水牛が歩く町、ウボンラチャタニ
バンコクのドンムアン空港から国内線で1時間強(片道5000円ほど)、タイ東北部・イサーン地方の「ウボンラチャタニ」(通称ウボン)に到着した。カンボジアとラオスに接する県だ。列車でも行けるが、片道8時間ほどかかると聞いて挫折した。
空港を出ると、熱帯性気候なので当たり前のことだが、2月上旬だというのに初夏のように暑い。この日の最高気温は34度、最低気温は20度。長袖のTシャツでも暑いくらいだ。
空港から車で50分ほど進むと、知り合いが滞在している農家宅へ到着した。「昔の日本みたいでしょう?」と、80歳を超えた知人が懐かしそうに言う。
ここに来る道中では、農耕用の水牛が田んぼの跡地で草をはむ姿を見たし、野放しで飼われているニワトリに行く手を阻まれた。
昭和60年生まれの私は、昔の日本の風景をよく知らないが、昭和の初めの頃はきっとこんな感じだったのだろう。
日本の農村部と同じく、どの家も農家、もしくは兼業農家。宿泊先のお父さんも学校の先生を退職して、果樹園や魚の養殖をしている。
もち米が主食、野菜もりもりの食事
長粒種のもち米でつくるカオニャオ
イサーン地方の代表的な食べ物といえば、細切りにした青パパイヤのサラダ「ソムタム」が有名だが、もう一つ特徴的なのが主食のもち米を蒸した「カオニャオ」だ。日本のもち米とは違い、こちらは長粒種で、香り米を炊いた時のあの香りがする。
蒸したもち米は、右手で丸めてひと口大の団子にして、チリソースにつけたり、副菜と一緒に食べたりする。
空心菜やササゲも生で食べる
ウボンの人たちは野菜をたくさん食べる。たとえば、下写真の料理はさまざまな野菜をリーフレタスに包んで食べるもの。
生の空心菜やササゲ(さや)、あるいはスイートバジル(ホラパー)やミント、パクチーなどのハーブとほぐした焼き魚(川魚)などを、自分の好きな量だけリーフレタスで包み、チリソースにつけて食べるサラダのようなものだ。
空心菜やササゲを生食するのも驚きだが、ハーブが入ることで苦みや香りなどが混ざり合い、とてもサラダとは思えないほど豊かな味わいがする。「ハーブは添え物」というイメージの日本で、ぜひ広めたい発想だ。
食卓には他にも、たくさんのハーブがのったウナギのスープや、エシャロットが入ったサラダなど、野菜を使った料理が並んでいた。
ウボンの田畑を歩く
一家総出の家族農業
ウボンの農業は基本的に家族経営のようだ。
家主さんも果樹園や魚の養殖をしているし、まだ高校に通っている息子さんも、休日を利用して約5ヘクタール(タイの単位で言うと30ライ)の田んぼに寝泊まりをし、稲作(カオニャオ)や、水牛・ニワトリの放牧をしている。
水牛は飼っているものの、この家では、基本的にトラクターで耕す。
大規模畑と熱帯果樹
ウボンの畑で一番驚いたのは、上の写真のトウガラシ畑だった。1ヘクタールではおさまりきらないほどの広大な畑には、すべてトウガラシが植わっていた。
どうやって収穫するのか、果たしてとりきれるのかが不思議だが、こんな大規模な畑が点在している。さすが、スパイス大国である。他にはキャベツやトウモロコシの大きな畑もあった。
また、日本ではまず見られないドラゴンフルーツやバナナ、パパイヤなどの熱帯果樹の畑もそこら中にある。
意外な取り組み 菊の観光農園
現地の人に「おもしろい農業を見たい」ということで連れて行ってもらったのは、花農家のところだった。
花畑には写真撮影用の櫓(やぐら)が建っていたり、花を売るスペースがあったりして、観光農園と化していた。
日本でもこうした花のレジャースポットは多々あるが、この畑に植わっているのはすべて菊。
日本ではお墓の花として定着している菊だが、こうして見ると、コスモス畑やヒマワリ畑にも負けないくらいキレイである。
「タイの中でも、貧しい農村部」と知り合いに聞いていたウボンだったが、何不自由なく旅が楽しめた。楽しむどころか、野菜の食べ方や、料理の仕方、花の売り方など、日本に持ち帰りたい知恵や工夫がいっぱいだ。
たった2泊では味わいきれないウボンの農業事情。みなさんも興味があれば、バンコクで楽しむだけではなく、こうした農村部にも足を延ばしてみてほしい。