体験価値を売ることで反収向上
「農家の課題解決ゼミ」の第3回が、東京のノウラボセミナールームにて8月28日に開催されました。今回のテーマは、「伝えたい農業の体験価値、観光農園の可能性」です。
第1部はゲストセッション。
まずは特別講師である小野淳さんのゲストトークからスタートしました。
東京都国立市で、「農の未来をもっと面白く」というビジョンを掲げ、さまざまな活動を行っている小野さん。
農家出身ではない小野さんが、農業に関わり始めたのは2004年のことでした。それまでテレビ番組制作会社に勤めていましたが、30歳で農業生産法人に転職しました。
「環境問題の番組を作っていたときに、問題解決に立ち向かう人がいる一方、私自身はフラフラしていることが気になってしまった。自分の生き方こそが問題ではないかと思ってリセットしたくなったのです」
急に飛び込んだ農業の世界は「とても刺激的だった」と小野さんは話します。
2014年に農天気を起ち上げ、現在は、貸農園の運営や、畑を会場にした各種イベントの企画・運営、そしてこれらの活動を積極的にメディアで発信しています。
しかし、小野さんの農園の面積は1反(約10アール)。決して広いとは言えない都市農地で、いかに稼ぐか。導きだした答えが「野菜を売らずに体験を売る」ことでした。
婚活畑、グランピング、忍者体験など、農のサービスを幅広くとらえて活動。これらが多くの人の心をつかんだ結果、運営するコミュニティー農園「くにたちはたけんぼ」は年間5000人が利用しているといいます。
小野さんのゲストトーク後は、講師でありゼミのナビゲーター役でもある佐川友彦さんと、会場からの質問を受け付けながらの対談の時間となりました。
対談:観光農園の可能性について考える
農業でない入り口を設けて畑に人を呼び、農業の裾野を広げる
佐川:限られた畑の価値を最大化するための多面的な取り組みは、改めて勉強になりました。なんとなく、最近のスポーツスタジアムに近いところがあると感じました。今、「試合を見て!」だけでは、たぶんファンが増えづらい。そこで、スポーツスタジアムでは、試合以外のイベントを盛り込んだり、ご当地フードなどの凝った飲食メニューを提供するなどしています。試合目的以外の来場者を増やして裾野を広げている。観光農園にも同じことが言えるのだと思います。
小野:そうですね。その例え、私もこれから使わせてもらいたいと思います(笑)。
観光農園のコツ~参加者との質疑応答から
──先ほど「農と、別の物を組み合わせて価値を創る」とおっしゃっていました。悪い組み合わせなどはあるのでしょうか?
小野:組み合わせには、世の中の理解が得られる一定のレベルはあるかもしれません。私も「自分は面白いけど、人によっては不快かもしれない」という二面性を常に意識しています。特に地域との関係は大事で、地域にとって守らなければいけないものもあります。そのバランスを見る。そのために大事なのは、地域活動に参加すること。また、意見を発信したり、受け止める機会を持つことだと思います。
佐川:私も地域活動への参加は、大事なポイントだと感じます。消防団やボランティアなど地域活動に関わることで、理解も生まれ、来てくれる人も増えると思います。
──観光農園は集客が肝になると思います。小野さんはどのように集客をしていますか?
小野:一つは、目立つこと。これはわりと簡単です。何かの手段を考える際、よくある選択肢の上位から5つではなく、7つ目、8つ目のものを選ぶ。私がやっている、畑での忍者体験は正にそれ。取材を受ける際も、ほとんどの方が忍者の話を聞いてきます(笑)。目立つものに人は引っ張られます。
佐川:他に、集客に関して気をつけていることはありますか?
小野:集客自体は大変でストレスですから、いかに無理をせず集客するか。楽をする意味で、マーケット・お客様を多く持つ会社と組み、任せてしまうことも一つ。また、チラシをつくったり、ホームページの更新は当然やっています。しかし、それでも反響が悪いものはあります。ただ、そこでさらに無理して頑張ってもつらい。結果、集客できなかったイベントをやる虚しさたるや……。
佐川:無理な目標を立てるのではなくて、無理ない範囲でやれるようにイベント設計をするとか、それでも無理ならうまく手を引くことですかね。
小野:あとはリピーターが大事。ファンを作っていくことです。
佐川:農家の直売でもそうですよね。優良顧客にはサービスしたり。リピーターが一定数いれば、事業は継続できると思います。
──農業に関心のない方には、どのようにアプローチしていけばいいでしょうか?
小野:うちではバーベキューの際、野菜を見て喜んでくれても、多くの人は肉ばかりを食べる。「野菜には価値がある!」と主張しても、それはたぶん変わらない。ならば、いっそ引き立て役で、肉をおいしく食べるための野菜といった考え方もあります。こちらが伝えたいことが先ではなく、向こうが聞きたい何かを感じ取ることだと思います。
佐川:伝えたいことがあるのは、プロとして当然。ですが、それを押しつけるのではなく、関わってくれる人の本音に向き合うのが先かもしれませんね。
小野:そうですね。また畑に足を運んでもらうために、例えばどうすれば子どもたちはお母さんに「また連れてって」と言ってくれるかを考える。そのためには、肉が主役でもいいという気持ちです。お客様は、こちらが思う本筋と違うことに感動していることもありますから、それを見過ごさないことです。
会場からの質問は止まず、盛況のなか対談と質疑の時間は過ぎ、第1部は終了しました。
テーマに沿ったディスカッション
第2部では、佐川さんを講師にグループワークを行いました。
今回のテーマに合わせたお題は、「グループの誰かの農園を舞台にイベントを企画しよう」。テーブルごとに初対面同士の参加者が、具体的な一人の農園を舞台に設定し、イベントの名前・内容、さらにターゲット、料金、行程などを具体的にディスカッションしました。最後にはグループごとで発表を行い、参加者同士それぞれが刺激を受け合いました。
参加者は、第1部から知識を得ただけでなく、それを振り返りながらの第2部の具体的なワークショップによって、さらに理解が深まったことでしょう。
今回も好評だった「農家の課題解決ゼミ」。次回もぜひご参加ください。
▼10月29日(木)開催の第4回は、「農家の困りごとプレゼン大会&課題解決講座」と題して、実際にお困りごとのある農家さんから、
それぞれが今向き合っている課題や悩みを参加者の皆さんに共有(プレゼンテーション)していただきます。佐川氏や参加している皆様から意見や解決案を頂き、それぞれ抱えている課題を解決します。
お申し込みはこちらから