カタログから品種を選んでいたら5年遅れている
種苗メーカーのカタログを見て種を選んでいると5年遅れてしまいます。ご存じの方も多いと思いますが、種苗メーカーは販売予定の種をまだ品種名が決まっていない品番の段階で農家さんに試作をしてもらっています。カタログを見て珍しい野菜を見つけても、既に栽培している人はたくさんいるのです。
カタログから種を選ぶことについて否定はしません。普通の農家ならこれで良いかもしれませんが、圧倒的に差別化をし、きちんと利益を上げる農家を目指すならばこれではダメです。
どうせ同じ時間、労力をかけるのです。下記の品種選びの3つのコツを実践して他の農家と圧倒的な差をつけましょう!
圧倒的においしい野菜をつくるための品種選び
私のお客様は95%がシェフですので、野菜の味は取引を続けていく上でとても重要な要素です。そのためにも味重視の野菜の品種選びをしています。通常、種の袋の表面からは3つの情報を得ることができます。①品種名、②品種の説明、③品種の姿形(写真)。この中の「②品種の説明」に注目してください。ここではおおまかにわけて、
「栽培について」(栽培が容易、多収穫など)
「病気について」(耐病性など)
「姿・形について」(揃いが良い、形が美しいなど)
「味や食感、調理について」(やわらかくて甘い、おいしい、サラダに最適など)
といった説明が記載されています。
この説明には、種苗メーカーさんが時間とお金と人を投入し、ようやく販売までたどり着いた種を販売するための「一番のセールストーク」が書かれています。このセールストークを見逃さないでください。ここに味の事が書いてある品種は比較的おいしい品種です。この中からいくつかを選び、皆さんの土地に合い、自分がおいしいと思ったものを見つけるのです。中には、「栽培と味」など、2つのキーワードが入っている品種もありますが、「味」だけ書かれているものをおすすめします。

品種の説明が味や食感、調理について記載されている種
人と差別化、珍しい野菜の品種選び
直売所やマルシェなどでは、最近、変わった色の野菜や、普段目にすることのできない西洋野菜を見かけるようになってきました。今ではインターネットで西洋野菜の種を入手することも可能になりましたが、私が珍しい野菜に興味を持ち始めた12年ほど前は今ほど簡単ではありませんでした。
例えば「アイスプラント」。初めてこの野菜に出会ったのは都内の百貨店で「バラフ」という名前で販売されていました(その百貨店では現在も「バラフ」で販売しています)。値段も高価で何よりキラキラ光るビジュアルが美しい野菜でした。今では日本の種苗メーカーが種を販売していますが、当時は種の入手ができず、どうしても栽培したかった私は購入した1パックに入っていた3本を食べずに挿し木を試しましたが、その時はうまくいきませんでした。翌年、南アフリカ産の種の入手が可能となり、ようやく栽培に成功しました。
他になければ注目を浴びますし、他で販売されていませんから値段も高く付けられます。
そんな野菜に出会ってみませんか。例えば、「ブロッコリーは何色ですか?」という質問に「緑です」と答えるのが一般的な回答です。そこで「ブロッコリー」と「ピンク」など、ありえない組み合わせで検索してみるのです。そうすると時々「緑色をしていないブロッコリー」がヒットします。

紫色のスプラウティングブロッコリー「Red Spear(レッドスピアー)」
他にも「青い野菜」などで検索してみるのも面白いです。
12年ほど前、青いトウモロコシを栽培しました。その名も「Blue Jade(ブルージェイド」。見事に青いトウモロコシです。これは人気が出ること間違いなしと思ったのですが、今流行のトウモロコシのような甘みもなく、食べてもおいしくなかったので、二度と栽培することはありませんでした。

当時の写真なので画質が悪く小さいのですがこれがBlue Jadeです
ざっくりとしたテーマ「西洋野菜」や「珍しい野菜」で検索してみるのも面白いです。
きっと今まで知らなかった野菜の数々に出会うことになるでしょう。そこからは、いろいろな事が頭をよぎるはずです。「どんな味がするのだろうか?」「日本で栽培できるのだろうか?」「とりあえず食べてみたい」。この新しい出会いが、他の農家と圧倒的な差をつける近道になります。
「サルシフィ」を食べたことはありますか? 別名「西洋ゴボウ」とも呼ばれています。やわらかく、日本で食べている「ゴボウ」のような土っぽい香りはしません。切ると白い液が出て、牡蠣(かき)の風味がするといわれ、「オイスタープラント」とも呼ばれています。「オイスタープラント」、何とカッコイイ名前でしょうか。これを栽培できたとしたら、お客様にゴボウからも牡蠣からもアプローチができるなど、いろいろな展開が想像できるに違いありません。

サルシフィ。レストランからのニーズがとても多い野菜です。
売り先を意識しての品種選び~飲食店編~
私の販売先のお客様は95%がシェフです。プロの皆さんに満足してもらうための品種選びはどうしているのかをお話しします。私が種を探す際、メーカーが発行しているカタログはもう10年以上見ていません。私が参考にするのはシェフの皆さんが読む料理雑誌です。
もしあなたの野菜が雑誌に掲載されることになったら、きっと一番の自信作を選ぶと思います。シェフも同じです。料理雑誌に掲載される際、渾身(こんしん)の力を込めた一皿を作り撮影に臨みます。
その一皿に「どのような野菜が使われているか」、「どのような色の野菜が使われているか」、「サイズ感はどうなっているか」。このような事を意識して、雑誌に掲載されている料理の写真を見ると、現在の料理のはやりがわかり、シェフの皆さんが求めている野菜を知ることができるのです。

参考にしている料理雑誌
今までいろいろな野菜を栽培してきましたが、現在、栽培をやめてしまったものがあります。それは「地場野菜」です。その理由は2つあります。1つ目の理由ですが、例えば、むちゃくちゃおいしい水ナスを栽培し飲食店にお届けしたとして、飲食店さんがメニューに表記したいのは、「タケイファームのむちゃくちゃおいしい水ナス」ではなく「泉州の水ナス」です。「タケイファームの賀茂ナス」ではなく「京都の賀茂ナス」なのです。
2つ目の理由は、地場ブランドのストーリーを大切にしたいという事。
私が住んでいる千葉県でも普通に「三浦大根」の種を入手することができ、栽培も可能です。数年前、三浦の農家さんを訪問しお話を伺った時に決めた事なのですが、「三浦大根」には、三浦の風土や海風、そして100年近い歴史があるそうです。千葉県で栽培するのは、三浦大根の生産者さんにとても失礼な事だと思ったのです。千葉県で三浦大根を栽培して直売所などで三浦大根として販売し、それを三浦大根と思って買っていく消費者。何か違うと思います。私は千葉県で三浦大根を栽培している農家さんに会ったら、「それ三浦大根風大根ですよね?」と聞きます。