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コロナショックで考える 直売農家とレストランに必要な野菜づくり

伊藤 雄大

ライター:

コロナショックで考える 直売農家とレストランに必要な野菜づくり

新型コロナウイルス感染症による「コロナショック」は、私の周囲にも大きな打撃を与え、野菜を出荷しているレストランも痛烈なダメージを受けている。いま、どのような状態なのか、これからどんな戦略で建て直していくのか。そして、農家として再建にどう協力できるのか。私が野菜を出荷しているレストランに現状を伺った。

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京都市内から観光客が消えた

カオニャオヒルズの前の通り。20時だというのに誰も歩いていない

京都市内のタイ料理店「カオニャオヒルズ」は、店長であるイヌイカナコさんとタイ人コックさん、臨時従業員の3人で切り盛りする小さなお店。4月7日に発令された緊急事態宣言を受けて、店舗営業を一旦休止し、現在は営業時間を短縮したうえで、弁当販売やUber Eatsを使った宅配のみの営業をしている。
4月中旬、普段なら絶え間なく観光客が行き来する店の前はゾクっとするほど静かだ。私はこのお店に週に1回ほど野菜を配達してきたが、こんなのは初めて。他の飲食店も同じで、「お弁当あります」「テイクアウトできます」などの看板が出されているものの、そもそも通行人がいない。自粛中の京都は様変わりしてしまった。

レストランからみたコロナショック

中国のお客さんが減った

カオニャオヒルズの店長・イヌイカナコさん

イヌイさんは1月末頃から、こうなる兆候をうっすら感じていたという。
「コロナという言葉が出てくるようになった頃やったかな。この辺りのお客さんは観光客が多くて、中国人が8割ほどいる。京都という町の客層のバランスに、嫌な予感がしてたんです。もしもコロナが大流行したら、大変なことになるんちゃうかって」
2月の売り上げにはほとんど影響はなかったが、人目を気にしてか、この辺りで働く中国人のお客さんが減り、観光客も少しずつ減っていった。

4月の売り上げは8割減

意外にも、3月は不思議なことに売り上げが上がったそうだ。年度末恒例の飲み会はことごとくキャンセルになったそうだが、とにかく金曜日が爆発的に忙しかった。
「たぶん、最後の晩餐(ばんさん)やね。これから外食がしにくくなるやろし。だったら最後くらいはチェーン店でなく、少々値段が高くても、地元の料理屋さんで飲み食いしようっていう……」と、イヌイさんは急な売り上げアップに不吉さを感じたそう。
残念ながら予感は的中した。普通に店舗に来る人はパタリといなくなり、3月の売り上げからすると、4月の売り上げは8割減の予想だ。

デリバリーに特化した経営に

「Uber Eatsはまだマシやね」とイヌイさん。「人気レストランの料理を配達で楽しめる」というのがウリの宅配サービスのことだ。
じつは、1月末にコロナ流行の予感がしてから、Uber Eatsにいっそう力を入れ始めた。SNSでコツコツと発信したり、特別企画などをしたりした結果、だんだんと定着。また、お客さんが外食を自粛する一方で、客層や注文の仕方も変わってきた。
「2月末まではいつものお客さんが2品くらい頼んでくれる感じ。3月に入ってからかな。常連さんではない人が、大量の注文をしてくれるようになった。きっと、家族みんなで食べてるんだろうな」(イヌイさん)
3月は店舗売り上げの6分の1がUber Eatsで、店頭での弁当販売と合わせると全体の3分の1まで上がった。4月はもう少し伸びるかもしれないとのこと。とはいえ、飲食店にとって、ドリンクが売れないのはつらく、デリバリーやテイクアウトだけでこれまでのような経営を続けるのは無理。

休校要請があった頃につくったデリバリー商品

そこでイヌイさんは、店舗型の営業からUber Eatsや弁当販売、イベント出店を中心とした経営に切り替えようと、家賃が安い簡易店舗への移転を考えている。緊急事態宣言が解除されたとしても、すぐさま京都市内にインバウンド客が戻ってくる気配はないし、その影響は長く尾を引く、と予想しているからだ。

農家がサポートできることは?

一方、野菜を届ける農家の私は、自炊する機会が増えたせいか個人宅配の希望が増えており、売り方のウエートを変えれば、コロナの影響を抑えることもできなくはない。
でも、この際、お世話になっている飲食店にとことん付き合って、何かしらの形で協力したい。
──なにか、役に立てることはありますか?

お弁当に「映える野菜」で応援

「デリバリーやお弁当をしはじめて、野菜を意識するようになった。タイ料理で色があるといったら、トウガラシとニンジンくらいで、煮込んだり、炒めたりが多いからそんなに色を意識したことがなかった。だけど、お弁当だと、サニーレタスや、チコリなんかで彩ると、見た目が全然違う。それも、シャキッとした新鮮なもの。ちょっとしたことだけど、新鮮なほうが盛り付けもしやすいし、やる気が出る」と、イヌイさん。
彩りのいい野菜があると、イベント出店やケータリングの時にも関心を引くそうだ。なるほど。アフターコロナの時代、お弁当向けの「映える野菜」をつくることもサポートの一つになるのかもしれない。飲食店だけでなく、自炊の機会が増える一般家庭にも、料理が楽しくなるような野菜を届けるのもいいかもしれない。
さっそく、チコリ(ラディッキオ)や、葉っぱが分厚くしんなりしにくいサニーレタス(マザーレッドなど)のタネを取り寄せ、まいているところだ。

イヌイさんが喜んでくれた野菜の一つ、紅芯大根

「あとは、デリバリーやテイクアウトが中心になったら時間的にも少し余裕ができるやろうし、この機会に野菜を使った加工品の販売もやってみたいかな。なんかない?」とイヌイさん。
きっと、農家にできることはまだまだたくさんあるはず。この未曾有の事態をアイデアを出し合って飲食店とともに生き抜き、よりよい関係を築きたい。

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