北海道でタマネギ農家の大規模経営
中村さんが経営する新篠津つちから農場(石狩郡新篠津村)は札幌市の東北の方角、JR学園都市線の北海道医療大学駅から車で十数分のところにある。
筆者が訪ねた12月中旬は、農作業がすでに終わり、道の両側の広大な畑を雪が覆っていた。農場に近づくと、黒々とした堆肥(たいひ)の山が2つ、こんもりと盛ってあった。原料は稲わらと鶏糞(けいふん)。中村さんが最も大事にしているのが、この堆肥を使った土づくりだ。
中村さんはここで従業員として8年間ほど働いた後、今から10年前に社長に就いた。品目はタマネギが中心。農薬や化学肥料を使わない有機栽培と、両方の使用量を減らす特別栽培を手がけている。

畑のすみにあった堆肥の山
面積は20ヘクタールで、10年で2倍に増やした。しかもそれだけでは売り先の需要に応えられず、10軒の農家から40ヘクタール分のタマネギを仕入れて販売している。タマネギ農家としては有数の大規模経営だ。
今回の取材は、両親とも公務員という非農家の出身で、北海道で新規就農した中村さんの取り組みを聞くのが目的だった。最近は都市近郊で小規模で就農する人が増えている。そこで、農業の魅力の一つである広大な自然の中で作物を育てる醍醐味を、改めて確認したいと思ったからだ。
だが、インタビューが終盤にさしかかったころ、中村さんの口から予想もしていなかった言葉が飛び出した。「3年後には従業員に経営をバトンタッチしたいと思っています」。中村さんは今年55歳。農業経営者としてはバリバリ現役の年齢だ。なぜ退くことを決めたのか。