豪雨でトラックが流された
2018年9月8日の朝6時過ぎ、田中さんは不安な気持ちを抑えながら、亀岡市の山の中腹にある事務所を目指し、車を走らせていた。前日の夜、集中豪雨が一帯を襲い、道路の上を川のように水が流れていた。途中で通行止めにあい、車を降りて徒歩で坂道を上っていった。
しばらくすると、作業場の外に積んであったプラスチックのカゴが流れてきた。要らない葉や根っこなど、調整作業でネギから外した残さを入れていたカゴだった。ドキッとしたが、まだ深刻な被害にあったと決まったわけではない。「もしかしたら」という胸騒ぎと、「カゴが流れた程度ですんでくれればいい。あとは何とか助かっていてほしい」と祈る気持ちが交差した。
事務所に近づくと、目に飛び込んできたのは横転した自社の2トントラックだ。駐車場から道路へと押し流されてきたのだった。いまや不安は頂点に達していた。事務所に駆けつけると、数台の車が土砂に埋まっていた。ネギをカットする加工場に細かい土が流れ込み、更衣室の扉を突き破っていた。
独立し会社を立ち上げた田中さんにとって、事務所と作業場は、事業の成長の拠点となる「城」とも言うべき場所だった。「そのときどう思いましたか」という筆者のベタな質問に対し、田中さんは「うわーって思った」という言葉をくり返した。このシンプルな表現が、衝撃の大きさを物語る。
田中さんはこのピンチをどうやって乗り越えたのか。そのことを述べる前に、いったん時計の針を独立のころに戻し、これまでの歩みをふり返っておこう。