農家自身がブランドとなれ! 農家が語るべき“ストーリー”

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農家自身がブランドとなれ! 農家が語るべき“ストーリー”

連載企画:営業しない農家の売上アップ術

農家自身がブランドとなれ! 農家が語るべき“ストーリー”
最終更新日:2020年06月09日

農業を始めて一度の営業もせずに、現在は栽培した野菜の95%をレストランへ直接販売しているタケイファーム代表、武井敏信(たけい・としのぶ)です。このシリーズでは売り上げを伸ばすためのちょっとした工夫をお伝えします。

あなたがキュウリを栽培していたとして「なぜキュウリを作っているのですか?」と質問されたら何と答えますか? 単純な質問ですが、この答え方一つでキュウリの売り上げやあなた自身の印象が大きく変わります。自分がどういうストーリーを打ち出して自分なりのブランディングを行っていくかはとても大事なことです。今回は「ストーリーブランディング」についてお話しします。

ストーリーが大事なわけ

私が住んでいる千葉県松戸市には、全国に知られるような地場のブランド野菜がありません。19年前、サラリーマンから農家に転身した時、全くと言っていいほど野菜の知識がなかった私でも「京野菜」や「加賀野菜」といったブランド野菜のことは知っていました。これから農業をやる上で、ブランド作りは大事、地場ブランドがないのであれば、自分のブランドを作ろうと考えました。
なぜならば、名の知られたブランド力がある都内のホテルのラウンジでコーヒーを頼んだら1杯1500円くらいします。普通に考えたらコーヒー1杯が1500円なんてとても高いと思うはずですが、コーヒーの値段よりもその場にいる環境に満足してしまいます。農家も野菜もそうあるべきだと思うのです。ブランドが確立されれば、差別化もでき、高値での取引も可能。そこで、就農当時から栽培する野菜や自分自身に「ストーリー」をつけることにしたのです。

京都錦市場の京野菜

「なぜキュウリを作っているのですか?」この答えに正解はありません。キュウリを作っている人の数だけ答えはあります。正解はありませんが、相手に興味を持ってもらえたり、覚えてもらえる答え方をすることによって、それが付加価値となって販売につながりブランディングとなります。お客さんにとっては、同じものを買うのでも、「何も知らずに買う」のと「知ったうえで買う」では大きな違いがあります。野菜についてのストーリーを語ることで、どのような人が、どのような思いで作ったのか、その人の畑を想像してくれるかもしれません。

マルシェでキュウリを販売するとします。あなたならお客さんにどのようなセールストークでアピールしますか?

  • A「新鮮なキュウリです。ぜひサラダで召し上がってください」
  • B「朝4時の暗いうちに収穫した新鮮なキュウリです。鮮度抜群ですので、とれたてのみずみずしさをぜひサラダで召し上がってください」

AもBも新鮮なキュウリをサラダで食べてくださいと言っているのですが、明らかにBの方が購買意欲はわくと思います。新鮮なキュウリを食べてもらいたいという気持ちが伝わります。
同じことを伝えるのにもストーリー性があることでそれが付加価値となるのです。

野菜のストーリーとは

野菜のストーリーとして語るポイントは、希少性・栽培方法・用途・歴史・品種・味・ビジュアルなど、いくつかあります。

質問を変えます。「なぜこのキュウリの品種を選んだのですか?」。栽培する品種を選んでいる時は楽しいですよね。この時は、何らかの思いを持って品種選びをしていると思います。ここで大事なのが、自分が展開したいストーリーに合う品種選びです。

過去に「シャキット」という品種のキュウリを作ったことがありました。なぜこの品種を選んだのかというと、味がおいしいのは当然ですが、「トゲが鋭い」という特徴があったから。当時、マルシェに出店していた際のお客さんは一般消費者がメインでした。トゲがついていた方が新鮮に見えますので、あえてチクチクしそうなトゲの鋭い品種を選んだのです。案の定マルシェで販売した時にお客さんからキュウリのトゲについての質問があり、「トゲが鋭いのが新鮮なキュウリなんですよ」と、上で紹介したBのストーリーを語る展開となり販売につながりました。

農家のストーリーとは

どんな人がその野菜を作っているかも重要です。農家自身のストーリーで野菜の価値も変わるのです。
まずは、自分について10個ほど箇条書きにしてみてください。パッと思い浮かんだものを並べるだけでOKです。
例えば、私自身がパッと1分ほどで思い浮かんだものはこのような内容です。

  1. 絶対にやりたくない仕事は農業だった
  2. 前職が営業マンだったので営業は二度とやりたくない
  3. 栽培は独学
  4. 西洋野菜をはじめ、珍しい野菜を作りまくった
  5. 販売先の95%は飲食店
  6. 雨の日は仕事をしない
  7. 朝から晩まで丸一日農作業をするのは年に10日ほど
  8. レストランの食べ歩きが趣味
  9. 嫌いな食べ物はカボチャとサツマイモ
  10. 虫は触れない

書き出してみて、どうだったでしょうか? 自分について何を打ち出したいか、ストーリーを作るネタが見つかったのではないでしょうか。考え方や人生経験など一人一人違うのですから、農家の数だけストーリーはあります。それをきちんとお客さんに語れることが大事です。

今だから語れる苦労話は素敵なストーリー

成功した話だけが人の心に響くストーリーになるとは限りません。失敗談や苦労話も重要です。私自身も、メディアの取材などで苦労話を語ることが多くあります。

最初からうまく軌道に乗せることができる人はそれほど多くはないと思います。私もその中の一人で、就農した33歳から5年間、野菜の売り上げだけでは生活することができず、昼間は農業をし、夜の7時から夜中の3時までアルバイトをしていました。睡眠時間は平均3時間。この頃は、知り合いには会わず、学生時代の友人から飲み会に誘われても断り続けていました。役職が付いて仕事が順調な友人から「久しぶり、今何してるの?」と質問されて「農業を始めたけど、食っていけないから夜中アルバイトをしている」とは言いたくなかったのです――。

このような話は今だから語れる私のストーリーです。この話をすると必ず「武井さんにも大変な時があったのですね」と言われます。誰にでも苦労していた時期はあると思いますので、このような話は共感を覚えてもらえます。新規就農者の皆さんはこれから必ず壁にぶつかると思いますが、そんな時に私の苦労話を励みにしてもらえたらと思います。今思うと、アルバイトをしていた時の苦労と努力の経験が、現在の私の考え方や野菜づくりに生きているのだと、そしてそれこそが今の野菜の品質を下支えしてくれるストーリーなのではないかと思います。

そこで、皆さんに言いたいことがあります。
「つらい時こそ、その時の写真を記録として残しておくべきです!」
今つらい思いをしている人がもしいたら、今の写真が後にあなたの下積み時代のストーリーの要素になりますし、写真を見ることで苦労を思い出して奮起することもできるでしょう。私はとにかく人前に出ることを避けていましたので、当時の写真は1枚もなく、今となっては1枚ぐらい撮っておけばよかったと後悔しています。
かわりに、豆腐工場でアルバイトしていた時にもらったコンテナがあり、それを今も野菜の調整作業に使っています。このコンテナを見ると、当時私なりに頑張っていた頃を思い出すことができます。

アルバイト時代にもらったコンテナ

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ストーリーを語ることが口コミにつながる

タケイファームには季節ごとにスペシャリテ(タケイファームを代表する野菜)があります。例えば、アーティチョーク。「なぜアーティチョークの栽培を始めたのか?」という質問を受けます。この質問は何度聞かれたかわかりませんが、この答えには3つのポイントを入れて話すことにしています。

  1. 目的はアーティチョークを日本の飲食店に季節の野菜として普及させること
  2. きっかけはフランスのアーティチョーク農家を2度訪問したこと
  3. 結果として日本最大級のアーティチョーク畑に拡大したこと

これによってストーリー性が生まれ、今では「アーティチョークの第一人者」と呼ばれたりするようになりました。この質問に「アーティチョークはおいしくて大好きだから」と答えていたらこのような呼ばれ方はなかったと思います。

スピノーゾというレアな品種


フランスのアーティチョーク農家さんと撮影

サフランもスペシャリテの一つです。サフランは10~11月に雌しべの摘み取りをし、その後、球根を定植することによって翌年の春、分裂して増やすことができます。日本での生産量第1位は大分県竹田市で、明治の頃から栽培が始まっています。私が使用している球根も竹田市のJAから譲ってもらったものです。知り合いにハーブの関係者もいるのでそちらで購入した方が経費も安くすむのですが、そうしない理由があります。
「明治からのDNAが続いているサフラン」というストーリーによって壮大な歴史の重みが加わることで付加価値がアップし、高値を付けても買ってもらえるからです。
栽培を始めて2年後、竹田市役所の農政課とアポを取り、念願のサフランの生産者を訪問することができました。それまで独学で栽培方法を調べてサフランに取り組んでいましたが、生産者の話を直接聞くことによって裏技テクニックも知ることができました。

タケイファームのクオリティーの高いサフラン

2度にわたるフランスのアーティチョーク農家訪問、大分県竹田市のサフラン農家訪問で、実際に現地に行き生産者と話をしたことで、お客さんへ私が取り組む姿勢の真剣さを伝えることができるようになりました。こうしてストーリーはアップデートすることが可能なのです。

竹田市のサフラン農家さんと撮影

あなた自身のストーリーを語れ

あなたが相手に何を伝えたいのか、それを語るだけで一つのストーリーは生まれます。私がメディアで取材を受けた際、「なぜ私を取材したのですか?」と必ず聞きます。「珍しい野菜を栽培していること」や「農業の考え方に興味があった」と言われるのですが、それとは別に「武井さんにはストーリーがある」と言われます。ストーリーを語るときに気を付けることは「自分のことを語る」ということです。人から聞いたことは自分のストーリーにはなりません。自分自身のことは自分が一番よく知っているのですから、ストーリーは無限に語ることができるはずです。

おまけの虎の巻

基本的にテレビの取材の際は台本がありません。あったとしても「お好きなようにお話しください」みたいな感じですので、その場その場で話をします。先日もテレビの取材の最後に「どうして他の農家さんは武井さんのまねをしないのですか?」と質問され、「多分、私が農業をよく知らないからだと思います」と答えました。私は野菜の作り方を習ったことがありませんので、規格サイズや相場もよくわかりません。規格サイズを知らないために5センチのサイズで小松菜を出荷してしまいますし、相場も知りませんので、スナップエンドウや空豆の栽培期間が約半年もかかるのに小松菜と値段が変わらないことに疑問があり、豆類には高い価格設定をしています。しっかり勉強された農家さんにとっては「おかしい」と思われるかもしれませんが、これも私の新たなストーリーとなりました。

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