乳牛8頭でゼロから新規就農+多角経営! 資金調達を可能にした経営計画と地域への思いとは

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乳牛8頭でゼロから新規就農+多角経営! 資金調達を可能にした経営計画と地域への思いとは

乳牛8頭でゼロから新規就農+多角経営! 資金調達を可能にした経営計画と地域への思いとは
最終更新日:2020年03月30日

伊豆の国市地域おこし協力隊、農家志し中のちだです。みなさんは酪農と聞いてどんな情景をイメージしますか? 数百頭を超える牛たちがいて、全自動で搾乳がおこなわれ、牛乳はJAへ出荷というものでしょうか。ところが、ほんの8頭の乳牛で新しく酪農を始めた牧場があります。小規模でも高付加価値を実現させたその経営にせまりました。

創業してまだ2年目。すでに多角経営のワケ

長野県北東部に位置する人口約1万1000人の小さな町「小布施町(おぶせまち)」に、創業2年目にもかかわらずジェラートにチーズにと多角的に経営している牧場があると聞き、やってきました。

その牧場の名前は、「小布施牧場」。
代表の木下荒野(きのした・こうや)さんに話を聞きました。

■小布施牧場

2018年3月に開業(会社設立は2017年3月)
ジャージー牛10頭(新規就農時は8頭)、肉牛数頭を飼育
自社牛乳を原料にジェラートやチーズなどを提供するカフェmilgreen(ミルグリーン)も経営

工房&カフェmilgreen

■木下荒野さん

1989年小布施町生まれ。動物と関わる仕事につきたいと酪農学園大学酪農学科を卒業し、長野県内の牧場に3年3カ月勤務。その後、ニュージーランドの牧場で1年間放牧型酪農を経験。

「小規模、放牧、地域内循環型で高付加価値」
私はこれが酪農の新しいカタチのキーワードだと思っています。

木下さん

木下さんは、少頭数でも品質の高い商品を提案し、かつ牛がとけ込んだ風景そのものを楽しんでもらうことでじゅうぶんビジネスとして成立すると考えました。
そして、酪農を開始するのと同じタイミングで工房&カフェ「milgreen」の営業を開始したそうです。

しかし、酪農業界はどちらかというと大規模にして生産効率を上げることで収益が高まる、というイメージがあります。まずは、小規模、放牧、地域内循環というキーワードを掘り下げてみます。

マーケットを意識した、あえての「小規模」という選択

milgreen内で生産、販売されるジェラートには名産の小布施栗など多くの味が。ちなみにこの栗も小布施牧場産。

木下さんと話をしていて驚いたのは、自らのビジョンと同時に具体的な数値がきちんと想定されていたことです。

小布施牧場がマーケットとして想定している顧客数は近隣市町村の約50万人ほどです。高品質な商品の提供というのが前提にあり、品質を担保するために「小布施産飼料100%」を目指しています。そうなると、頭数は今くらいがいいのかなと考えます。

木下さん

ちだ

想定顧客に対して、選んでもらえる品質を担保するためには今の規模が適切だというわけですね。
この経営のいいところは、ターゲットが自身の地域なので他の地域で同じことをされても影響がないことですね。私としては、日本各地にこの考えを広めていきたいと考えています。

木下さん

里山を守り、人を癒やす放牧型酪農

木下さんの目標の一つに、美しい里山を守りたい、というものがあるそうです。
カフェmilgreenがある「小布施千年の森」は、開業前には必ずしもきれいな森とは言えないところもあったそう。

小布施牧場敷地外の森。下草がたくさん生えている。

そこで「牛が森の下草を食べて森をきれいにして、かつカフェのお客様がジェラートを食べながら子牛を眺められたら癒やしになるのでは」という着想があり今日に至ったとのこと。

ゴールデンウィークから秋までは、milgreen前の森に子牛が放され、ジェラートを食べながら子牛を見ることができる。

きれいに整備された森。牛が下草を食べることもきれいになる一因。

また、カフェから10分ほど離れたところにある牛舎では、隣の遊休農地に牛を放牧しています。
牛は広々としたところで遊んで、草をはんで、お腹いっぱいになったら牛舎に自分で戻るそう。

牛舎隣の土地。大人の牛はこちらへ放される。

小布施で育て、小布施でめぐる地域内循環

牛ふんの堆肥(たいひ)を農地に戻して、その農地で作られた稲わらや牧草を飼料にする。また、堆肥をまいた土壌で育てた果物や野菜をジェラートにする。こうした一連の循環は経済を回すという意味でも、里山の利活用という意味でも重要だと考えています。

木下さん

木下さんは、良好な堆肥を得ることを目的に土着の善玉菌をエサに混ぜているとのこと。
この土着の善玉菌の液で発酵させた米ぬかボカシやその液そのものを与えることで、ふん尿が良好な発酵状態で排せつされ、匂いも少なくなるそう。

非常に清潔に保たれた牛舎。

牛舎のすぐ近くにある堆肥。「全く」匂わない。

小規模高付加価値酪農とお金の話

小規模でも高付加価値の商品を提供することで、地域内循環を生みながら持続可能な酪農を!というイメージはとても共感できます。

でも

ほら

気になりません?

食べていけるのかって。

どのくらいかかるのかって。

聞いてみました。

小規模酪農でも、じゅうぶん食べていける!

いろいろ聞きましたが、結論は「じゅうぶん食べていける」でした。
まずは、赤裸々に会社の収支を聞いちゃいました。

初年度は少しだけマイナスでした。2年目の今はまだ決算を迎えていませんが黒字にはなりそうです。

木下さん

2年目となる2019年は、豪雨による河川越水の影響で牛舎が水につかるなどの被害も受け、客足が一時的に落ちたそう。
最も影響を受けた月で、売上が前年対比マイナス90%!!(つまり、月の売り上げが前年の10%)ということもあったとのこと。
こんだけマイナスの要素があってほぼ黒字になりそう、ということは、こういったマイナスの事象がなければかなりのプラスだったということですね。すごい!

ちだ

でも、牛を扱えるのが木下さん一人ということは、かなり大変なのではないですか?
長期休みは確かに難しいです。ですが、頭数が少ないので朝晩の搾乳や餌やりなど牛に関わる業務は1日3時間ほどです。

木下さん

そう、少頭数のメリットはここにもあったのです。大規模牧場だと、搾乳だけでも2時間以上かかるというところは珍しくありません。
ところが、餌やりなどを含めても1日3時間。3時間ですよ? すごい。

収入についてさらにつっこんで聞いてみました。ギリギリ食べていけるのと、ある程度余裕があるのって違うじゃないですか。
すると、こちらも赤裸々に答えていただきました。
ちなみに、小布施牧場は牛全般を木下荒野さんが担当し、ジェラートなど加工部門は兄の真風(まかぜ)さんが担当しています。
兄弟それぞれに、ご家族がいらっしゃいます。

お兄さんの木下真風さん。

はい。

リアルな収入を聞きましたが、両方の家族がちゃんと食べていける!という金額でした。

まずは、働いている人がハッピーにならないとですからね。来年からは酪農部門に女性を1人採用することも決まっています。

木下さん

小規模酪農、リスク分散としての肉牛生産という選択

木下さんは、乳牛一本やりにするのは経営上、自然災害上それぞれのリスクがあると今回の豪雨被害で感じたそうです。
また、管理できる乳牛頭数が決まっている以上、乳牛を増やす事はできません。
しかし、乳牛は子どもを産まないとお乳が出ません。

そこで木下さんが出した結論は

肉牛を生産し、肥育農場に販売する

でした。

ちだ

はい、全くわかりません。肉牛と乳牛って別物ですよね?肉牛を?新しく飼うってことですか??
違います違います笑
すごく単純に言うと、母親が乳牛で父親が肉牛だと、生まれてくる子どもは肉牛になるんです。

木下さん

はい

全く知りませんでした。

こうすることで

  • 乳牛は出産するので乳が出る
  • 生まれてくる牛は肉牛なので、一定期間育てて肥育牧場に販売し売り上げが上がる
  • 乳牛は増えない

となるそうです。

小布施という地域は、三方を川に囲まれて、一方は山なんです。今回みたいな豪雨で橋が壊れたり山の道路が寸断されると陸の孤島になるんです。
もしそうなったら、肉牛なら食べられるじゃないですか。
極論ですけど、万が一の事態が起きても小布施を生き延びられる地域にしたいという思いもあります。

木下さん

カフェmilgreenの近くには松川という川が流れている。

小規模酪農を始めるのに必要だった資本金(赤裸々)

親子連れでにぎわうカフェ。

木下さんは非農家出身でゼロから酪農を始めました。
始めるにあたり必要だったのは

  • 土地
  • 牛舎
  • カフェ
  • 加工施設

などでした。

運転資金も含めた初期投資はおおよそ1億円で、銀行借入で5000万円、あとは“エンジェル投資家”といわれる個人投資家からの投資などで用意したそう。

ちだ

銀行からそんなに借りられるってすごくないですか?
ビジネスモデル自体はいける、という確信があったので説得力のある数字と書類をそろえていったつもりなんですが、最初は全然借りられませんでした。

木下さん

木下さん自身の確信はあったにせよ、日本で前例の少ない酪農形態ということもあり借入交渉は難航したそうです。
そこである経営者の方から「数字や書類はもちろん大事だけど、ビジョンやコンセプトも大事だ」というアドバイスを受けて、改めて小布施牧場で実現したい理想、牧場の存在意義を話し合ったとのこと。

小布施町が若い人のチャレンジを後押ししてくれる風土がある、というのもあるかもしれませんが、牧場のビジョンやコンセプトを言語化したこともあり無事資金が調達できました。

木下さん

ジェラートまじでうまい。

里山を守る役割を果たす、酪農。

木下さんは、日本の里山を守るために「小規模」「放牧」「地域内循環」をキーワードに「高付加価値をつける酪農」が酪農の新しいカタチになるのではと考えています。

取材中、平日の昼間にもかかわらずmilgreenには多くのお客さんがいました。
就農2年目にして安定した経営が現実化しているのは、小布施という地域に小布施牧場が受け入れられ、そして成長を見守っている証拠なのかもしれません。

地域に育まれる酪農

木下さんの理想とする酪農のカタチが、日本各地に見られる日もそう遠くないのではないでしょうか。

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