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【実録!観光農園化レポVol.1】レッドオーシャンに殴り込み! 生き残りのカギはブランドコンセプト

連載企画:観光農園オープン1年目で満足度No.1を獲った理由

【実録!観光農園化レポVol.1】レッドオーシャンに殴り込み! 生き残りのカギはブランドコンセプト

新型コロナウイルスの影響で、全国各地の観光農園は自粛を余儀なくされた一方、収束後はレジャー体験や、対面で会うことの価値が高まるでしょう。たとえば、イチゴ狩り観光農園もただイチゴを売る・食べるためだけの場所ではなく、忘れられない空間や時間を体験する場所を目指すことが生き残りのカギになります。観光農園はイチゴの栽培技術に加え、お客様に選ばれる技術も必要です。今回は独自の手法で、観光農園の新たな価値づくりに挑戦している「いちごがり写真館 くらうんふぁーむ」を、農園主の妻自らが全6回にわたって紹介し、これからの観光農園の営み方を考えます。

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ブランドコンセプトを考える必要性

「いちごがり写真館 くらうんふぁーむ」について

宮崎県日南市にあるくらうんふぁーむの園主、渡邉泰典(わたなべ・たいすけ)は2015年に東京から移住、1年の修行を経て新規就農。10アールから20アールに規模を拡大し、4期目である2020年1月にイチゴ狩り観光農園をオープンしました。そこで挑戦したのは「イチゴ狩り」に「写真館」をかけあわせた新ジャンルの「いちごがり写真館」。第1回は、そのブランドコンセプトに至った経緯を、妻であり共同経営者の筆者が紹介します。

参考:宮崎に移住した農家の嫁日記

イチゴ狩り激戦区で生き残るカギ=「ブランドコンセプト」

「イチゴ狩り」といえば、冬から春にかけて全国どこでも楽しめるレジャーとして定着し、特に地方では体験型観光農業という観光コンテンツとして発展しています。今やイチゴ狩り観光農園は宮崎県内でも飽和状態になり、競争の激しい業界、いわゆるレッドオーシャンと化しています。

そのなかで生き残りの鍵となると私たちが考えたのが「コンセプト」設計。ブランドコンセプトとは「自分たちの使命や目的を言語化したもの」であり、それを軸に行動や経営を決めていく、いわば「立ち戻る場所」とも言えます。

では、くらうんふぁーむのブランドコンセプトづくりの考え方を紹介します。

サービスを届けたい相手は? イチゴ狩りの真のニーズを因数分解する

イチゴ狩りのお客様の真の目的は?

「イチゴ狩りの目的ってイチゴをたくさん食べることだけではないよね?」という疑問から始まった真の顧客ニーズ分析。その中で、お客様がイチゴ狩りに来る根っこの理由は、一緒に来た相手との「思い出づくり」なのではないかという仮説を出しました。

また、開園を計画していた頃と時を同じくして我が家に長女が生まれ、「この愛おしい我が子と思い出をたくさんつくりたい」と思うことが増え、その思いは「子を持つ親ならきっと誰もがそう思うのではないか」「そんな親の願いがかなう理想郷を私たちの手でつくろう」と決意しました。

思い出とはなんだろう?

思い出とは、過去の体験を思い出すこと。では、どのような体験が「思い出しやすく」なるのでしょうか?

自らの思い出を振り返るために、夫が自分の母親と幼少期のアルバムを見ながら話をしました。母親が鮮明に覚えていたのは、近所の公園での出来事ばかりでした。

例えば、
・息子が初めて鉄棒に手が届いた
・息子が初めて自転車に乗れた
・息子が初めて逆上がりができた

そこから読み取れるのは、母親のこの公園での思い出は「息子の成長そのもの」でした。そうすると、ひとつの考えとして、思い出とは体験ではなく、「子どもの成長記録」であると言えるでしょう。心理学の観点からも、記憶として残るのは、その経験に「物語」があるかどうかとされています。

思い出はどうやって定着する?

記憶に残る体験は、その時の写真を見返すことで思い出したり、その経験を人に話すことで思い出として定着したりします。
このことから、私たちの目指す「思い出をつくる農園」には、親が子どもの成長を感じ、思い出として残すことができる写真撮影サービスが不可欠という判断に至りました。

自分たちの強みを見つける

さて、次にブランドコンセプトを考える上で大切なのが、自分たちの強みの明確化。自分たちのことをよく知らなければ、競合との比較もできません。とてもシンプルですが、私たちは3つのステップを踏みました。

1. 自分の好きなこと・得意なことを書き出す

自分たちの「普段していること=得意なことであり、好きなこと」をノートに書き出し、その中から農園に生かせそうなものをピックアップします。

この中から私たちは「パフォーマンス」「写真撮影」を農園に生かすことにしました。選定基準は家族が同じ「思い出」を共有しやすい仕組みであること家族間のコミュニケーションの円滑剤として機能するものであることの2つ。
(「似顔絵」も観光農園と相性が良さそうでしたが、夫婦2人という限られた人材リソースの中で運営するには難度が高かったので、初年度は見送ることにしました。)

実際に写真撮影をしている様子


実際にパフォーマンス(皿回し体験)をしている様子

2. 自分の苦手なこと、やりたくないことを考える

自分たちの得意なこと、好きなことが頭に浮かんでこない場合は、苦手なことややりたくないことから考えてみましょう。
例えば私たちのやりたくないことは「薄利多売」「お客様は不特定多数より特定少数」などがあがりました。

3. 県内の競合と比較し、ポジショニングを決定

県内にある13軒のイチゴ狩り観光農園の場所、価格(摘み取り、食べ放題)、サービス内容のほか、「じゃらんnet 遊び・体験予約サービス」の口コミ内容を一覧にして徹底比較しました。

次に、イチゴ狩り観光農園でできる思い出づくりを2つに分けて考えました。

①自分たち(家族)の思い出創出
→自分たちが楽しむこと。体験や旅行などがこれに該当します。

②(同行しない)祖父母のための思い出創出
→孫の様子が気になる祖父母のために写真を送ること。これは、「みてね」という写真共有アプリで、祖父母に娘の画像や動画を送ると喜んでもらえた自分自身の経験から気づきました。

実際の写真共有アプリの画面

その上で、2つの細分化した思い出づくりのターゲットマーケティングを考えました。この考え方は市場セグメンテーション(市場の細分化)→市場ターゲティング(狙う市場の選定)→サービスポジショニング(サービスの差別化)の3ステップで考えます。

これをすることで、競合とターゲットが明確になり、自分たちはどの強みで勝負できるか、すなわちポジショニング戦略を導くことにつながります。

まず、市場セグメンテーションを考えます。その結果、先述の「思い出づくり」の2項目をもとに、
①自分たち(家族)の思い出創出 → イチゴ狩り市場
②(同行しない)祖父母のための思い出創出 → 写真館市場
の2つを取りに行くことにしました。

次に、各セグメントの魅力度を評価します。それに合わせて、セグメントごとの地域内競合を洗い出し、どのポジションをとれば突き抜けられるかを考察しました。

①イチゴ狩り市場
「品種数」と「サービスの多様性」の2軸で構成。いちご狩り写真館というコンセプト通り「ただイチゴをお腹いっぱい食べる場所」ではないということを訴求して差別化することにしました。ただ、ソフトクリームなどの飲食ができるサービスは一般的なので、「写真」と「大道芸」の2つのサービスで差別化しました。

②写真館市場
「納品形状」と「気軽さ」の2軸で構成。
緊張して訪れるイメージの写真館とは違い、カジュアルに来られて、祖父母にも送りやすい即日データ納品で差別化することにしました。


ブランドコンセプトを練り上げる

私たちのブランドコンセプトは、初めに6割を決め、残りの4割は1年半かけて周りの意見を聞きながら、熟成させ固めていきました。その方法を2つ紹介します。

1. 周りの意見を聞く機会をつくる

県内の観光塾や農業塾に1年間通い、その道のプロに直接アドバイスを聞きに行ったり、1年半で5回ほどビジネスコンテスト等でプレゼンテーションをしてフィードバックをもらいました。

2. 理想のイメージを具体的に可視化する

届けたいお客様像と自分たちの強み、競合を総合的に考えて、具体的なサービスのアイデア出しをし、可視化させました。

その中で、付箋を使用する方法を紹介します。

(1)部屋の一面に模造紙を貼る。
(2)付箋を50〜100枚程度用意し、5分間集中して農園のサービスを書き出す。この時にサービスの実現性は問わない。できるだけアイデアを書き出すことが大切。
(3)出てきたアイデアをカテゴリーごとに分けて貼り直し、優先順位を決める。

このように、頭の中にあるぼんやりとしたアイデアを可視化することで、具体的な議論が生まれたり、新たなサービスが生まれます。さらに、毎日生活する部屋の壁なので、思いついたときにすぐ新しいアイデアを貼っては再考し、イメージを固めていきました。

キッチンカーでチョークアート看板を起用

まとめ:初年度から100%の完成度を目指さない

こうして私たちは、家族の思い出づくりのための「いちごがり写真館 くらうんふぁーむ」として、イチゴ狩りの新ジャンルに挑戦することになりました。

ブランドコンセプトを決めることで、自分たちの軸が決まります。ただ、初めから100%を目指すのではなく、土台を8割ほど固めて、あとは数年かけてトライアンドエラーを繰り返しながら、本当の意味での「自分たちの農園らしさ」を磨いていけばいいのではないかと思います。

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