鮮やかな色が人気 ケイトウ
3年前のある日、京都にあるドライフラワー専門店でおもしろい花を見つけた。
くしゃっとした花の形がおもしろく、ベルベットのような光沢が美しい。その当時は知らなかったが、ケイトウのドライフラワーだった。値段はなんと1本350円。都会での価格なのだろうが、これには驚いた。
それをきっかけに、直売所向けに栽培を始めた。それまで私の切り花の売り上げの約3分の1を盆花のアスターがしめていたが(盆の最盛期には1日で1万円以上の売り上げ)、ケイトウは生花とドライフラワーの売り上げを合わせると、アスターと並ぶほどの品目になった。
売れ筋はエキゾチックなトサカケイトウ
ケイトウの品種は、花(花冠)の形にいくつかのタイプがある。あくまで私なりの分け方だが、花が槍(やり)のようにとがるヤリゲイトウと、雌鶏のトサカのようなトサカケイトウ 、鞠(まり)のような形の久留米ケイトウの3つのタイプ。
直売所でよく見かけるのはヤリゲイトウだが、出荷する人が多く、値段も安くなりやすい。
その点、街の花屋さんでも最近人気のトサカケイトウ(私がつくっている品種は「アクト」と「ボンベイ」)は、そのエキゾチックな見た目で直売所の売り場にあると目を引く。タネ代が30粒500円前後と他のタイプよりも何倍も高いせいだろうか、わが町の直売所ではほとんど出てこないので2本200円と高値にしてもよく売れる。
久留米ケイトウはヤリゲイトウと同じく出荷数は多いものの、そのほとんどがよく見かける品種ばかりなので、形や色が変わっていておもしろいなぁと感じた品種のみを選んでつくっている。トサカケイトウと比べると花はたくさん出てくるが、それぞれがやや小ぶりのため、5本で200円。
初心者でも育てやすい
ケイトウの栽培は簡単だ。
ケイトウはヒユ科ケイトウ(セロシア属)の植物。夏になると突然巨大化するノビユやイノコヅチなどの雑草の仲間で、暑いほどに活気づき、日照りが続いて畑が乾燥しても、平気で育つし、農薬なしでも害虫の被害は見当たらない。
また、葉っぱが少なく、草丈もそれほど大きくならないので、フラワーネットなどの支えなしでも強風にも耐えられる。
肥料は、ふつうの花のように元肥をやると、茎が極端に太くなったり、平べったくなったりするので、秋まきのキンセンカとヤグルマソウの畝で、肥料をまかず、追肥もせず育てている。
・栽培スケジュール
タネ袋に書いてある栽培暦は以下の通り。
トサカケイトウはタネ代が高いので、苗をつくり、移植をする。
私の場合は、4月下旬に200穴セルトレイに播種(はしゅ)し、トレイ内に根が回り、しっかりとした“根鉢”ができたタイミングで5月下旬に定植。株間は15センチほど。ネキリムシが多い時期なので、必要に応じてベイト剤(誘因剤)をまく。7月下旬頃から1番花を切り始められる。
販売期間が長い
ケイトウは多肉質の茎に水を貯め込んでいるおかげなのか、切り花として長くもつ。一方で、切った花は水に弱い気がするので注意している。花が水気を含むと黒くなるので雨後は乾かしてから出荷。また、水に浸かった茎がすぐブヨブヨになるので、直売所に並べる際のバケツの水は控えめにする。
1番花を切った後も、9月中旬までは2番花、3番花と連続して花が上がってくるが、1番花と比べると茎は細くて花は小さい。市場なら売り物にならないだろうが、出荷規格がない直売所では、本数を増やしたり、同時期に開花を迎える晩生(おくて)のヒマワリと組み合わせて売っている。
ドライフラワーにして冬も販売
生花も人気なのだが、日陰につり下げてドライフラワーにすれば、秋から冬まで出荷することができる。簡単なやり方なので、プロのドライフラワーと比べると見劣りはするが、スワッグ(ドライフラワーの壁飾り)需要もあって、よく売れる。
ちなみに、9月頃になるとケイトウの花の中に虫(甲虫)が潜り込んでいるので、出荷する前には振ったり、優しくエアダスターをかけたりして、タネとともに落としておく。
自家採種でオリジナル品種も
今年からは、前年に自家採種したトサカケイトウも出荷し始めた。トサカケイトウはタネ代が高いのが悩みだったが、これでたくさんつくることができる。やや花が小さいものが多く、花色もどれも違うが、まいた種子のほぼ100%がトサカ型を受け継いだ。
また、中には葉っぱが光沢のある爽やかな緑で、花がなんとも言えないサーモンピンクの、優しい印象の個体も見つけた。こうして、自分の好きな個体を増やすのも楽しい。
ブーケにも、仏花にも 千日紅(せんにちこう)
ケイトウの他にもドライフラワー向けの花をいくつか育てている。簡単に、2つだけ紹介したい。
ケイトウと同じヒユ科で剛健な夏の花・千日紅。
これにもいろんな品種があるが、紅色とピンク色、白色の花が咲く種子がミックスされた「ネオンミックス」をつくっている。他の品種より少し丈が短いが、3色をバランスよく組み合わせてまとめると、可愛らしいブーケになるし、お盆の時期には仏花に混ぜても使える。
・栽培スケジュール
・肥料
畑の具合にもよるが1平方メートル当たり高度化成肥料をひと握りほど。私の場合は前作(チューリップ)の残肥のみで追肥なし。
・防除
不要。害虫も来ない。
・フラワーネットなどの支え
草丈はせいぜい40センチくらいなので必要ない。
・栽培のポイント
花芽がつく前に先端を切って(草丈20センチ前後の時期)、1本の茎からたくさん枝分かれさせてボリュームを持たせたうえで、なるべく花が大きくなってから切るようにすると、見栄えがいい。
夏の太陽に輝く 帝王貝細工(ていおうかいざいく)
最近はヘリクリサムという名前で出回る、夏に咲く花。その名のとおり、貝細工のような光沢のある花が特徴で、ドライフラワーにしてもほとんど見た目が変わらない。太陽の光が強ければ強いほど輝くためか、快晴の日はすごく売れる。
・栽培スケジュール
・肥料
一般的な花の栽培に準じて元肥を施肥。追肥は、1番花収穫後に少量施肥したほうが、2番花以降の花つきがよくなると思う。
・防除
目立った食害もないので、しない。
・フラワーネットなどの支え
草丈が1メートルほどにもなるので、フラワーネットで支える。
・栽培のポイント
栽培は特別なことはしなくてもよいが、収穫後は花がほとんど開かないため、大きく開いてから収穫したほうが花束としてキレイに見える。ただし、開いたまま放置し、雨に打たれると、花弁に黒いススのようなものが発生し、汚くなるので注意。
ドライフラワーは日持ちがするので売りやすい。それに、ドライフラワーを買ってくれるお客さんの中には、普段は「枯れてしまうから」と生花を買わないお客さんも多数いる。いろんな人をお客さんにして、どんどん稼いでいきたい。