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GRA岩佐代表から学ぶ、愛されブランドとファンコミュニティづくり【農家の課題解決ゼミ開催レポート#02】

連載企画:農家の課題解決ゼミ開催レポート

GRA岩佐代表から学ぶ、愛されブランドとファンコミュニティづくり【農家の課題解決ゼミ開催レポート#02】

阿部梨園・FARMSIDE worksの佐川友彦(さがわ・ともひこ)さんとマイナビ農業が送る、生産者の悩みを解決する「農家の課題解決ゼミ」の第2回が、東京で行われました。今回の特別講師は、一粒1000円のブランドイチゴ「ミガキイチゴ」を生産する、株式会社GRA代表取締役CEO・岩佐大輝(いわさ・ひろき)さん。今回も満員となったこの人気ゼミの様子を、活発に手があがった参加者から講師への質問を中心にレポートします。

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1粒1000円のイチゴを作ったブランディングとは

「農家の課題解決ゼミ」は2部構成。定員40人が今回も満員に

「農家の課題解決ゼミ」の第2回が、東京のノウラボセミナールームにて7月23日に開催されました。今回のテーマは「愛されブランドと、ファンコミュニティづくり」。
第1部はゲストセッションです。
まずは特別講師の岩佐大輝さんのゲストトークからスタート。もともと大学在学中にIT会社を起業していた岩佐さん。出身地である宮城県亘理郡山元町が東日本大震災により大きな被害を受けたことから、復興のために、地方に強い産業を作るべく2011年に株式会社GRAを創業しました。
地元のベテラン農家の経験と、ITを組み合わせた先端施設園芸によって、GRAが生んだ商品が高品質のイチゴのブランド「ミガキイチゴ」。画像解析により収穫予測やかん水施肥をきめ細かく行うことなどで収量を向上させ、徹底したブランド管理で販売単価も高めていきました。現在、ミガキイチゴは、大手百貨店や海外でも取り扱われています。
6次化商品も数多く開発。ミガキイチゴのスパークリングワイン、日本酒、どぶろくなどの酒類から、化粧品などまで手掛けます。2017年にはミガキイチゴを使ったスイーツを提供するカフェ事業もスタート。カフェのInstagramは、1ポスト(投稿)に平均1000の「いいね」がつくそうです。

美しく大粒で甘いミガキイチゴは多くのファンをつかみ、イチゴ狩りのハウスや販売ショップを併設した施設「イチゴワールド」(宮城県・山元町)には、国内外から年間5万人が来園。これは、山元町の人口(約1万2000人)の実に4倍超です。
また、2015年には新規就農支援事業を開始。ITを利用したイチゴの栽培技術を、体系的に学べるように細分化し、農家としての自立を支援しています。
さらに、GRAではインドをはじめとする海外へも、その栽培技術を伝えています。

海外生産事業では、外資系高級ホテルへも販売する(写真は、ゼミ当日の資料より)

「今、山元町の人々には『自分たちの町で生まれたイチゴの技術が世界中に広がっている』という、誇りが醸成されていっています」と岩佐さんは話します。
こうしてさまざまな展開を見せるミガキイチゴについて、講師でありゼミのナビゲーター役でもある佐川友彦さんは、「農業界ではなかなか見かけない愛され力」と紹介しました。

ゲストトークは30分で終了。ゼミは岩佐さんと佐川さんの対談へと移りました。

対談:農業界随一の“愛され力”に迫る

「『多く』と『高く』は両立できない」

佐川:ミガキイチゴのブランドはある程度、確立されていると思います。カフェ事業としての「いちびこ」も2017年に1店目を開店して以来、店舗を増やしていらっしゃいます。ミガキイチゴを使ったお酒など、加工商品も多い。消費者の認知も広がってきています。その中で、岩佐さんが現時点で足りないと思っていて、今後目指したい商品価値は何ですか?

岩佐:品質の絶対的な安定性をどう求めるか。糖度や硬度、大きさの安定は、テクノロジーだけだと相当難しいですね。奇麗な品種を選んで育てることも一つの解決策ですけれど、我々やお客様が望む味わいではなかったりもする。そこを解決したいですね。

佐川:ブランディングについて、マイ・ルールや格言のようなものはありますか?

岩佐:量やスケールの拡大を目指すのではなく、それを犠牲にしてでも、まずはブランド力を高めること。「多く売りたい」と「高く売りたい」は両立できないという基本原理に従ってやっています。

垂直統合によるブランド構築と、水平展開による商品開発で事業拡大

佐川:一方、量を絞ると、ビジネスとしてはスケールアップしづらくなりますよね。

岩佐:そこは一番重要なミッションです。農業ですから、ある程度、スケール化しなければいけない。ですから、ミガキイチゴの利用シーンを、お酒、カフェなど分野ごとに広げています。1つの利用シーンだけに集中するとマーケットに限りがある。スケールアップしながらブランドを守る目的で、いわゆる6次化という加工商品開発を行っています。

佐川:垂直統合(生産・商品開発・販路開拓等を、一貫して行うこと)しながらも、水平展開して、加工商品アイテムを開発して増やしながら?

岩佐:そうですね。垂直に水平に。研究開発から販売まで垂直統合しないと、ブランドは守れないし、作れないんですよ。それが多分野にわたってできないと、一分野に集中して量を増やさざるを得なくなり、ブランド価値が下がる。そこは強烈に意識して、やっています。

佐川さんがこうしたいくつかの質問を投げかけ、それに答える形で岩佐さんから実体験を踏まえた考え方やノウハウが語られました。
対談が終わると、参加者から質問を募っての質疑応答となりました。

質疑応答ダイジェスト

質問1:認知されるきっかけづくりは?

──私も岩佐さんと同じくイチゴを作っています。ホームページを作ったりしていますが、認知されるとっかかりが作れていません。まずは何をすれば良いでしょうか?

岩佐:私も最初は同じ状況でした。そこで1年目は、大田市場に週3回はイチゴを持って行き、バイヤーの人に食べてもらい、モニター営業をして販路を作っていました。
佐川:GRAでは創業から数年で百貨店と取引ができていらっしゃるので「どんなルートで?」と思いきや、実は地道な営業活動なのですね。
岩佐:完全にどぶ板営業ですね。おかげで、小売のバイヤーさんと一緒にブランドを作り上げるような、仲間意識が持てました。また、もう1つがSNS。あらゆるSNSを使って、引っかかりを待つ。どれか一つ引っかかれば、そこに全力投球をする。例えば、「いちびこ」はある日、Twitterから火が付き、来客数が増えました。そこで、そのトピックを基に拡散させていった。もちろん、安定した品質のものを、安定して届けることが大前提ですが、だからって売れるわけじゃない。ですから、私もおっくうでしたが、自分自身でも毎日更新していましたね。
佐川:やっていないSNSがあれば、全部アカウントを作って、必ずしもSNSごとにポストを変える必要はないので多少はコピペでもいいからという感じですかね。TwitterやInstagramなど、何がフックになるか分からないから全方位的にアピールしていくと。
岩佐:それなりの美しさで写真を撮って、コツコツやると、1年以内に1万フォロワーくらいまではいくと思いますよ。

質問2:マーケット見極める方法は?

──私は軽井沢でズッキーニを作っています。別荘地のため、避暑に来た富裕層の方は買っていきますが、定住者はあまり買わない。マーケットを見極めようとおっしゃっていましたが、どのようにすればいいのでしょうか?

岩佐:消費者インタビューをやってみると良いと思います。私の場合、イチゴは日本人に人気のフルーツですが、その具体的な理由はわからなかった。そこで、インタビューしてみた。「イチゴは好き?」「なぜ好きなの?」と聞くと、キーワードが出てくる。それが消費者の考える商品特性なので、それを利用して、ブランディング設計していく。ズッキーニを好きな集合体は必ずあると思いますし、ファンミーティングのようなものでも良いですよね。

佐川:私も、阿部梨園に入ったときには、リサーチしました。農林水産省による統計も見ましたし、けれどそれだけでは実態はつかめないので、インタビューさせてもらいました。

質問3:特別栽培しても高く売れない野菜はどうすればいい?

──千葉県で栽培方法にこだわってニンジンを作っています。ブランドとして認知はされてきましたが、ニンジンという野菜は消費者にとって安くて当たり前。単価が上げられず利益につながりません。展開するヒントを教えてください。

岩佐:当社でも、本当に高い価格帯の商品は全体の20%くらい。その他は、ちょっと高く売れればいいという感覚です。例えば、私はベンチマークしている(指標としている)企業やブランドは特にありませんが、成功しているアパレルブランドなどのビジネスモデルは参考にしています。そこでは、1着3万円のTシャツを売りながら、実は一番儲けているのはグレードを落としたセカンドブランドたったりする。ブランドはトップが際立つと、その下のセカンド、サードブランドの価値も引きあがる傾向があります。

佐川:全部、ハイエンド(最高級品)を狙うことは難しい。全体の何割かに付加価値をつけ、高品質品として価格を引き上げることは一つの戦略。一番高いところだけをつまみ上げて、下を大きく育てる。

岩佐:あとは、販売チャネルも重要ですね。ハイエンドが売れるところと、そうでないところがあります。特別栽培品が売れるところに持って行ってブランディングするのも良いと思います。また、今日は全身、ニンジンらしいオレンジの洋服を着ていらっしゃいますよね(笑)。そういうブランディングも大事だと思いますね。

イベント内容をリアルタイムでまとめるグラフィックレコーディング。描くのは、数多くのグラフィックレコーディングを手掛けてきたヨシさん

この他にも、会場からは多くの質問があり、それぞれに具体的で丁寧なアドバイスがありました。
講師に直接質問ができるのも「農家の課題解決ゼミ」の一つの魅力です。
ゼミ終了後、佐川さんは「ミガキイチゴの愛され力の根源はどこに?という質問に、岩佐さんが、根源は山元町だと断言されていたのが印象に残りました」と感想を話しました。地元である山元町を復興させるべく、GRAを立ち上げ、ミガキイチゴを生んだ岩佐さん。地域復興という思いこそが全ての始まりであり、愛され力を築き上げた何より強いモチベーションであることが、その一言に凝縮されていました。

テーマに沿ったディスカッション

第2部では、佐川さんを講師にグループワークを行いました。
今回のテーマに合わせたお題は、架空のブドウ農家の3代目が、直売所への来客数の減少という課題解決のために、ファンコミュニティやブランディングについて、何をすればよいか。グループごとに参加者が自由な発想で、どんな手段を、どのように進めていくかなどについてディスカッションし、制限時間内に一つのアイデアとしてまとめ発表を行いました。
参加者たちはお互いに初対面の中、和やかに打ち解けながら活発なディスカッションを展開していました。
今回も好評だった「農家の課題解決ゼミ」。次回もぜひご参加ください。

ゼミの内容が凝縮されたグラフィックレコーディングの完成版

▼8月28日(水)開催! 第3回のゲスト講師は、農天気・小野淳さん▼
「農家の課題解決ゼミ」の第3回は、株式会社農天気 代表取締役・NPO法人くにたち農園の会 理事長、小野淳(おの・あつし)さん。都市農業の可能性を広げるため、地域に根差した農業体験イベント主催、貸農園、メディアによる情報発信など、さまざまな活動をされています。テーマは、「伝えたい農業の体験価値、観光農園の可能性」。数あるエンターテインメントの中から、農業が選ばれるための体験価値について学びます。現在、参加者を募集中です!

第1回の模様はコチラ
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