就農で得た自由と時間 農家だからこそできるリフレッシュ法とは

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就農で得た自由と時間 農家だからこそできるリフレッシュ法とは

連載企画:農業経営のヒント

就農で得た自由と時間 農家だからこそできるリフレッシュ法とは
最終更新日:2020年05月27日

他の仕事から農業に転じた人が感じる利点の一つに、時間の融通がききやすいことがあるのではないだろうか。作物の生育のリズムに合わせる仕事なので、ときに相当な長時間労働になることはある。だが曜日を問わず、自由な時間をつくれるのも農業の特色。今回は神奈川県三浦市で就農し、そんな時間の大切さを実感している下里健城(しもざと・たけき)さんを紹介したい。

過酷な建設現場の仕事と農作業の違い

下里さんは5年前、24歳のときに実家で就農した。農作業をしているのは祖母と父親と下里さんの3人。面積は1.5ヘクタールで、スイカやダイコン、キャベツ、メロンなどを栽培している。販売は農協を通さず、家に買いに来てくれる固定客に直売したり、市場に出荷したりしている。
他の農家と違うのがスイカの育て方だ。最近の栽培方法はトウガンやユウガオなど同じウリ科の作物の苗の上にスイカの苗を接ぎ木するのが一般的。スイカと比べて根が病気に強いため、生育が安定するからだ。
これに対し、下里さんの父親がこだわるのは接ぎ木をせず、スイカの苗だけを使う栽培方法だ。下里さんによると、他の農家は「無理だよ」と心配するが、父親は「これが本物。無垢(むく)のスイカだ」と言って作り続けてきた。
こうして丹精込めて育てたスイカは「昔ながらのシャリッとした食感」(下里さん)が特色。ファンには年配の人が多く、「子供の頃食べた味だよ」と喜ぶ。それを実現するためには栽培に相当の時間を費やす必要があり、必ずしも効率的ではない。下里さんはそんな「頑固な父親」のもとで就農した。

父親が中心に育てるこだわりのスイカ(写真提供:下里健城)

もともと実家を継ごうと思っていたわけではない。自動車に興味があったために関連の専門学校に進み、板金工場に就職した。担当は塗装。嫌いな仕事ではなかったが、収入が物足りなく感じたため、2年ほど勤めて転職した。
次の仕事は羽田空港の補修工事。滑走路を水平に保つため、アスファルトに掘った穴に特殊な機器を設置するのが仕事だった。この作業があまりに過酷だったことが、就農するきっかけになった。
作業をするのは、深夜の12時過ぎから約4時間。暗闇が広がる滑走路で強いライトに照らされながら、休みなく黙々と作業が続く。収入は悪くはなかったが、「心がどんどんすり減っていくのを感じた」(下里さん)。
帰宅すると、父親が早朝からキャベツの収穫をしていることもあった。「ちょっと手伝ってくれ」。そう言われて作業に加わると、体は疲れ切っていたが、昼夜逆転の空港での仕事とは違う感覚が湧き起こってきた。
「ああ、畑って気持ちいいなあ」。朝の光を浴びて汗を流しながら、しみじみそう実感した。下里さんはこうして就農を決意した。

キャベツの収穫を手伝って畑の素晴らしさを実感した

自由な農家だからこそできるリフレッシュの仕方

就農して下里さんが気づいたのは、いつ休みをとるかが一般の仕事と違う点だ。ふつうは休みの日がある程度決まっている。
これに対し、農業の仕事のリズムをつくるのは天気だ。露地栽培なので、雨が降れば仕事は大抵休みになる。すると近所の先輩農家から「おまえ、今日ヒマだろ」などと連絡が入り、飲みに連れて行ってくれる。
酒席での話題は、野菜のことがほとんど。「3Lの大きいダイコンばっかりで腕が痛いよ。相場は安いのに」「おまえんとこはちょうどいい大きさだな」。冗談も交えながら、栽培で気になっていることを中心に会話が進む。

家族で育てた農産物(写真提供:下里健城)

就農後に新たに始めた趣味が釣りだ。と言っても、釣り堀でやるようなつつましやかな楽しみ方ではない。妻の父親が漁師で、使わなくなった漁船を譲ってくれたのだ。長さが約6メートルで、エンジンで走る。
船を出すのは、農作業が一息ついたときだ。家から港まで車でほんの数分。沖合まで出て、カサゴやサワラ、ブリなどを釣る。下里さんは「気持ちをリフレッシュできる。最高ですよ」と話す。仕事の合間に気分転換する仕方はさまざまにあるが、これほど爽快な方法はめったにないだろう。
「人に何かをやらされている感じがまったくない。会社勤めでは得ることのできない自由が農家にはたくさんある」。どんな作物をどう作るかを決めているのは、基本的にいまも父親だ。それでも束縛を受けていると感じないですむほど、下里さんが味わっている解放感が大きいということだろう。

農作業が空いたときに釣りに出る漁船(写真提供:下里健城)

農村の魅力を都会の人と共有する独自の取り組み

父親の営農のあり方について意見を言ってみることもある。例えば「ダイコンを減らしてキャベツを増やした方がいいと思う」。ダイコンは畑で抜いてから軽トラに積み、作業場で水で洗って選別するなど出荷までやることが多い。それが、いずれ祖母の負担になってくると思ったからだ。
最初のうちは、「父親は聞く耳をもってくれなかった」(下里さん)。だが農作業を続けて経験を重ねるうちに、「そういう考えもあるのか」と受け止めてくれるようになった。暮らしをともにし、お互いの考え方を理解して少しずつ改善を模索する家族経営のプラス面だろう。

都内の人を集めて開いた食事会(写真提供:下里健城)

下里さんの独自の取り組みとして始めたのが、都内に住む人などを集めて開く食事会だ。名前は「農家でランチ」で、春夏秋にそれぞれ1回ずつ開く。フェイスブックで毎回10人程度に声をかけ、知人の農家が作ったものも含めてさまざまな野菜を調理してもてなす。釣ってきた魚を出すこともある。
「参加費はそれなりに取ります。それでもただ食事をするだけのために、遠くから来てくれるんです」。下里さんはそう話すが、理由もよくわかっている。畑に囲まれた家と樹木の生えた広い庭と作業場。自分たちにとっては見慣れた場所でも、都会に住む人にとっては非日常的な空間なのだ。
そこには下里さんが就農を決めた気持ちと共通するものがある。幸いなのは、けっして楽ではない農作業の日々の中にあっても、下里さんがその新鮮な気持ちを失わずにいられることだ。だから迷いなく、次のように言うことができる。「農家のライフスタイルって最高。すごい楽しんでる」

農業の魅力を実感している下里健城さん

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