スイカ栽培の基礎知識
スイカは暑さに強く、比較的病害にも強いため思いのほか作りやすい作物ですが、家庭菜園中級者の人でも難しさを感じる野菜かもしれません。
というのも、たくさんの実が着けば大満足できるキュウリやトマトとちがって、スイカには「甘さ」が求められるからです。放任栽培でも収穫することはできますが、「甘いスイカ」を作るには摘果や玉回しなどいくつかの重要な管理作業を行うことが必要です。また、スイカは一株から2~4個しか収穫することができません。そのため、実割れやカラス、アライグマといった害獣の食害を予防する策をしっかりすることも大切です。
スイカの種類と特性
スイカは大きく「大玉スイカ」と「小玉スイカ」に分けられます。大玉スイカはつるが広く伸び、重量も5~10キログラムほどになります。そのためネット栽培は難しく、地這いで十分な面積が確保できるかどうかが栽培の決め手でもあります。1株に3平方メートル取れれば問題なく育つでしょう。一方、小玉スイカは2キログラム前後と手頃なサイズで、プランター栽培やネット栽培も可能です。ただし、小玉でもかなり旺盛に茂ってくるので、プランターの場合はできる限り大きなプランターを使うことをおすすめします。
栽培に適した時期と気候条件
スイカはアフリカの赤道地帯が原産で、日光をたっぷり浴びて育つ、日なたが大好きな植物です。そのため日当たりの良い場所が栽培に適しています。もともとは砂漠地帯でも生育できる乾燥に強い作物ですが、湿害には弱いので水はけのよい土壌を用意してあげましょう。寒さに弱く暑さに強い性質のため、遅霜の心配がなくなった5月の連休明けくらいが植え付けの適期です。植え付け直後は行灯や苗キャップで保温してあげると、生育がよりスムーズに進みます。
初心者でも用意しやすいスイカ品種
苗はホームセンターで入手することが多いと思いますが、その場合は限られた品種の中から選ぶことになるので、苗の説明書きを見て、自分の好みや育てやすさを検討してください。トンネル栽培か、露地栽培か、皮が薄く割れやすいか、種があるか、病気への耐性など品種によって違いは様々です。ネットで注文する場合はタネから育てるので保温などの管理が必要です。小玉で種まで食べられる「ピノ・ガール」や、黄色い果肉がひときわ目立つ「金色羅王」などいろいろな品種を育てるのも楽しいでしょう。
スイカ栽培に必要な道具と準備
スイカは大きく成長するので、広い栽培スペースが欠かせません。また、日照が多いほどよく育つので、日当たりがよい場所を確保しましょう。地温の上昇や雑草防止にはマルチがおすすめです。植え付け部分にマルチをして、残りは敷きワラをする方法もあります。敷きワラ敷いておくと雑草防止のほか、つるがワラに巻き付いて安定する、実が地面に直接触れるのを防ぎ腐敗防止にもなるなどのメリットがあります。農薬使用をできるだけ抑えたい人は虫除けネットや寒冷紗を使うとよいでしょう。立体栽培の場合は、スイカの重量に耐えられるように丈夫な支柱とネットを用意します。
スイカの栽培歴
5月に植え付け、7~8月の夏休みシーズンに収穫です。スイカ栽培は接ぎ木苗をおすすめしますし、一株だけでも広いスペースを専有するため一袋の種を購入すると広大な面積を必要としますので、5月の植え付け時に必要な分の購入苗を利用しましょう。
スイカの土づくり~畑の準備~
スイカの栽培には大きな面積を必要とします。ネットにはわせて空中に仕立てるのであれば普通の野菜と同じ面積でよいですが、地面にはわせるのであれば畝幅2.5メートル、一株あたり80センチ程度の株間隔が必要になるので、それを見越して植え付ける場所を選びましょう。
今まで何も植えていなかった畑であれば、植付2週間前には1平方メートルあたり堆肥(たいひ)10キロと苦土石灰100グラムを土に混和してよく耕し、1週間前には元肥に化成肥料50グラムを混ぜて畝を立てておきましょう。
ただ、普段から作付けしていて肥料成分が土に残っている畑を利用する場合は、堆肥だけにしておいて、1回目の追肥から肥料を与えるようにしても構いません。そちらの方がうまくいく場合も多いと思います。
立てた畝にはマルチシートを張っておくことをおすすめします。
スイカの植え付け
スイカを植え付ける際は、仕立て方にもよるのですが、畝の真ん中ではなく、通路側に寄せて植え付けましょう。
摘心などの管理作業がやりやすくなる他、追肥を通路にばらまくだけで届くようになり、作業性が良くなります。
スイカの摘心とつる管理~仕立て方~
スイカを植えて、最初に伸びてくるメインのつるのことを「親づる」と呼びます。親づるの節々から発生するわき芽のことを「子づる」と呼び、更にその子づるから発生するわき芽を「孫づる」と呼びます。
親づるを利用する方法もあるのですが、今回は分かりやすいように、果実を子づるだけに着果させる一般的な方法をお伝えします。
まず、親づるの葉っぱが6節(葉と葉の間隔を1節として計算します)のところで先端を切ってしまいます。こうすることで親づるはそれ以上伸びることができなくなってしまい、子づるへと未来を託します。
いくつか子づるが成長するのですが、元気の良い3本を残して、他の子づるは根元から切除します。
この3本の子づるのどれかに大玉1個の実をならすのが今回紹介するスイカ栽培となります。2果収穫する場合は4本の子づるを用意します。小玉スイカの場合は、それぞれのつるに1個ずつ、4個以上収穫することも可能です。
つるの先端を20センチ間隔で並べて、葉にしっかり光が当たるように配置します。葉に光が当たるほど、スイカは甘くなります。
スイカの追肥
はじめてのスイカ栽培の場合は、順調に成長しているように見えれば、花が咲き始めたことを確認するまでは追肥は控えましょう。花が咲き始めた頃に1回目の追肥を化成肥料で一握り程度、2回目の追肥は、果実の大きさがテニスボール大のときに同量を、マルチを外すか穴を開けて畝の中に散布します。植え付けを通路際にした場合は、通路にばらまいておけば大丈夫です。
スイカの授粉
黄色いスイカの花が咲き始めたら、まずはそれが雌花か雄花かを確認しましょう。雌花の場合は、花の根元に小さなスイカが確認できます。1番最初の花が雌花だった場合は、もったいないようですが摘み取ってしまい、2番目の雌花に授粉させます。
1番目が雄花だった場合は摘み取らずにとっておき、次に咲いた雌花にちょんちょんと接触させて人工授粉をおこないます。
高品質なスイカを望みたい場合は、15~20節の位置に咲いた雌花に着果させましょう。
スイカの収穫は授粉後の日数で判断します。必ず授粉した日を記録しておきましょう。
スイカの摘果
スイカは、授粉が成功した分だけ収穫することができますが、1玉に限定することで大きく丸く、甘いスイカにすることができます。そんなに大きなものは一回で食べられないという場合は、ならせる数を増やしてもよいでしょう。
摘果のタイミングは、授粉後10日。大玉スイカをつくる場合はテニスボールくらいの大きさになったとき、3本のつるから最も形の良いものを一つ選抜し、残りを摘果します。
4本のつるに2玉でも充分に大玉スイカの大きさになります。
玉まわし
スイカは玉の全面に日光がまんべんなく当たらないと奇麗に色がつきません。授粉後20日頃から日が当たっていない面を上に向けて全面に日が当たるように角度を変えます。スイカの玉の下にわらなどを敷いて座布団を用意し、転がらないように納めておきましょう。
スイカの収穫適期
スイカの収穫タイミングははじめての栽培では難しいと思いますが、1~2日ずれるだけでも食味に大きく影響するので重要です。種袋や苗に書いてあった日数を明確に守ることをおすすめします。おおよそ40日前後であることが多いと思いますが、適期になると、果実根元の巻きひげが半分くらい枯れこんでいて、玉に光沢が出てきます。
スイカ栽培でよくあるトラブルと解決法
スイカでよくみられる害虫は
他のウリ科作物と同様、ウリハムシが寄ってきます。適切な農薬をかけるか、無農薬で作りたい場合はひたすら捕殺です。苗を植えて小さなうちは行灯や苗キャップでもある程度防ぐことができます。また、アブラムシやハダニ、アザミウマもよくつく害虫です。アブラムシやアザミウマは吸汁する際に病気の伝播もしてしまうので厄介です。これらの害虫は非常に小さく捕殺が困難なので、ひどい場合はオルトランなどの農薬の使用も視野に入れましょう。
スイカでよくみられる病気は
スイカはモザイク病、炭そ病、つる枯れ病、つる割れ病などの病気が発生しやすい作物です。特につる割れ病には接ぎ木苗が効果的なので、予防のために接ぎ木苗の使用をおすすめします。また、スイカの生育期は梅雨と重なるため、雨の多い時期には病気の発生リスクが高まります。そのため、早期発見と早期防除が非常に重要です。泥の跳ね返りによる病原菌の付着を防ぐには、敷き藁やマルチの活用が有効です。さらに、スイカは湿害に弱いため、水はけの良い畑づくりも病気予防には欠かせません。排水性を高めるためには、高畝にするのが効果的です。
スイカを甘くする方法
スイカを甘くしあげるために重要なことのうち、分かりやすいのは水管理です。水を与えるタイミングを管理できれば、おいしいスイカになりやすいのです。といっても露地栽培になるとどうしても天候の運任せになりますが、授粉後30日以降、水切り(水を与えない)状況を作ることができれば、分かりやすく糖度が高くなります。
また、肥料が効きすぎると糖度が上がらないので、過剰投与だけはしないように気をつけましょう。
スイカが割れる理由と対策
せっかく育ってきたスイカが割れてしまうとショックですが、非常に相談の多い内容です。
露地栽培の場合、主な原因は雨によって急激に水分を吸ってしまうことによります。あくまで急激な水分量の増加が原因ですので、定期的な水やりで、乾燥が続いている状態をつくらないことが大切です。甘くするために水を切って栽培していると、この可能性が高くなってしまうので、甘いスイカをつくるには、常にリスクを伴います。ビニールハウスがあればよいのですが……。
また、直射日光が当たることで割れてしまうケースもあります。色をつけるためには直射日光が必要ですが、授粉後30日までは葉の影から顔を出す程度にしておくとよいでしょう。鳥獣害を防ぐ効果も併せて、ネットやコンテナなどを果実に被せておく人も多いです。
スイカ栽培でよくある質問
Q1. 狭い場所でもスイカを作れますか。
A. ネットを利用した空中栽培にすれば作れます。大玉スイカは重みに耐えられない可能性があるので小玉スイカがいいでしょう。それでもキュウリやトマトに比べかなり重たいので、支柱やネットは補強を入れてより頑丈に設置します。また、熟してくると実が落ちる可能性があるので、必ず吊り下げネットなどにスイカを入れ、支柱にしっかりと結び付けておきます。
Q2. スイカの人工授粉は必要ですか?
A. ミツバチのおかげで受粉することももちろんありますが、確実なのは人工授粉です。また、スイカの収穫日は授粉後の日数で判断するため、人工授粉をしたほうが収穫のタイミングがつかみやすくなります。受粉は雌花の開花時から1~2時間以内がよく、高温期ほど受粉可能時間は短くなります。また、受粉後4時間以内に雨が降ると受精が行われず結実しないので、雌花の上にスイカの葉などを被せて雨よけにするといいでしょう。
Q3. 早く収穫したいので、親づるについた花や子づるの下のほうについた花を実にしてもいいですか。
A. スイカを早く収穫したい場合でも、親づるや子づるの根元付近に咲いた花を実にするのはおすすめできません。これらは奇形果のことが多く、また株が未成熟な段階で咲くため、実が十分に太らず糖度も上がりにくい傾向があります。早すぎる着果は株の生育を止めてしまう原因にもなります。美味しい実を育てるためにはたくさんの葉っぱから糖分を持ってこなくてはならないので、株が大きくなることも大切なのです。早く収穫したい場合は丈夫な接ぎ木苗を選んだり、黒マルチで地温を上げて初期生育を促進する、乾燥しないよう適宜水やりをするなど他のアプローチでいきましょう。
まとめ
夏の菜園でひときわ存在感を放つスイカ。日当たりや水はけのよい環境づくりから、つるの仕立て方、摘果・玉回し・追肥のタイミングまで、細やかな管理が味に直結します。実が割れるなどのトラブルを防ぐには、水の与え方や病害虫への早めの対応も欠かせません。一見大変そうにも思えますが、スイカは手間をかけた分だけ大きさも甘さも増し収穫の喜びはひとしおです。今年の夏は、一玉に積み重ねた手間と愛情を味わってみてはいかがでしょうか。