1. 価格とシステムはお客様の反応を見て決めよう
摘み取りシステム
当農園ではイチゴ狩りの際にお持ち帰り用の摘み取りバッグを用意し、イチゴ100グラム300円で販売しました。しかし、摘み取って持ち帰るお客様は2割程度。そこで100グラム200円に値段を下げて販売しました。しかし、お持ち帰り率は変わりませんでした。
「値段が原因ではない」ということがわかったので、「摘み取って持ち帰りたい」と気軽に思えるシステムにできていないと分析。それまではイチゴ畑から40メートル離れた受付にしか、摘み取り用のバッグを置いていませんでした。そこで、畑の中央に目立つ赤いワゴンを置き、そこに摘み取りバッグを置きました。すると、利用するお客様が倍以上に増えました。
学び1:お持ち帰り率は価格変動に大きく左右されない
練乳セルフサービス
宮崎は特に、普段からイチゴに練乳をかけて食べる文化が定着しています。また、「イチゴ狩りは練乳とセット」という考え方は一般的になり、多くの観光農園では練乳がセルフサービスで置いてあります。練乳はコストがかかると考えるかもしれませんが、練乳でイチゴを食べることが当たり前になっているお客様にとっては、ないと不満足につながります。
そこで私たちも練乳をテーブルに備え付け、無料で提供しました。練乳好きのお客様には喜ばれましたが、観察していると1回の練乳代は1人100円以上かかることもしばしば。そこで私たちは「練乳の持ち込みOK」にした上で、「練乳は1カップ100円」として販売もしました。
練乳を有料にしたら使用する人がいなくなるかと思いきや、お客様の3割が練乳を購入。また、「練乳のセルフサービスは衛生面に心配がある」というイメージもあるため、結果的に無料提供はやめてよかったです。
学び2:練乳はセルフサービスにしなくてもよい
サブスクの需要開拓
定額制=サブスクリプション、通称サブスク。近年広がりを見せているサービスで、私たちも今シーズン「イチゴ月額食べ放題」のプランをつくりましたが、需要が見込めずプランとして成立しませんでした。イチゴ狩りは1シーズン1回で満足する人が多いのかもしれませんが、価格設定とサービスの内容次第ではサブスクの需要はあると思うので、新たな手法を見つけたいです。
学び3:イチゴ狩りのサブスクは、価格設定とサービス内容を再考する
2. 初年度こそお客様の声に耳を傾けよう
イチゴ狩り観光農園初年度ということもあり、オープニングパーティーを開き、日頃お世話になっている人や、クラウドファンディングで支援してくれた人を無料で招待して、オペレーションチェックをしました。その際に聞こえてきた声を拾って、農園をアップデートしました。
声1:フォトスポットに農園の名前がわかるものが欲しい
「毎年、思い出を重ねてほしいのであれば、農園名と日付がわかるものがあったらいいな」という声をうけ、日付を入れたボードを作成しました。
声2:授乳室が欲しい
「家族の思い出づくりのための観光農園」とうたっているのに、授乳室がないのは盲点でした。そこで、園内にアウトドア用品のシャワーテントを設置し、授乳室として使えるようにしました。
声3:暑い
3月になると、ハウス内の温度が25度以上になる日が増え、「暑い」という声がよく聞こえてきました。これはクレームや不満につながるので、休憩スペースに寒冷紗(かんれいしゃ)をかけて直射日光を防ぎ、業務用の扇風機を設置しました。
3. 解決できない問題
1シーズン観光農園を運営して、問題点をあげていく中で、「解決できない問題」もありました。
駐車場のキャパシティー
当農園の1回の予約キャパシティーは70人が限界で、これは駐車場のキャパシティーによるものでした。当農園は農業振興地域に指定されており、地目を変更して駐車場をむやみに広げることができません。
予期せぬ感染症
新型コロナウイルスの影響で、当農園も3月からお客様が減り、閉園時期も前倒しにしました。この問題に立ち向かうために重要なのは、「お客様が戻るまでの早さ」の設計、つまりファンづくりだと思います。近隣の飲食店でも、ファンが多く常連がついているお店は、客足の戻りも早かったです。だからこそ、観光農園というモデルで勝負する上で、圧倒的な差別化をし、愛し愛されるファンとの関係が必要だと改めて感じました。
模倣されやすいモデル
正直、私たちの取り組みは模倣することが容易です。品種の数は親苗を買えば増やせ、写真の技術はいいカメラと編集機材を買って学ぶことができ、大道芸も3カ月練習すれば誰でもできるものです。ということは、簡単に同業者に模倣されてしまい、サービス内容だけを見れば、当農園の価値は下がります。
ただ、私たちは同業者の方々が取り入れたいと思うことはどんどんまねしてほしいと思います。そのほうが、お互いの改善点などをシェアし、結果的に私たちの農園がもっと良くなると思うからです。
まとめ:今後の展望
日本一の満足度・翌年リピート率70%の観光農園へ
私たちは第1回でもお話しした通り、思い出づくりを目的とした観光農園でブランディングをしました。今シーズン運営してみて、そこから導いた来シーズンからの目標は「日本一満足度が高く、翌年リピート率が70%の観光農園をつくること」です。「昨年くらうんふぁーむに行ったから今年は別のところに行こう」ではなく、「今年もくらうんふぁーむに行こう」と言われるようになりたいです。
すなわち、「イチゴ狩りに行こう」ではなく「くらうんふぁーむに行こう」になることが私たちの狙いです。
それを達成するために、私たちは挑戦します。
来シーズン後に「山」に完全移転します
全6回でお話ししてきたように、私たちが「今」勝負できるものは「イチゴの品質とコンテンツ」でしかありません。模倣されやすいのです。だからこそ、既存の農家がまねしづらい「美しい景色をシェアできる空間」を求め、またお客様がより「思い出づくりをしたくなる空間」を求め、標高400メートルの山の上に移転します。敷地面積は6.6ヘクタール、東京ドーム1.5個分の広大なお茶畑を開拓して、イチゴ狩り園としてニューオープンする予定です。
十分すぎる広大な土地があるので、駐車場問題も解決でき、「天空のイチゴ狩り園」として新たな価値を見いだせるはずです。
また、標高が高いゆえに気温も平野部に比べて下がるのでイチゴの品質も上がると考えています。さらには、ゆくゆくは日南の平野部では作りにくい果樹系にも取り組み、期間限定ではなく年間を通して楽しめる観光農園を目指します。
ただ、「山に移転する」と周りに言うと、一番に心配されるのは「アクセスが悪い」ということ。というのも、最寄駅から20分、県道から約15分ほど山道を上ったところに位置するからです。しかし、私はこれが一番の問題でありながら一番の価値だとも思います。たとえば「秘境」のように、なかなか行きにくいこと自体が「感動」につながる付加価値になることがあります。普段上らない曲がりくねった山道、生い茂った杉の木漏れ日、上っても上ってもつかないワクワク感……。私たちは農園にたどり着くまでの「時間」や「体験」までもデザインし、忘れられない思い出づくりができる場所を目指していきます。