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減農薬に期待大! ミントの香りで重要害虫の天敵生物を引き寄せる

斉藤 勝司

ライター:

連載企画:農業テクノロジー最前線

減農薬に期待大! ミントの香りで重要害虫の天敵生物を引き寄せる

安定して農作物を生産するには確実に害虫を防除することが求められます。しかし、安心、安全を求める消費者の声や自然環境を考慮すると、化学合成された農薬の使用はできるだけ抑えたいところです。そこで害虫の天敵となる生物を圃場(ほじょう)に誘引して、害虫防除に利用するようになっているのですが、東京理科大学教授の有村源一郎(ありむら・げんいちろう)さんらはミントを混栽することで天敵生物を誘引できることを解明しました。これにより天敵生物による害虫防除効果を高められると期待されています。

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ミントの香りで害虫に対する抵抗性が高められるが……

植物の中には昆虫に葉をかじられると、そこから発する匂い物質によって葉をかじった昆虫の天敵を誘引するものがいます。この仕組みを取り入れれば、害虫駆除に生かせるため、世界中で研究が進められているのですが、葉をかじられて初めて天敵生物を誘引するようでは食害を完全に防ぐことはできません。

植物を中心に匂い物質による生物間のコミュニケーションを研究してきた東京理科大学教授の有村源一郎さんらの研究グループは、元々強い香りを発するミントを害虫防除に役立てる研究に取り組みました。その結果について、有村さんが説明してくれました。

「私たちの研究室がある東京理科大学の葛飾キャンパス周辺で盛んに栽培されているコマツナのそばにミントを植えたところ、害虫に対する抵抗性に関わる遺伝子の働きが高まり、害虫の食害を受けにくくなることが明らかになりました」

ペパーミントによりコマツナの食害を抑えることができます(画像提供:有村源一郎)

これなら害虫を防除しつつ、農薬の使用量を抑えるのにミントを活用できそうですが、その一方でミントの香り成分で天敵生物が逃げてしまうようでは、ミントの混栽で高められる害虫に対する抵抗性の効果は失われてしまうでしょう。そのため有村さんらは香り成分に対する天敵生物の反応を調べる実験を行いました。

食害されたナスの匂いと同等の誘引効果

Y字管オルファクトメーターと呼ばれる装置を用いて、ヨトウガ、コナジラミ、ハダニなどの重要害虫の天敵生物であるタバコカスミカメが、ミントの香り成分に対してどのように反応するかを調べました。

「Y字管オルファクトメーターというのはY字状のガラス管で、二股に分かれたガラス管の一方からヨトウガの幼虫に食害されたナスが発する匂いを、もう一方からキャンディミントの香りを送って、タバコカスミカメがどちらの匂いに引き寄せられるかで、匂いそれぞれの誘引効果を比較することができます」(有村さん)

ヨトウガに食害されたナスの匂いは強く天敵生物を誘引するため、これと同等の誘引効果が認められれば、有村さんが心配したミントの香りで天敵生物が逃げることはないはずです。

120匹のタバコカスミカメがどちらの匂いに誘引されるかを試した結果、6割程度の確率でヨトウガに食害されたナスの匂いのほうに引き寄せられることが分かりました。それでも4割程度はキャンディミントに引き寄せられたのですから、タバコカスミカメに関してはミントの香りで逃げていくことはないと判断されます。こうした結果はミントの香りに触れたことのないタバコカスミカメによるものですが、ミントの香りを経験することでタバコカスミカメは意外な反応を見せたと有村さんはいいます。

「あらかじめキャンディミントの香りを経験させておくと、食害されたナスの匂いよりも強くミントの香り成分に引き寄せられました。こうした現象が起こる理由までは明らかになっていないのですが、タバコカスミカメは天敵農薬として利用されていますから、出荷前にミントの香り成分を経験させておくことで、混栽したミントでハウスに留め置く効果も期待できるでしょう」

キャンディミントの香りでタバコカスミカメは誘引されます(画像提供:有村源一郎)

効果的な品種は「キャンディミント」

ただし、誘引されたタバコカスミカメがヨトウガを捕食しようとしなければ、害虫防除の効果は高まりません。有村さんらはミントによってタバコカスミカメの食欲が高まるかどうかを調べる実験を行いました。

「ミントの香り成分に接したタバコカスミカメがヨトウガの幼虫をどれだけ捕食するかを調べたところ、周辺にミントがない状態に比べて、総じてタバコカスミカメは活発にヨトウガの幼虫を捕食するようになりました。中でも特にキャンディミントで捕食性が高められることが明らかになりました」(有村さん)

ミントの香りによってタバコカスミカメの捕食性も高められます(画像提供:有村源一郎)

さらにミントによる誘引効果はタバコカスミカメだけでなく、ハダニの天敵生物であるチリカブリダニでも認められているといいます。天敵農薬として利用されているタバコカスミカメ、チリカブリダニの両方を誘引できるのですから、ミントの混栽によって害虫防除と減農薬の両立が期待できるでしょう。ならば、どれだけのミントを混栽すれば害虫を防除できるほど天敵生物を誘引できるのかが気になるところですが、そのことを調べる実験までは行っていないと有村さんは語ります。

「ミントによって天敵生物が誘引されるまでは明らかにしましたが、私たちが所属しているのは農学部ではないため、大規模な試験栽培までは行えません。今後、試験栽培ができる農学部や農業試験場の方から共同研究のお誘いを受ければ、積極的に協力していきたいと思いますし、生産者でミントを取り入れたいと考えている方には可能な限り情報提供していきたいと考えています」

確実に害虫防除効果を引き出していくには、実際の農業生産に則した形での栽培試験を行うなど、さらなる研究は必要ですが、ミントの香りで天敵生物を誘引できるのは確かめられているのですから、生産者の工夫次第ですぐにでも取り入れて、害虫防除に役立てられるでしょう。

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