なぜ担い手が減少する?~高齢化と就農のハードル~
農家の戸数は1995年から2015年の20年間で約40パーセント減少し、農業従事者の平均年齢は7歳増の66.8歳と高齢化が進んでいます。
新たに農業へ参入した新規就農者の数は、55,810人(2018年)と、10年前の60,000人(2008年)より減少しながらも、前年の55,700人からは微増しています。しかし、就農5年以内に3割が離農するという定着率の低さが課題です。新規就農者が就農時に苦労したこととして、最も多いのが「農地の確保」、ほぼ同率で「資金の確保」が挙げられています。
就農1年目に掛かる営農費569万円のうち、約7割と大部分を占めるのが農機具やビニルハウスなどの「機械・施設費」です。特に稲作農家の場合、機械整備一式で最低1000万円は必要ともいわれ、初年度の所得は平均すると200万円弱という新規就農者が乗り越えるべきハードルは高いといえそうです。
中古農機のシェアリングという選択肢
高額な初期費用という就農のボトルネックに切り込む存在として、頭角をあらわし始めているのが農機のシェアリングサービスです。今年6月にリリースした、農家同士の農機シェアリングシステム「AGRICOM(アグリコム)」を運営する株式会社エボレボ(東京都渋谷区)の代表、小山孝司(こやま・こうじ)さんが目指すのは、「持たなくても始められる農業」の実現だといいます。
前職では、中古車情報サイトを運営する会社のIT戦略担当だった小山さん。食品関連での新規事業を会社に提案しようと準備や調査をはじめました。その過程で農家を訪れるうちに、農業の重要性と同時に、離農者の多さや就農のしづらさなど、業界の課題を実感するように。1年半かけて全国の農家を巡るうちにその思いは大きく膨らみ、農業界の課題解決を使命と考えて起業しました。
創業者の思い
小山孝司さん
→農機シェアによりもっと気軽に農業が始められるようにしたい。
・農機は年に数回しか使わないのに、高額の出費となる。
→永続的に農業を⾏っていけるように、所有しなくても 「シェア」で農業ができるサービスを提供する
⇒・新規就農者の数を増やして農業界を救いたい
・農機の出費を理由にした離農を防ぎたい
小山さんは、「『この農機が壊れたら、買い替えずに離農すると決めている』と言いながらも、まだ働きたいという気持ちがある高齢農家たちにも出会った。彼らのような層をアシストすることも”裏ミッション”です」と語ります。
サービスの仕組み
貸し手は、農機具の写真やスペック、料金などを登録。借り手は、スマートフォンやパソコンから必要な農機具を簡単に探せます。両者がマッチングすれば、アグリコム上でメッセージのやり取りや決済を行い、貸し借りが成立します。
- 会員登録、年会費無料
- 貸出金額を自由に決められる ※目安:トラクター 10,000~50,000円/日、耕運機1,000~5,000円/日
- 眠っている農機を貸すことで副収入が得られる
※例えば、トラクターを1日2万円で貸し出したとすると…
2万円×5日間-手数料(代金の30%)=67,000円の収入
今後はオペレーター付の農機や、オペレーターのみの貸し出しも視野に入れています。
★マイナビ農業’s EYE:気になるポイント3つを聞きました★
Q1.保険は?
全ての農機具に、貸し借り期間中の機械保険が付帯しています。
農機具が、 破損等の偶発的な事故によって損害(修理費用)が生じた場合の補償や、農機具の使用中に発生した他人の身体の障害または財物の損壊について、 法律上の損害賠償責任を負担することによって、被る損害を補償します。
(商品設計、 保険引き受けは三井住友海上火災保険株式会社が担当。)
Q2.トラブル対策は?
貸す側・借りる側双方に、身分証明書の提出をお願いしています。農機具はナンバープレートが付いていないなど、盗難があった場合の対応がレンタカーよりも難しいこともあり、信用性の担保は特に慎重になるべきポイントです。
スマートフォンのカメラ機能を使って、免許証を登録いただくステップが難しいとの声を頂くこともありますが、そこはスタッフが電話などでサポートをしつつ、省略はしない方針です。
また貸し借りの際は、図面付きの「借受持チェックシート」に農機の状態を記入頂いています。万が一壊してしまった際の証跡としたり、状態の悪い農機の登録を防ぐ役割をしています。
Q3.配送は?
現在は、陸送会社をご紹介する形をとっています。配送料は距離計算なので、同エリア内で貸し借りができるとユーザーにとっては理想的です。
今後は、JAや地元の農機具店と協力し出品数を増やすことで、産地内でのマッチング事例にも力を入れていきます。実際に単協から前向きな声も頂いており、タッグを組むことで、農家の数を増やして農業界を救うという共通の目的を実現したいと考えています。
今後の展望
会員数を2021年3月末までに4,000農家、 2022年3月末までに10,000農家の会員獲得を目指します。 そして、農家に必要とされるシェアリングプラットフォームを目指し機能拡充を行っていくといいます。
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新品を購入しないと助成金が下りない、海外に転売した方が利益が大きいといった事情などから、中古農機具はなかなか浸透していないといいます。安全性が担保された形で、シェアリングの文化が進めば、作型や産地によっては大きなコストダウンが期待できそうです。
乗用車と違って車検など耐用性・安全性を客観的に保証する仕組みがないところを、いかに補えるか。また、資材を取り扱う既存勢と共存・共栄しながら、公益も追求できる同社のような志あるプラットフォームの跳躍に期待したいです。(マイナビ農業もそうありたいです)
<その他の参考資料>
農家に関する統計
農業労働力に関する統計
営農類型別経営統計(個別経営)
※農水省
(インフォグラフィクス制作:マイナビ農業・水谷)