40代で営農再開、1年目の失敗
横浜市の郊外にある金子さんの栽培ハウスを8月初めに訪ねた。約束した時刻は午後3時。あまりに暑く、農作業ができない時間帯をインタビューのために割いてくれた。ハウスの正面にすえられた人の背丈より大きい貯水タンクは、下のほうの色が濃くなっていた。井戸からくみ上げた水がタンクを冷やし、表面が結露したためだ。いかに気温が高いかを示している。
中に入ると、地面の上に整然と並んだトマトの列があった。列の根元には、水や肥料をやる黒いチューブが何本も走っている。灌水(かんすい)を制御しているのは、ハウスの隅に設置した「ゼロアグリ」というシステムだ。ベンチャーのルートレック・ネットワークス(川崎市)が開発した。このシステムが金子さんの今の営農を支えているのだが、そのことは後述しよう。
トマトの栽培はこれが2年目。1年目はいろいろなトラブルに直面し、思うように育てることができなかった。トマトの栽培は高い収量を狙う場合、頭上に張ったワイヤから垂らした棒や糸に、茎をくくりつける方法が一般的。トマトの成長に合わせて棒や糸を横にずらすことで、伸びた茎がたるまないようにするのがこの方法のポイント。2018年はそれがうまくいかず、金子さんの言葉を借りれば「トマトの茎が絡み合ってジャングルのように茂ってしまい、収拾がつかなくなった」。その結果、収穫に手間取るなど、作業しにくい畑になってしまった。
もっと深刻だったのは、病気がまん延してしまったことだ。温度設定を間違ったため、ハウス内の湿度が高まり、トマトの株に水滴が落ちたことが原因だ。茎や葉を含めて病気がトマト全体を痛めつけ、十分な栄養が行き渡らずに実が地面に落ちてしまった。知り合いのトマト農家に写真を送ると「すぐ農薬をまくように」とアドバイスしてくれたが、タイミングを逸し、およそ3分の1が死滅した。病気にかかった木を外に運び出し、ハウス内を掃除したことで、今年の3月ごろになってようやく収穫量が上向き始めた。