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ファッションデザイナーが農業!? デニムで伝統工芸作物、琉球藍を救う

ファッションデザイナーが農業!? デニムで伝統工芸作物、琉球藍を救う

沖繩県で古くから栽培され、藍染めの染料として使われている琉球藍(りゅうきゅうあい)。第二次世界大戦後は化学的に生成された合成インディゴが普及し、県内でも生産者が高齢化している事から、衰退しつつあるそうです。そんな琉球藍を、耕作放棄地を開拓しながら栽培し、「琉球藍100%デニム」を作ろうとしているデザイナー・嘉数義成(かかず・よしなり)さん(写真)に話を聞きました。

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沖縄の伝統産業「琉球藍」とは?

──琉球藍について教えてください。

琉球藍は琉球王国が中国と交易していた時代から栽培されており、沖縄の伝統染織に欠かせない染料です。第二次世界大戦の戦火で藍染めに関する文献の多くが失われた上に、一番古くから藍染めをしていた方が亡くなってしまった事から、文化が途絶えそうになっていました。そこでわずかに残った古い文献を調べたり、琉球大学農学部の研究者に協力してもらったりしながら、栽培しています。

──嘉数さんはこれまでに農業の経験があったのですか。

実は、農業は初めてです。
琉球藍染めの商品を作ろうと思った当初は、年配の方が作っている琉球藍を分けてもらい、デニムを生産しようとしていました。ところが生産工場に発注する際に必要な最低発注数に対して、現状の藍の生産では足りないことが分かりました。そこで原料を安定生産する為に農業を始めたんです。

──琉球藍を復活させようと考えたきっかけは何でしょうか。

僕は沖縄県コザ市(現・沖縄市)出身で、米軍基地が近くにあった事から米国の文化を身近に感じながら育ちました。服飾の専門学校で3年間学んだ後、自身のブランド「LEQUIO(レキオ)」で米軍の払い下げ品である軍用テントやパラシュートといった素材を生かした服飾品を作っています。

米軍の消防服、軍用テント、パラシュートを使ったLEQUIOの服飾品

琉球藍の商品自体はLEQUIOの立ち上げ当時から県内の染色家と共同で作っていたのですが、琉球藍の文化が途絶えそうになっている状況を知ったことから、自分自身が関わるファッションの分野がこの問題を解決するきっかけになると確信し、沖縄由来のデニムを作ろうと考えたのです。琉球藍が衰退しつつあると認識しながら放置して途絶えさせてしまったら、それは人災だと思っているので、耕作放棄地を開拓しながら琉球藍の栽培を始めました。

困難が続く琉球藍の栽培

──耕作放棄地で、どのように琉球藍を栽培しているのでしょう。
  
新規就農するにあたって、3年前に沖縄本島北部の東村にある6000坪(約2ヘクタール)の耕作放棄地を確保し、農地の開拓を始めたのですが、この地域の土壌は限られた作物しか育たない、赤土の酸性土壌でした。正直なところ、ここで琉球藍を育成できるかわからなかった。そこで試行錯誤をしながら育ててみたところ、琉球藍は沖縄の植物なのに日光耐性がなく、日陰を好む事がわかりました。遮光環境下で、こまめに散水し肥料を与えれば酸性土壌でも育つという発見がありました。

耕作放棄されたパイナップルや、雑草が生い茂る耕作放棄地を開拓

赤土の酸性土壌で琉球藍を栽培するために畑を開拓

──これまでの常識が覆されたのですね。他にはどんな困難が?

これまでに2000坪を開拓し、琉球藍を収穫できるところまで育てました。ところが2018年の台風24号の影響で、苗とこれまでに育てた琉球藍の大半が枯れてしまったのです。残った葉で何とか藍染めの染料をつくる事ができたのですが、この経験から学び、今年からは目が行き届く宜野湾市内で苗を育成して年内の植え付けに備えています。

宜野湾市で琉球藍の苗を栽培中

また、農家が琉球藍を栽培してもお金にならないのが難しいところです。理由はグアバやマンゴー、野菜のような一般に流通している作物ではないため、買い取るお客さんも限られるからです。また高齢の生産者に無理を言って生産量を上げてもらうのではなく、若者が原料から生産して商品開発を行い、将来的に産業になるくらいまで復活させなくてはと考えています。
 

藍染めでSDGsを実現

──琉球藍の栽培以外に、何か取り組んでいる事はありますか?

琉球藍を使って染め物をする途中段階でできるアルカリ性の廃棄水を、酸性土壌に混ぜる事で中性に近づけ、ゆっくりと土地改良をしています。そうすれば将来的に他の作物も作れるようになりますし、廃棄水も有効活用できる循環型の農業が可能となります。このアイデアは、もともと染料である藍を溜めておく藍甕(あいがめ)を畑の横に設置し、廃棄水を利用していたという記録から得られました。先人の知恵を生かしつつ、新たな発見を重ねる事で地域の役に立てていきたいですね。

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──嘉数さんの将来の夢を教えてください。

琉球藍の農法について、新たに判明した事を本にして残したいですね。そうすれば新規就農者の誰もが琉球藍を栽培できるようになりますから。いずれは「藍の里」や、沖縄にしかないデニム生地、及び縫製工場の建設を行い、地元の雇用に貢献することもできるでしょう。そうする事で若者が琉球藍を通して沖縄の伝統文化に関する仕事に携わるようになり、伝統工芸としてだけはなく現代の衣服としても広げていくことで、琉球藍の文化が続いていくのではないでしょうか。

* * *

嘉数さんたちの努力が実を結び、アールビーホールディングス株式会社からAineRy(アイナリー)というブランド名で、琉球藍100%デニムの販売が始まりました。沖縄で衰退しつつあった文化を復活させた彼らのストーリー。深く心に染み入るものがありました。

LEQUIO:レキオ株式会社<琉球藍製品の販売はこちら>

アールビーホールディングス株式会社

画像提供:アールビーホールディングス株式会社、レキオ株式会社

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