農業界を変えるコンサルタントの存在 次世代経営者をバックアップ

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農業界を変えるコンサルタントの存在 次世代経営者をバックアップ

連載企画:農業経営のヒント

農業界を変えるコンサルタントの存在 次世代経営者をバックアップ
最終更新日:2020年02月17日

農業界で役割を発揮してほしいと以前から期待している仕事がある。コンサルティングだ。農協や自治体が無償で手がける営農や栽培の指導のことではない。農業法人が専門性の高い指導に対してしかるべき対価を支払う。その結果、農業法人の経営が発展し、コンサルティング会社もその対価で経営が成り立つ――。仲野真人(なかの・まさと)さんは大手証券会社を辞め、2019年4月に食農夢創(横浜市)を立ち上げてそんな道に挑戦し始めた。

金融業界からみた農業ビジネス

仲野さんは2005年に野村証券に入社した。就職氷河期がまだ続いていたころで、中小企業も含めて100社以上面接を受けたという。とくに興味があったのが、金融関係の仕事。その念願がかなって大手証券会社に合格し、株や投資信託、債券などを販売する証券マンとして社会人生活がスタートした。

転機は2011年。野村証券が前年に設立した野村アグリプランニング&アドバイザリーに、希望して出向した。父親が食品メーカーに勤めていて、親戚がスーパーで魚をさばく仕事をしていたことなどもあり、食に関する仕事にはある程度関心があった。だが、手を挙げた理由はそれだけではない。
外国の債券を販売する際、セールストークで食料問題について話すことがあった。例えば、オーストラリアドル債を販売するとき、豪州は食料自給率が高いという点を強調した。日本は自給率が低いので、食料危機が起きたときに資産のリスク分散になるというのが購入を勧めた理由だ。そんな経験から、「農業はこれからもっと重要になるのではないか」と思っていたという。

「現場での事例調査が根幹にあります」と話す仲野真人さん

野村アグリプランニング&アドバイザリーでの仕事は、自治体の依頼で農業法人の経営に助言したり、資金調達の支援をしたりすることなどから始まった。機能性表示食品や植物工場の市場調査なども手がけた。できたばかりの会社だったため、当初は「何しに来たの」という顔で見られることもあったが、経験を積むうちに農業分野への知見が深まっていった。

仲野さんにとってとくに重要だったのが、野村アグリプランニング&アドバイザリーが農林水産省から「6次産業化アワード」の仕事を受託したことだ。6次産業化は1次産業である農業と、2次産業の加工、3次産業の販売が連携したり、農家が自ら加工を手がけたりすることを指す。6次産業化アワードは優良な事例を表彰する事業で、仲野さんはその企画や運営を任された。
この仕事が仲野さんにとって大きな意味を持ったのは、徹底した現場主義で各事例の中身を調べたからだ。例えば、「全国66カ所を回り、その中から6事例を選んで表彰した」(仲野さん)。現場に足を運び、自分の目で確かめることで、6次産業化にとって何が必要かを理解していった。

この仕事を通し、仲野さんは各地の有力な農業法人とのネットワークを築くことができた。仲野さんと話していると、全国的に有名な農業法人の名前が次々に飛び出す。その人脈は独立後の仕事で大きな財産になっている。

コーディネートの様子。右から2人目が仲野さん(写真提供:仲野真人)

退社を決断したのは、本社に戻ることが決まったのが直接のきっかけだ。担当は、新規株式公開(IPO)を希望している未上場企業の支援。もし勤務地が地方なら、引き続き1次産業に関わることも可能だった。だが東京勤務では、対象企業はIT関連のベンチャー企業などに限定される。

ちょうど2019年4月に、明治大学グローバル・ビジネス研究科への入学を控えていた時期でもあった。仕事を続けながら、マネジメントやマーケティング、サプライチェーンについて専門的に学ぶことで、現場で積み上げた知識を補完したり、学術的な裏づけを得たりするのが目的だった。
「農業分野をもっとつきつめたいと思い、ビジネススクールに行くことを決めました。そこに通いながら、違う分野の仕事をやるべきなのだろうかと思ったんです」。仲野さんは当時の心境をそうふり返る。妻の「自分の好きなことをやったら」という言葉にも背中を押され、野村証券を退社した。

農業者が見えていない農家の課題

現在の仕事の柱の一つは、行政が関わる事業の受託だ。地産地消の優良事例を表彰する農水省の事業の事務局の仕事を大手企業と一緒に引き受けたり、自治体による農家の支援事業をコーディネートしたり。一方で、農業法人の資金調達や販路開拓の助言も手がけており、仲野さんは「農業法人が払うコンサルタント料で事業が成り立つようにするのが目標です」と語る。

大きな武器になっているのが、豊富な事例を背景にした6次産業化に対する理解だ。例えば、農業者が自ら農産物を加工すれば利益が増えると一時思われていたが、実際は失敗するケースが少なくなかった。そこで最近は、加工会社や販売会社と農業者が連携すればいいという意見が強まっている。だが、仲野さんは「大切なのはそこではなく、農業者がしっかりといいものを作ることです。その土台がなければ、6次産業化はうまくいきません」と強調する。

コンサルティングの様子(写真提供:仲野真人)

仲野さんがとくに重く見ているのが、加工会社や販売会社が農業者に対して抱いている次のような疑問だ。「農家が自分で売ることができないようなものを、なぜ我々なら売ることができると思うのか」「自分の作った農産物の強みが何かをわかっているのだろうか」「農家が自分でピーアールできないものを、なぜ我々が農業者に代わってできると考えるのだろう」

もし土台がしっかりしていれば、農業と他の産業との間にこうした溝はできないと仲野さんは指摘する。必要なのは、農業者が自らに欠けているものを補うために他産業と組むのではなく、強みをフルに発揮するために連携するという発想だ。その選択肢には、自ら加工することも入ってくる。
「農家がスーパーと栽培契約を結んで出荷する。自分たちで直売所で販売する。野菜をカットしたうえで食品メーカーに出す。原材料のままで出す。自分たちでレストランを運営する。さまざまな選択肢を視野に入れて、その中から選ぶのが6次産業化です」(仲野さん)。農業者が自らの強みを理解することがその前提。仲野さんにとっては農業者にそうした気づきを与え、仕組みをつくるのをサポートするのがコンサルティングの重要な仕事だ。

農業法人や水産関連企業などの異業種交流会(写真提供:仲野真人)

農業コンサルティングの可能性と次世代への希望

いま37歳の仲野さんがサポートすべき対象として意識しているのが、自分と世代があまり変わらない、30~40代の経営者だ。彼らの父親の世代には小さい経営から出発して事業を拡大したり、加工に進出したりした人が少なくない。誰かに教えてもらったわけではなく、長年の経験で「経営とは何か」を体で覚えてきた。

仲野さんによると、その後を継いだ30~40代の経営者の中には「経営のことがよくわからずに悩んでいる人が多い」という。大学を出ている人は結構いるが、経営学を専門で学んだ人は少数派。父親の世代と違い、事業を大きくする過程でゆっくりと経営のことを理解することもできない。

一方で、ビジネスチャンスがあれば柔軟に連携して、他の経営者と一緒に事業を立ち上げるのが彼らの特徴。「一国一城のあるじ」で、独立独歩の経営者が多い父親の世代にはあまりない行動パターンだ。しかも「好奇心がとても強い」(仲野さん)。だから、進んで人からアドバイスを受けようとする。豊富な人脈とコンサルティングのノウハウを持つ仲野さんの出番だ。

講演風景(写真提供:仲野真人)

仲野さんの目標はその先に広がる。全国各地の若い経営者たちをつなぎ、ネットワークをつくる。そのうえで、彼らの農産物を販売する会社や加工する拠点などを地域ごとにつくる。同じ農産物を年間を通して切れ目なく供給するための産地間リレーではなく、さまざまな農産物を扱う生産者連合だ。もちろん、そのパートナーには2次産業や3次産業の企業も入る。

「彼らは上の世代と違い、『困窮から抜けだそう』などの動機でやっているのではありません。経営を継ぐ意志はあっても、どうしたらいいのかわからない。農業界はいま過渡期にあるんです」。仲野さんのこの言葉は、父親から経営のバトンを託された経営者たちのひ弱さを言っているのではない。
カリスマ性を持った特別な人だけが大きくなるのではなく、もっとふつうの人たちが経営を担う。農業は「ふつうの産業」になるためのプロセスの途上にあるのだろう。彼らを支援したいと思う仲野さんのような存在が登場したことは、そうした農業界の未来の希望を示しているのだと思う。

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「食と農」の現場を日々取材する記者が、田畑、流通、スマート農業、人気レストランなどからこれからの農業経営のヒントを探ります。

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