雰囲気に流されず主食米を増産
小田嶋さんの農協運営で最近、異彩を放ったのが、2018年に農林水産省が実施したコメの生産調整(減反)の見直しへの対応だ。
農水省は毎年、都道府県に対して主食米の生産量の上限を指示してきた。上限を段階的に引き下げることで、生産量を減らしてきた。コメ消費の減少に対応し、米価の下落を防ぐのが目的だ。約半世紀にわたって続けてきたこの仕組みを、2017年を最後に廃止した。
この改定に対し、相反する予測が事前にあった。国が上限を指示しなくなるので、増産の動きが盛んになるとの見方が一つ。これに対し、上限の指示はなくなっても、コメを家畜のエサに回したときに出す補助金は残るので、実態は変わらないという見通しもあった。
結果はほぼ後者の形になった。自治体や農協が連携して主食米を減らす計画を作り、多くの生産者がそれに従った。制度による強制ではない。食生活の変化や人口減少でコメ消費は減り続けているので、産地がいっせいに増産に走ればコメが余る。自治体も農協も農家もそのことを懸念した。予想通り、飼料米の補助金が計画の達成を大きく後押しした。
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管内のコメの生育状況を確かめる小田嶋さん
多くの産地のこうした行動は一見、合理的に見える。だがよく考えてみれば、民間の経済活動として疑問符がつく。すべての産地が同じ競争力を持っているわけではないからだ。おいしいコメの生産に適した気候かどうかや、生産と販売の両面にわたる産地の努力次第で、競争力には大きく差が出る。
市場は縮小していても、競争力に自信があるなら、制度の見直しをきっかけに攻めに転じるという選択肢もある。それを検討してみるのが民間の本来の姿だ。だが制度による強制はなくても、農協の間では「抜け駆けは認めない」との雰囲気が強く、ほとんどは制度が変わる前と同じ対応を続けた。
例外がJA秋田ふるさとだ。小田嶋さんは農協内部のムードを気にせず、「秋田はコメの主産地。生産を増やして当然」と言い切った。主食米の作付面積を2018年は前年比で19.1%増やし、2019年も同2.1%増やした。
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2015年撮影。当時からコメの増産への意欲を語っていた
小田嶋さんは2018年になって突然、増産を決めたわけではない。