農家を応援するコメの新ブランドが撤退、その真相とは

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農家を応援するコメの新ブランドが撤退、その真相とは

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農家を応援するコメの新ブランドが撤退、その真相とは
最終更新日:2020年06月29日

新潟のコシヒカリや北海道のゆめぴりかなど有名なコメの銘柄に対抗し、消費者に新たな価値を提示しようとしたブランドが静かに姿を消した。名前は「米風土(まいふうど)」。コメ業界に新風を吹き込もうとした挑戦はなぜ行き詰まったのか。ブランドを考案し、各地の農家のコメを販売していた高橋隆造(たかはし・りゅうぞう)さんに話を聞いた。

コンクールの食味値でコメをブランド化

米風土は、高橋さんが社長を務めるUPFARM(アップファーム/大阪市)が2013年に立ち上げたブランドだ。農家の名前やコメの食味の評価を前面に出した点が特徴。品種や産地で競い合うのが一般的な中で、異色のブランドだった。
味の評価で活用したのが、米・食味鑑定士協会(大阪市)が実施しているコンクールの結果だ。一般のコメが対象のコンクールではまずコメの食味分析計を使って味を測定し、点数が85点以上だとその先の審査に移行。最終的には審査員が食べて味を確かめ、金賞や特別優秀賞を決める。
これに着目した高橋さんは、食味分析計で測った点数や表彰結果をコメのパッケージに印刷することを発案した。協会の了解を得たうえでコンクールに参加した農家に呼びかけ、味の評価を「見える化」して消費者にアピールする新たなブランドをスタートさせた。それが米風土だ。
コメの食味とは何なのか。この点について高橋さんは「食べたとき、明らかにおいしくないコメは誰でもわかる。でも、どれがおいしいコメかと聞かれると、答えるのは難しい」と話す。理由は「好みは人によって違うから」。
そこでコンクールの評価が意味を持つ。高橋さんが提案しようとしたのは、考えながら食べる楽しさだ。「85点のコメと90点のコメの違いをわかる人は実際にはほとんどいない。でも、どう違うのかを考えながら食べるとわくわくする」。そう語るのは、食味について次のように考えているからだ。「人は舌ではなくて、頭でおいしさを理解する」

米風土を販売し始めたころの高橋隆造さん

ここで高橋さんの歩みに触れておこう。大学を卒業すると、貴金属を使ったアクセサリー関連の商品を企画する会社を起業し、いくつかの百貨店にショップを出した。だが大学時代からの持病が悪化して体調を崩し、会社をたたんでまったく別の仕事に就くことを決断した。それが農業だった。
知人のつてで見つけた就農場所は鳥取県日野郡日南町。山あいにある農村で、効率的にコメを作るのは難しい地域だ。そのハンディを克服するため、「水田オーナーズクラブ」を立ち上げた。企業からコメの生産を受託するサービスだ。
ターゲットはコメの販売業者ではなく、一般の企業。契約企業によるコメの使い道として想定したのは、取引先への贈答用や販促のツール、社員への福利厚生など。コメを通常の流通ルートに乗せないため、価格競争に巻き込まれる心配はない。このアイデアが当たり、自らの田んぼだけでは需要に応えきれず、周囲の農家にも協力を求めるほどビジネスは拡大した。
この過程で、高橋さんは既存のコメのブランドへの疑問を深めていった。

水田オーナーズクラブの田植えイベント。収穫したコメはフードバンクなどに提供するため「チャリティー農園」の看板を掲げてある(鳥取県日南町、写真提供:高橋隆造)

資金繰りが悪化した理由とは

起業家として培った行動力をいかし、営農は軌道に乗った。だがコメ業界の実情を知るうち、同じように条件の不利な場所でおいしいコメを作っていながら、無名のままにとどまっている農家が各地にいることを知った。
一方で、「新潟県南魚沼産のコシヒカリ」など評価が定着し、高値で売れているコメがある。ではそうした有名な産地の農家のコメと比べて、世間的には無名だが頑張っている農家のコメは劣っているのだろうか。そう疑問に思った高橋さんが新たなブランドの旗として掲げたのが、米風土だった。
この挑戦に多くの農家が参加した。稲作の世界ではよく知られた匠(たくみ)の農家を含め、100人近い農家がコメを提供した。イタリア料理や中華料理などの著名なシェフもこの取り組みに賛同し、米風土の中から料理に合ったコメを選んでブレンドする商品を企画してくれた。
それでも、米風土はブランドとして定着できなかった。
理由の一つに、農家からの仕入れ価格が高かったことがある。60キロ当たりで平均2万円超と、一般的な取引価格よりもずっと高い値段で買い取っていた。これは高橋さんにとって譲ることのできない一線だった。効率的にコメを作ることができず、利益を出すのが難しい場所の農家を支えたかったからだ。

有名なシェフも商品の企画に参加した

もちろん卸値は仕入れ価格より高く設定した。だが、できるだけ安くコメを調達しようとする他の業者と比べると収益的には厳しい。営業のための経費などを差し引くと、利益を出せるような状況ではなかった。
事業が拡大する途上ゆえの難しさもあった。主な販路は百貨店やスーパー。もし米風土が売り切れれば、翌日には同じ棚に別のコメが並んでしまう。それを防ぐため、農家から多めにコメを買い取っていた。
結果的に余れば、予定していた価格よりも安く別のルートで販売した。農家には約束した値段通りに払っているので、迷惑をかけていない。だが、高橋さんにつねに資金繰りを心配しなければならない状態に置かれていた。
事業が一定の規模に達すれば、定番商品となって棚の確保に苦労しなくてすむようになったかもしれない。ではどこまで大きくなれば安定したのか。そうたずねると、高橋さんは「20倍以上にする必要があった」と答えた。
もともと自己資金を含め、4億円強で始めたビジネスだった。目指すゴールに到達するには、さらなる資金調達が必要だった。経費をかければゴールは近づくが、その分、挫折したときのリスクは大きくなる。そう判断した高橋さんは、2019年いっぱいでコメのブランドビジネスから撤退した。
コメは消費の減少が続く中で、大手の卸会社を中心に、限られたスーパーの棚の確保を目指して激しい競争を繰り広げている。「既存の流通の仕組みは強固だった。そこに風穴を開けるのは難しかった」。高橋さんはそうふり返る。

農家の名前や食味を前面に出したデザイン

新たな挑戦で農地の収益性向上を提案

こうして産地銘柄に対抗しようという試みは、7年で幕を下ろした。だがそれで高橋さんの挑戦が終わったわけではない。いま着手しているのは、農地を使った太陽光発電事業に関するコンサルティングビジネスだ。目的は営農と発電を両立させることで、農地の収益性を高めることにある。
提案しているのは、作物に十分な光が当たるように太陽光パネルの向きを変えることができる特殊な設備の導入だ。このシステムを開発したイタリアの企業と提携し、見学用の設備を滋賀県に設置した。農地を発電に活用したい農家にシステムを販売し、使い方を助言するビジネスを年内にも始める。
それだけ聞くと、移り気な起業家の新事業と思われるかもしれない。だが、コメのブランドビジネスを始めるための出発点となった水田オーナーズクラブはいまも健在。社会貢献を兼ねて稲作に資金を投じたいという企業や団体は多く、協力農家は新潟や三重などほかの県にも広がりつつある。

新たに手がけ始めた太陽光発電ビジネスのパネル(滋賀県蒲生郡竜王町、写真提供:高橋隆造)

今回の取材では、微妙な問題にも話が及んだ。仮に安く仕入れたコメを混ぜても、食べた人は気づかないのではないだろうか。そうすれば、資金繰りを楽にすることもできたのではないか。その点に関して高橋さんはこう答えた。「中身を偽るようなことはしませんでした。そんなことをしたら、農家や消費者や投資家を、そして自分自身のことを裏切ることになりますから」
一つのビジネスを道半ばで閉じるという本来なら後ろ向きのテーマについて、高橋さんは終始一貫して正面から質問に答えてくれた。だからこの記事は、これからも農業に関わり続ける高橋さんの次の言葉でしめくくりたい。「失敗したとは思っていません。全力でやりきりましたから」

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