江戸時代からさまざまな料理で愛されてきたサツマイモ
石焼きいも、干しいも、芋ようかん。スイートポテト、大学芋に芋けんぴ。こうしてわざわざ名前を挙げるまでもなく、サツマイモは性別年齢地域を問わずみんなに愛されている。
一方で、江戸の大飢饉(ききん)、激動の明治大正、昭和の敗戦。わたしたち日本人を何度も飢えから救ってくれた作物でもある。
栽培が簡単で誰でも収穫の喜びを味わえ、手軽に料理できてお腹が満たされる。栄養も食物繊維もたっぷりの準完全食として知られるサツマイモ。その魅力に、まずは歴史から迫ってみよう。
中南米原産のサツマイモが日本にやってきたのは、1600年頃だとされる。大航海時代にヨーロッパ経由でアジアに到達。日本には、清の時代の中国福建省から琉球国時代の沖縄に入ったのが最初とされる。その後沖縄から、いくつかのルートをたどって鹿児島や長崎に伝わったようだ。
暖地であればどこででも栽培できる丈夫な作物だということもあり、九州に加えて、四国や瀬戸内海沿岸部で栽培されるようになった。
関東地方では少し遅れて、1735(享保20)年に蘭学者の青木昆陽が出版した「蕃藷考(ばんしょこう)」をきっかけにして、一気に普及が進んだ。その背景には、飢饉対策としてサツマイモ栽培を奨励した8代将軍徳川吉宗の存在があった。
1789(寛政元)年に大阪で出版された「甘藷(いも)百珍」には、123種類ものサツマイモ料理が紹介されており、いかに民衆が好んだ食べ物だったかがわかる。中でも絶品中の絶品、当時のナンバーワンレシピとされたのは、「塩蒸やきいも」であった。
「塩蒸やきいも」は簡単に言ってしまえば、サツマイモの塩釜焼きだ。
サツマイモの品種ランキング、ベスト5
やせた土地でも日当たりのよい場所に植えさえすれば、誰でも簡単に栽培できて収穫の喜びを味わえるサツマイモ。どうせなら品種選びにもこだわってみたい。
まずは日本における品種別の作付面積ランキングを紹介しておこう。これを見るとサツマイモは、わたしたちの想像以上に重要な作物であることもわかってくる。
1位:コガネセンガン
1位のコガネセンガンには出会ったことがないという人もいるかもしれない。それもそのはず、コガネセンガンはもともとでんぷん生産用に開発された品種なのだ。
それが現在では芋焼酎の原料に欠かせない品種となっており、コガネセンガン以外の品種しか使わない芋焼酎を探す方が苦労するほど。なぜならこのコガネセンガンこそが、臭いと敬遠されていた芋焼酎の味を変え、芋焼酎を全国区のお酒に押し上げた立役者だからなのである。
じつはコガネセンガンは青果としてもおいしい品種。皮はジャガイモ色で果肉は白い。スーパーではまず見かけないから、家庭菜園で一度作ってみるのも面白い。
2位:ベニアズマ
2位のベニアズマは、店頭でもっともよく見かける、皮が赤紫色の品種だ。特に関東では、品種名のついていないサツマイモは、ほぼベニアズマだと思って構わない。ベニアズマもこれまた、うまさと栽培のしやすさを両立させた歴史的な品種である。
3位:高系14号
3位の高系(こうけい)14号は、地域によってはあまり耳にしない品種かもしれない。だがじつは、枝変わり品種も含めて別の名前をつけられてあちこちで流通している銘品種なのである。なると金時、宮崎紅、ベニサツマ、土佐紅、五郎島金時といった名前になじみがある人は、高系14号を食べていたことになる。青果向きの品種としては、東のベニアズマと西の高系14号が、2大巨頭として長らく君臨してきた。
4位:シロユタカ
4位のシロユタカはコガネセンガンと同じように皮の色が白っぽく、コガネセンガンよりも生産性に優れるでんぷん生産、焼酎醸造用の品種である。でんぷん用としてはコガネセンガンよりも多く生産されているが、焼酎の味の差でコガネセンガンに追いつけずにいる。
トウモロコシから作られるでんぷんであるコーンスターチ、ジャガイモやタピオカ由来のでんぷんと比べて、サツマイモから作られるでんぷんについては普段あまり意識することはない。だが今でもかんしょでんぷんは、清涼飲料水などで使われている異性化糖(果糖ブドウ糖液糖)の原料として重要な地位を占めている。また、安価なわらび餅に使われるわらび粉も、かんしょでんぷんである。つまりわらび粉とは、ワラビは一切使われずサツマイモでできているのだ。
なお、ワラビで作られたわらび粉は、本わらび粉と表示されている。
5位:べにはるか
5位のべにはるかは、2007年に育成された赤丸急上昇中の品種。べにはるかの最大の特徴は、そのうまさと果肉の見た目だ。あまくてねっとりしているだけでなく、冷えても黒く変色しないし硬くもならない。そのため干しいも用に引っ張りだこで、需要に追いつかない状況が続いている。まだ収量が安定しない面はあるものの、栽培技術が確立されれば、ベニアズマや高系14号を追い抜く可能性がある。
14位:アヤムラサキ
14位ではあるが、アヤムラサキについても紹介しておきたい。なぜなら紫イモブームを引き起こした伝説の品種だからである。紫色の天然色素の生産を目的として開発されたアヤムラサキは、菓子だけでなくブドウジュースなどさまざまな食品の着色に用いられている。
ほくほく系かねっとり系か
ほくほく系かねっとり系か。サツマイモを食感の違いで分けるのであれば、このものさしがいちばん適している。
ほくほく系の代表がベニアズマで、ねっとり系の代表が安納芋だ。ひと昔前までは、
ほくほく系の品種の方が人気が高かったが、のどに詰まる、冷えると硬くなるといった点が嫌われて、ねっとり系の品種に人気が集まるように変わってきている。
ねっとり系代表の安納芋とは?
先ほどのランキングを見て「あれ?」と思う人もいるだろう。そう、今人気のねっとり系代表の「安納芋」が入っていない。
実は安納芋という品種登録されたものはなく、「安納紅」と「安納こがね」という2種類が登録されている。そのうちの安納紅の作付面積は、現在6位まで追い上げ中だ。
家庭菜園にお勧めの品種
家庭菜園でサツマイモ栽培をより楽しみたいのであれば、珍しい品種も栽培してみたいもの。ここでは、シルクスイートとハロウィンスウィートの2つをお勧めしたい。
これまでに紹介した6品種はすべて公的機関が改良した品種だが、この2つはどちらも民間企業によって開発された。
シルクスイートはその名の通り、なめらかな口当たりが最大の特徴である。私も自分で栽培した芋を初めてふかして食べてみた時の衝撃は忘れられない。シルクスイートの名に恥じることなく、すでに裏ごししてあるのでないかと思うぐらいなめらかだったからだ。
ハロウィンスウィートの売りは、果肉がきれいなオレンジ色をしていること。なんとニンジンに多く含まれるβ-カロテンが、高系14号の約100倍も多く含まれる。これだけ色が変わっているのに、じつは高系14号の枝変わり。高系14号やその枝変わり品種と一緒に栽培して、自然の神秘を親子で観察すればきっとよい思い出になるだろう。もちろん味は高系14号譲りだから間違いない。
最後に、日本で最初にサツマイモの品種改良が行われた場所について付け加えておこう。
答えは沖縄である。
琉球国が編纂(へんさん)した歴史書「球陽」には、古知屋(くちや/こちや)村の名嘉眞(なかま)が珍しいサツマイモを発見してそれを栽培したところ、それまでの品種よりすべての点で優れていたこと、人々が争うように栽培するようになって「古知屋芋」と名づけられたこと、この功績が称えられて、名嘉眞は1731年に士族に与えられる黄冠を授けられたことが記されている。