インドの農業法人に倣った簡素なビニールハウス
親会社である株式会社エムスクエア・ラボで営業を担当していた原田大輔さんは、2016年に農業生産部門のベジラボを任されることになったのを機に、葉菜類のニラの生産に乗り出すことにしました。その際、新たにビニールハウスを建てることになり、当時、日本に進出していたインドの農業法人のビニールハウスを参考にしました。原田さんがこう説明してくれました。
「すでに撤退してしまったのですが、インドの会社が日本で使っていたのは無駄を徹底的に排除した、低いビニールハウスでした。低くなる分、横風に強いという話を聞き、草丈の低いニラを生産しようとしていましたから、インドの会社に倣って、通常の半分ほどの高さ180センチのハウスを建てることにしました」
ところが、いざ資材会社に相談してみると、「巻き上げ装置を付けましょう」、「ハウス間の行き来をしやすくするために連棟にしましょう」などと提案されたといいます。提案通りのハウスにすれば、農作業のちょっとした手間を解消できますが、設備費の増大は避けられません。機能を必要最低限に留めたい意向を伝えると、それでは商売にならないとビニールハウスの設置を断られてしまいました。そこで原田さんが頼ったのは浜松のビニールハウスメーカー、グリーンハウス浜松株式会社でした。
「過度な機能を付けない簡素なビニールハウスを……という、私の意向を聞き入れてくれる一方、肉厚で強度の高いパイプを使い、4本の筋交いを使って骨組みを補強して、強風に耐えられるハウスを建ててくれました」(原田さん)
低いハウス故の温度上昇は遮光剤を塗って解決
安価なパイプを採用すれば、もっとコストダウンができたかもしれません。しかし、それで強度が落ちては、風への耐久性を求めて低いハウスにした意味が失われてしまいます。原田さんの意向をくんだグリーンハウス浜松は、過度な機能を付け足すことなく、質の高い資材を選択して十分な強度を持つハウスを建てました。それでも間口4メートル、奥行25メートルのハウスの設置コストは施工費込みで約40万円ですから、通常の3分の1程度でした。
「社内の者からは『ドアぐらい取り付けたほうがいいのでは……』と言われましたが、ハウスの両サイドにドアを設置すると1棟で8万円ほどかかります。8棟でニラを生産していますから、すべてにドアを設置すると64万円もかかるので、ドアを設置せず、出入りする時はビニールを巻き上げていますよ(笑)」(原田さん)
ただし、ハウスを低くした分、内部の空間が狭くなり、どうしても熱がたまりやすくなってしまいました。夏場はハウス内で作業ができないほど暑くなり、作物にも影響が出かねないことから、遮光ネットを張ることも検討されましたが、低いハウス内に遮光ネットを張っては作業できなくなってしまいます。そこで原田さんはビニールハウスを覆うビニールに塗布するタイプの遮光剤を採用。これで日光を遮ることで内部の温度上昇を抑えて、問題なくニラを生産できています。
ビニールを巻き上げて強風を素通りさせる
低コストでありながら、問題なく葉菜類を生産できるビニールハウス。肝心の風に対する強度は十分に得られているのでしょうか。この問いかけに対して、原田さんがこう説明してくれました。
「私たちのベジラボも、施工してくれたグリーンハウス浜松さんも農業試験場ではありませんから、風速何メートルまでなら耐えられる……といった実験結果は持ち合わせていません。ただ、実際に強風を受けても大丈夫だったという実績があります。このあたりは冬に頻繁に突風が吹くのに、これまでまったく問題はありませんでした」
2018年、2019年に台風の直撃を受けた時は、ビニールを巻き上げて風を素通りさせることで骨組みの倒壊を防ぎました。通常のハウスなら、一度ビニールを剥がせば、資材会社に依頼してビニールを張り直してもらう必要がありますが、高さが180センチしかないため、原田さんとアルバイト2人での1日3~4時間の作業で、全8棟を張り直すのに2日間しかかかりませんでした。
「風に対する耐久性を厳密に調べているわけではないので、『どんな台風でも耐えられる』なんてことを言うつもりはありませんが、自分たちの手でビニールを剥がして強風をやり過ごせることも考慮すると、台風に強いビニールハウスと言えるでしょうね」と原田さん。
こうした特徴は、今後、より求められるようになると考えた原田さんは、この低いビニールハウスを「ニンジャトンネル」と名付けて製品化。製造、施工をグリーンハウス浜松が担当して、原田さんのハウスと同じサイズで、静岡県内であれば約40万円(税抜)で建てられるといいます。高さがない分、果菜類には不向きですが、ニラのほか、コマツナ、ホウレンソウなどの葉菜類や、育苗用のハウスとしても利用できますから、自然災害が頻発する日本に適した農業設備だと言えるでしょう。