野菜、ハーブ、食用花200種類を栽培 農家がシェフに「提案する農業」を

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野菜、ハーブ、食用花200種類を栽培 農家がシェフに「提案する農業」を

野菜、ハーブ、食用花200種類を栽培 農家がシェフに「提案する農業」を
最終更新日:2020年02月14日

石川県の能登半島中部で、マイクロリーフなどの珍しい野菜やハーブ、食用花(エディブルフラワー)を計約200種類栽培する「あんがとう農園」の明星孝昭(みょうせい・たかあき)さんの畑にお邪魔しました。海外で出会ったとある「夢」の実現の第一歩として、農業を選んだという明星さん。農家からシェフに使い方を提案して、創作意欲を刺激し「提案型農業」を目指しています。その秘策とは?

プロフィール

明星孝昭(みょうせい・たかあき)さん(40)
石川県中能登町生まれ、非農家から就農10年目。伝統種・固定種など珍しい野菜やハーブ、エディブルフラワー計約200種類を、3ヘクタールの畑で無肥料・無農薬栽培する。販路は飲食店中心。海外生活で出会ったオーベルジュ(宿泊型レストラン)を作り、地元を盛り上げることが夢。

目指すのは「提案型農業」

能登半島の真ん中に位置する中能登町の「あんがとう農園」。農園主の明星さんに迎えられてハウスに入ると、香りの良いハーブや花が生い茂る‟庭園“が目の前に広がった。

「食べてみませんか?」

不意に、明星さんがコスモスを手折って差し出してくれた。
提案に少したじろぐと、「うちは食べられるものしか作っていませんから」と、明星さんは朗らかに笑った。

初めて食べるコスモスの花は、意外にも酸味があって爽やかな印象だ。トマトやツルムラサキなど野菜の花は、野菜そのものの味がして驚いた。蜜の量や花びらの食感など、それぞれが個性を持っていて、何よりおいしい。

ツルムラサキの花。おひたしに載せると一気に華やぐ。

得意先は、オーナーシェフなど飲食店関係者だ。全国から見学に訪れる彼らを連れて、野菜やハーブ、エディブルフラワーの特徴を丁寧に説明しながら、4つの畑をツアーして回る。

隣の畑では、牡蠣のような風味がするオイスタープラントや、名前通りスパイスの香りがするシナモンバジルなど、個性的なハーブが出迎えてくれた。ミントだけでも、スペア、オレンジ、パイナップルにチョコレートミント……と、10種類以上が植えられている。

‟畑ツアー“の良さは、最も新鮮な状態で試食をしてもらいながら、使い方までじっくりとプレゼンできることだ。「これはデザートに添えるとアクセントになりますよ」、「白身魚に合わせると最高」。料理人の経験を持つ明星さんの説明が、シェフの創作意欲を刺激する。4つ目の畑を見終わる頃には、シェフの頭には新しいメニューのアイディアが湧き出てくる。「使い方を飲食店に提案することが、うちの農園の目指す姿です」と明星さんは言う。

次第に「こんな料理を作りたいのだが、合う野菜やハーブを作ってくれないか」とシェフから相談が届くようになった。要望を受けるとすぐに試作して形にするスピード感が、信頼を集める理由だろう。例えば、可憐な白い花を咲かせるエルダーフラワー。北欧では古くから民間療法で使われるおなじみの植物だが、味も良い。依頼をきっかけに作り始めてから、他の飲食店からの問い合わせが相次いだ。

得意先のイタリア料理店シェフによる、あんがとう農園のハーブをふんだんに使った料理。

休日は金沢や東京で評判の店を巡り、素材の使われ方を研究しながら人脈を広げる。「これからは農家も食べ歩かないと」と労を惜しまない。

海外放浪で見つけた‟田舎の可能性”

就農10年目。「やっとやりたい農業ができて、楽しくて仕方がない」と話す明星さん。

幼いころから好奇心旺盛だった。専門学校を出て20歳で美容師になるが、「30歳までに色々な社会を見よう」と東京で料理人として、韓国の有名企業ではエンジニアとして働く。貯まった資金を使って、国内外を旅してまわった。

豪州、ニュージーランドにそれぞれ1年以上滞在。そこで世界中から集まった仲間とともにピッキング(収穫作業)のアルバイトをし、農業の楽しさを知った。

豊かな自然に囲まれたB&B(ベッドアンドブレックファスト:朝食付きのペンションのような宿泊施設)やオーベルジュ(宿泊型レストラン)を泊まり歩いた。地元食材を使った料理や、束の間の田舎暮らしを目的に観光客が集う「ガストロノミーツーリズム」に触れ、「田舎は可能性にあふれている」と気付かされたという。

栽培方法は「色々と試しましたが、自分の子が生で食べられる野菜を作ることに行き着いた」と無農薬・無肥料をメインに。ただし「おいしく作るのに必要なら肥料も使う」と柔軟だ。

帰国後、「20代の頃は田舎過ぎて嫌いだった」というふるさと・能登の魅力が目に映るようになった。いつの日か海外で見たオーベルジュを作って、地元を盛り上げたい――。30歳で抱いた夢に向けた最初の一歩に、明星さんは農業を選んだ。

ポテンシャルを感じるものだけ作る

県内の米農家で修業後、「色々なものを作ることが性格に合っている」と多品目野菜農家として独立就農する。栽培は独学で習得。当初はもうからず、ガス検針のアルバイトで生活費を賄った。給料は歩合制のため、ひと月1000軒を徒歩で訪問した。農作業の合間にひたすら歩いていた当時を、「辛かったですよ」と苦笑いして振り返る。

10種類のハーブミックスは作るのに手間が掛かるため、販売曜日を限定して効率化を図っている。

独立1年目は、年間60種の野菜を栽培。差別化を意識するうちに、ハーブとエディブルフラワーの数が70種類に増えた。「作るのが面白くて仕方がない」と、多い年には計300種類を栽培していたが、徐々に数を絞って効率化した。選定基準は「みんなが作っていなくて、ポテンシャルがあるもの」。飲食店からの需要が高いベビーニンジン・カブ、マイクロリーフ、「エアルームトマト」と呼ばれる海外産の固定種などが出荷場を賑わせる。逆に、近年スーパーでも定番化したズッキーニなどは生産リストから外した。

要望があれば小ロットでも販売する。スタッフがセンス良く詰めたのは、おまかせのエディブルフラワーセット。

10年目の今、仲間は5人に増えた。農家を志して全国から集まった彼らが、生産管理や出荷、加工やSNS発信などを担う。「自分では浮かばないアイディアが出るので、チームでやった方が絶対にいいものができる」。今年、力を入れるのは加工品だ。自信作は、近隣の生産者が作るウメやハチミツなどを使い、無農薬ハーブで香り付けした100%能登産シロップ「コーディアル」。炭酸水や酒と割ったり、料理に使える幅広さと健康効果を売り込んでいくつもりだ。

季節のエディブルフラワーを入れた野菜セットを消費者向けにネット通販している。

最近は高齢で継続に悩む農家から、畑地や養蜂の継承を頼まれるまでになった。地域の信用を集めながら、着実に、そして貪欲に前進する明星さん。屋号に「ありがとう」という意味の方言を掲げた理由は「おごらず、感謝を忘れないように」だと言う。自然の恵みを求める人たちでにぎわう能登の未来が、前を見据えた瞳に映っていた。

(商品・料理画像はあんがとう農園提供)

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