背景~農業持続の強い意思から、『密苗』にチャレンジ~
農業を取り巻く環境が大きく変化していく中で、経営を持続するためのコスト削減要求が高まっていますが、加えて、規模拡大や高齢化に伴う労力削減も求められており、その中で生まれた技術が『密苗播種・移植システム』※2です。
水稲生産において、トラクタ、田植機、コンバインなど主要な作業は機械化が進んでいますが、育苗から移植までの春作業は播種、育苗、本田整地、移植と、最も過密繁忙で労働ピークであり、依然として人力によるものが多いのが現状です。
実際に作業別労働時間の約30%は種子予措・育苗・移植で占められており、生産コストで最も高い労働費(全生産コストの30%超)のうち、育苗・移植が20~35%と最も大きく、この比率は規模の大きい経営体ほど大きくなっています。
これは、近年の稲作経営の大規模化に向けた制限要因にもなっています。
このような背景のもと、ヤンマーでは先進農業者、石川県農林総合研究センター、ヤンマー株式会社の三位一体で2012年より開発をスタート。
2013~2014年に栽培技術、機械技術の試験を重ね、基本的な技術体系を構築。2015年、2016年には現地実証栽培を開始し、2017年シーズンに向けて密苗仕様田植機の販売を開始いたしました。
密苗移植栽培技術の概要
『密苗』とは、育苗箱当りの乾籾播種量が通常100~150gのところを、250~300gと高密度に播種。さらに、育苗した育苗箱をヤンマー独自の技術で慣行法と同じように3~5本ずつ精密にかき取り、これまでの田植えと同様に正確に移植する技術です。
播種及び育苗方法は、種子消毒や浸種などの種子予措や播種後の出芽、育苗管理は慣行法と同様で、使用する育苗箱や育苗培土などの資材や加温出芽機、ビニールハウスなどの施設も慣行法と同じでよく、無加温出芽育苗やプール育苗も可能です。
密苗栽培技術の導入にあたっては、育苗箱に高密度に播種することが可能な播種機と密苗移植に対応した田植機が必要となります。
播種機は高密度対応播種機を導入するか、既存の播種機の部品交換または追加の播種ホッパーを導入する方法もあります。
『密苗』によって、繁忙期の春作業時期において投下労働力の大幅な削減が可能。慣行法と変わらない栽培管理が可能。収量は慣行移植と同等水準であることにより、稲作経営における飛躍的なコスト低減を図ることができます。
『密苗』導入による効果
密苗移植栽培技術では単位面積あたりの移植に使用する苗箱数を大幅に削減可能です。
例えば、本州での一般的な栽植密度の50株/3.3㎡で1箱あたり乾籾300g播種で移植した場合、移植に使用する育苗箱数は10aあたり5~8箱程度となり、乾籾100gの播種量に比べ、約3分の1に低減できます。
これは、同じ水稲栽培面積であっても、『密苗』の場合、育苗に必要な育苗箱や育苗培土量が慣行の3分の1で済み、ビニールハウスの使用面積あるいは必要棟数も 3分の1に削減できます。
また、育苗箱の運搬や育苗管理に要する労働時間も削減が可能となります。(※水稲30ha経営で、播種量を慣行100g/箱、密苗300g/箱として試算した場合。)
「密苗」のメリットは、低コスト化と省力化
密苗の導入には難しい技術や特殊な知識は不要です。慣行栽培とほぼ同じ管理方法で、規模や地域、品種にかかわらず、どんな方でも導入いただけ、収量も慣行と同等です。
密苗の最大の特長は育苗箱数が減ること。今までと同じ面積を少ない育苗箱で植えることができるので、育苗箱や培土などの資材費が減り、播種や苗運びにかかる時間が減り、人件費や、重労働による身体的負担も軽減されます。
注:
※1『密苗』はヤンマーの登録商標です(登録第5864399号)
※2『密苗移植栽培システム』は、農事組合法人アグリスターオナガ、株式会社ぶった農産、石川県農林総合研究センター、ヤンマー株式会社の共同研究により開発しました。
■本技術開発の一部は、「攻めの農林水産業の実現に向けた革新的技術研究展開事業」(農業生産法人が実証するスマート水田農業モデル:IT農機・ほ場センサー・営農可視化・技能継承システムを融合した革新的大規模稲作営農技術体系の開発実証)によって実施しました。
ヤンマーアグリ株式会社
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