栽培のポイントを教わった。
3色揃えてカラフルに 菊の栽培方法
仏花の主役はなんといっても菊。前田さんは主に小菊を中心につくり、8月から12月までずーっと出す。それぞれの開花期にそれぞれ赤・白・黄色の花が咲くように、18品種ほどの菊をつくる。
挿し芽で増やす
「菊で難しいといえば、挿し芽くらいですな」と前田さん。
種子をまく他の花と違い、菊は基本的には挿し芽で増やす(※)。越冬した株の新芽が伸びてくる春頃に、割り箸ほどの太さの頂芽を摘み、それを培土に挿して発根させ、苗にする。
挿し芽をする土は、発根しやすいように無肥料のものを使うのが基本。以前は、真砂土(まさど)や鹿沼土、くん炭をブレンドしてつくっていたが、最近は市販の挿し木用の培土。
菊は品種によって開花期が決まっており、遅く植えたとしても丈が短いまま花が咲いてしまう。そのため、挿し芽をしてから約5カ月後に開花期を迎えるように、4月は9月咲き、5月は10月咲き、6月は11月咲きの品種の挿し芽をする。
一方、8月咲きの品種は、挿し芽が可能になる4月から苗をつくっても、植え付けが遅くなって草丈が十分に伸びないまま開花期を迎えて咲いてしまうので、株分けをして増やす。
※ PVP登録品種(種苗法の登録品種)は挿し芽や株分けなどの自家増殖が禁止されています。その場合は、前田さんのようにパテント料を支払い、許可を得たうえで増殖してください。
植え付け後の摘心で3本立ちにする
もう1つのポイントは、植え付け後の摘心。これをしないと、背の高い花が1本だけ咲いてしまって量がとれないうえ、強風が吹くと倒れやすくなる。
そこで前田さんは、苗を植えて根付いたらすぐに、下葉を数枚残して、てっぺんの芽を指で摘む。すると、それぞれの葉から脇芽が伸びて、短い花がたくさん咲く、理想的な株になる。
草刈機の摘心でボリュームアップ アスターの栽培方法
第2の主役・アスターには、一年草のものと宿根(しゅっこん)性のものがあるが、前田さんは宿根性のクジャクアスターばかりを育てる。毎年タネをまかなくてよく、株分けでどんどん増やせる。
草刈り機で大胆に摘心
アスターも摘心をするが、かなり大胆なやり方。菊よりも新芽が伸び始めるのが早く、5月の初旬には30センチほどに育っている。そこで活躍するのが、草刈り機(チップソー)。地際から5〜10センチを狙って、刈り払っていくだけで摘心は完了。
腰をかがめなくてもよく、体がラク、というわけだ。
短い花は、仏壇用の仏花に仕立てて全部売る
菊にしてもアスターにしても、単品の切り花にするには丈が短いものがいくらかは出てくる。そういうものは畑の隅っこで育てているセンニチコウやマリーゴールド、あるいは山で切ってきたヒサカキ(ビシャコ)などと組み合わせて、仏壇用の短い花束に仕立てる。
市場出荷ならハネ品になってしまう短い花も生かせるのが直売所。じつは、これがよく売れて「売り上げの半分くらい」になる。
最後に、「今年、こんなん買いましてん」とうれしそうに倉庫を案内してくれた前田さん。そこにあったのは新品の耕運機。「この歳になると、クワを持つのも大変でっしゃろ」と、この機械ならいかに簡単にウネを立てられるかを説明してくれた。
86歳現役。まだまだ儲けて、10年は現役続行!!