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農家を応援するコメの新ブランドが撤退、その真相とは

吉田 忠則

ライター:

連載企画:農業経営のヒント

農家を応援するコメの新ブランドが撤退、その真相とは

新潟のコシヒカリや北海道のゆめぴりかなど有名なコメの銘柄に対抗し、消費者に新たな価値を提示しようとしたブランドが静かに姿を消した。名前は「米風土(まいふうど)」。コメ業界に新風を吹き込もうとした挑戦はなぜ行き詰まったのか。ブランドを考案し、各地の農家のコメを販売していた高橋隆造(たかはし・りゅうぞう)さんに話を聞いた。

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コンクールの食味値でコメをブランド化

米風土は、高橋さんが社長を務めるUPFARM(アップファーム/大阪市)が2013年に立ち上げたブランドだ。農家の名前やコメの食味の評価を前面に出した点が特徴。品種や産地で競い合うのが一般的な中で、異色のブランドだった。
味の評価で活用したのが、米・食味鑑定士協会(大阪市)が実施しているコンクールの結果だ。一般のコメが対象のコンクールではまずコメの食味分析計を使って味を測定し、点数が85点以上だとその先の審査に移行。最終的には審査員が食べて味を確かめ、金賞や特別優秀賞を決める。
これに着目した高橋さんは、食味分析計で測った点数や表彰結果をコメのパッケージに印刷することを発案した。協会の了解を得たうえでコンクールに参加した農家に呼びかけ、味の評価を「見える化」して消費者にアピールする新たなブランドをスタートさせた。それが米風土だ。
コメの食味とは何なのか。この点について高橋さんは「食べたとき、明らかにおいしくないコメは誰でもわかる。でも、どれがおいしいコメかと聞かれると、答えるのは難しい」と話す。理由は「好みは人によって違うから」。
そこでコンクールの評価が意味を持つ。高橋さんが提案しようとしたのは、考えながら食べる楽しさだ。「85点のコメと90点のコメの違いをわかる人は実際にはほとんどいない。でも、どう違うのかを考えながら食べるとわくわくする」。そう語るのは、食味について次のように考えているからだ。「人は舌ではなくて、頭でおいしさを理解する」

米風土を販売し始めたころの高橋隆造さん

ここで高橋さんの歩みに触れておこう。大学を卒業すると、貴金属を使ったアクセサリー関連の商品を企画する会社を起業し、いくつかの百貨店にショップを出した。だが大学時代からの持病が悪化して体調を崩し、会社をたたんでまったく別の仕事に就くことを決断した。それが農業だった。
知人のつてで見つけた就農場所は鳥取県日野郡日南町。山あいにある農村で、効率的にコメを作るのは難しい地域だ。そのハンディを克服するため、「水田オーナーズクラブ」を立ち上げた。企業からコメの生産を受託するサービスだ。
ターゲットはコメの販売業者ではなく、一般の企業。契約企業によるコメの使い道として想定したのは、取引先への贈答用や販促のツール、社員への福利厚生など。コメを通常の流通ルートに乗せないため、価格競争に巻き込まれる心配はない。このアイデアが当たり、自らの田んぼだけでは需要に応えきれず、周囲の農家にも協力を求めるほどビジネスは拡大した。
この過程で、高橋さんは既存のコメのブランドへの疑問を深めていった。

水田オーナーズクラブの田植えイベント。収穫したコメはフードバンクなどに提供するため「チャリティー農園」の看板を掲げてある(鳥取県日南町、写真提供:高橋隆造)

資金繰りが悪化した理由とは

起業家として培った行動力をいかし、営農は軌道に乗った。だがコメ業界の実情を知るうち、同じように条件の不利な場所でおいしいコメを作っていながら、無名のままにとどまっている農家が各地にいることを知った。
一方で、「新潟県南魚沼産のコシヒカリ」など評価が定着し、高値で売れているコメがある。ではそうした有名な産地の農家のコメと比べて、世間的には無名だが頑張っている農家のコメは劣っているのだろうか。そう疑問に思った高橋さんが新たなブランドの旗として掲げたのが、米風土だった。
この挑戦に多くの農家が参加した。稲作の世界ではよく知られた匠(たくみ)の農家を含め、100人近い農家がコメを提供した。イタリア料理や中華料理などの著名なシェフもこの取り組みに賛同し、米風土の中から料理に合ったコメを選んでブレンドする商品を企画してくれた。

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