接客術を学んで、消費者も生産者も幸せになる直接販売をしよう
お客様に直接お買い求めいただく農家直売は、感謝の言葉をいただいたり、喜んでいただいた顔を拝めたりするので、生産者冥利に尽きます。お客様との談笑が好きで、対面接客にやりがいを感じている方もいらっしゃると思います。作ったものを自分で手売りすることを夢に農業を志された方もいらっしゃるでしょう。農家の直売には大手スーパーのような品揃えや利便性はありません。お客様とのコミュニケーションが強みであり生命線です。応対スキル次第で、販売成績も接客の負担も大きく変わります。今回は店頭接客と電話応対の2本立てで、お客様も私たちも幸せになれる接客術を学びたいと思います。
「売れる販売員が絶対言わない接客の言葉」から学ぶ、お客様を幸せにする言葉づかい
農家の軒先直売所は、大半のお客様にとっては非日常で、何もせずとも体験価値の高いイベントです。目当てがあってお越しになるわけですから、何も買わずに帰られる方はめったにいらっしゃいません。おいしくて新鮮な食べ物が手に入るだけで、満足度も高いでしょう。その分、おろそかになりがちなのが接客スキルです。みなさんは、お客様とどのように会話されているでしょうか。
今回紹介する「売れる販売員が絶対言わない接客の言葉」は、アパレルショップ(衣服の小売店)の販売員をモデルに、店頭でのお客様とのコミュニケーションを取り扱った接客ノウハウ本です。「最初のお声がけ」から「商品説明のコツ」、「決め手になる言葉でひと押し」など、私たちが自己流でやりくりしているような会話術が、考察を添えて網羅されています。言葉づかいだけではなく、店員側の姿勢や態度、お客様を観察するポイントなど、五感を使った接客の基本が語られています。
単なる商品の引き渡しではなく、お客様の心を満たす購買体験にできれば、再来店(リピート)していただける確率が高まります。買おうとしている商品以外にも、例えば6次産業化で作った加工食品などもおすすめすれば、客単価が上がります。こうしたクロスセル(他商品の追加購入を提案すること)やアップセル(高単価商品への切り替えを提案すること)による客単価向上施策は、一般の小売店では相当に研究された上で実施されています。接客という視点だけでも、農家の軒先直売所が売上を増やすためにできることはまだまだ残されているように思います。「思ったように販売成績が上がらない」という方は、会話から接客を再チェックしてみるのはいかがでしょうか。
効果的な接客トークは他にもメリットがあり、スムーズなご案内で1人あたりの対応時間が短くなったり、トラブルが少なくなって私たちの心理的負担が少なくなったりします。来客の多い繁盛店の方や、接客でつい消耗してしまう方にも、本書は効果てきめんです。
売れる販売員が絶対言わない接客の言葉
著者:平山枝美
出版:日本実業出版社
「督促OL 修行日記」から学ぶ、電話応対の本質
店頭接客と並んで苦心するのが電話応対ではないでしょうか。ご注文内容やお客様のご希望を不足なく聞き取るだけでも、慣れるまでに時間がかかります。電話でのやりとりが好印象で上顧客になっていただくこともあれば、上手に思いを伝えられずに関係が途切れてしまうこともあります。ご年配のお客様が多い青果物販売は、インターネットショップでの受注に一本化というほど割り切れず、まだまだ電話でのご注文が主戦場です。
注文を取り付けるだけならまだいいのですが、お客様との厳しいやり取りもつきものです。こちらの落ち度でクレームをいただいてしまったり、逆にお客様に入金を催促しなければならなかったりします。商品である青果物の傷みがあった場合に、責任の所在をお互い納得できず、平行線の議論を続けることもあります。お客様とこちらの対立した利害を調整するのは直売力が問われる瞬間です。
さて今回紹介する本書は、実は接客販売についての内容ではなく、キャッシングローンの支払督促をする電話オペレーターの、生々しいノンフィクション・ドキュメンタリーです。債権回収というプレッシャーの強い領域だからこそ、人間の本性があらわになり、電話応対の機微や本質を考えさせられます。著者が苦しい案件を乗り越えながら適応していく足取りには、直売農家は膝を打つ手が止まらないのではないでしょうか。ときにはお客様の難しい要望やクレームにも向き合わなければいけない直売だからこそ、本書から電話口でお客様の心情と向き合う姿勢を学んでいただければと思います。
さすがはローンの支払督促、理不尽な場面ばかりで涙が出ます。相対的に「うちのお客様は親切だな。優しいな」と思えれば、苦手意識や負担感もなくなるでしょう。
督促OL 修行日記
著者:榎本まみ
出版:文芸春秋