地続きで3.5キロのメガファームを開墾
柏市内にいくつかある染谷さんの農場のうち、中核となる農場は面積が108ヘクタールある。国内平均の約3ヘクタールと比べてはるかに広いのは言うまでもないが、最大の特徴は自社の田んぼが一カ所にまとまっている点にある。複数の農家の田んぼがパッチワーク状になっていることが多い日本の農村では珍しい農場だ。
利根川に沿って長く伸びるその農場は、長さが3.5キロ。染谷さんの運転で何回か案内してもらったことがあるが、田んぼの間を真っすぐに伸びる農道を走る爽快感は格別だ。誰も手を着けようとしなかった荒れ地を開墾し、国内では珍しい効率的な農場を実現した。
染谷さんは高校を卒業して実家の田んぼを手伝った後、いったん近くの工業団地で送迎バスの運転手の仕事に就いた。給料は順調に増えたが、「悔いない生き方がしたい」と考え、本格的に就農した。24歳のときだ。

108ヘクタールの農場が完成したころ(2013年撮影)
就農したとき、実家の田んぼはわずか1.5ヘクタールしかなかった。それでは暮らしは成り立たないと思った染谷さんは、当初から規模拡大を目標に掲げ、使われなくなった農地を引き受けて面積を広げていった。
そして2003年には利根川沿いの広大な荒れ地の開墾に着手した。それが108ヘクタールの中核農場だ。この場所を農地に戻す計画を柏市が立てたとき、他の農家はあまりの広さに尻込みした。「全部やる」と応じたのは染谷さんただ一人。高さ数メートルの雑草を刈り、投棄されていた山のようなゴミを取り除き、10年近くかけて開墾した。ここを含め、農場はいま全体で約180ヘクタールある。
一方、染谷さんは自社農場の拡大と並行し、十数人の農家と資金を出し合って2004年に農産物直売所の「かしわで」を開いた。敷地面積が7300平方メートルあり、駐車場には120台収容できる大型の直売所だ。都市近郊で消費者が大勢いる地の利をいかし、地元の農業を盛り上げるのが目的だった。
きっかけは当時、中国から安いネギが大量に入ってきたことにある。ネギは柏市の主要な農産物だが、中国産に押されて栽培を諦めた農家もいた。見かねた染谷さんは仲間の農家に声をかけ、自分たちの売り場を作った。オープン当初は客足が少なく、2年半無休で頑張って運営を軌道に乗せた。
これが、染谷さんが就農から40年以上かけて築いてきた営農の形だ。作物を栽培して出荷するだけの状態から経営者へと脱皮した農家は少なからずいるが、その中でも大きな実績を上げた一人だろう。では70歳になったいま、染谷さんは何を今後の目標に掲げているのだろうか。