劇場公開中「僕は猟師になった」 猟師・千松信也さん直撃ロングインタビュー

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劇場公開中「僕は猟師になった」 猟師・千松信也さん直撃ロングインタビュー

劇場公開中「僕は猟師になった」 猟師・千松信也さん直撃ロングインタビュー
最終更新日:2020年08月24日

8月22日から上映中の「僕は猟師になった」は、京都の猟師・千松信也(せんまつ・しんや)さんに密着したドキュメンタリー映画です。くくりわなでイノシシやシカを捕り、肉を自給している千松さん。わな猟をはじめたばかりの筆者にとって、憧れの猟師です。今回は千松さんに直接、撮影の裏話や以前から気になっていたアレコレを聞いてきました! たっぷり語ってくれましたので、ぜひ最後までお付き合いくださいね。

大きな反響を呼んだドキュメンタリーが映画に

千松信也/1974年兵庫県生まれ。京都大学在学中に狩猟免許をとり、先輩猟師からくくりわな猟、無双網猟(むそうあみりょう)を学ぶ。現在は、運送会社で働きながら狩猟をしている。鉄砲は持っていない。2008年発行の著書「ぼくは猟師になった」(新潮文庫)が多くの人に読まれ、狩猟ブームをけん引する存在に。

京都で狩猟をする千松信也さんの日常を取材したドキュメンタリー映画「僕は猟師になった」。2018年にNHKで放送された「ノーナレ けもの道 京都いのちの森」が大きな反響を呼び、放送後に約300日の追加取材が行われ、およそ2年間の映像を編みなおして完全新生映画版になりました。2020年8月22日から全国順次公開中の注目作品です!

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千松さんが語ってくれた、マル秘?撮影裏話

──スクリーンで本映画を見た時の感想を教えてください。

家族で見たんですけれど、最初に撮影したのが2~3年前ぐらいで、子供たちがまだちっちゃくて。映画の内容以前に「わ、こいつらまだちっちぇえなぁ」って(笑)。横で見てた子供たちは照れ笑いとツッコミの連続でした。

改めて狩猟のシーンを見ると……。長い期間、取材していただいたので、獲物を捕るところをたくさん撮影してもらって。その中のわずかな部分だけが使われているんだけど、スムーズにいったやつはあんまり使われていないんです(笑)。

──えっ! そうだったんですね……。最後のイノシシに止め刺しをするシーンは、かなり切迫感がありました。

最後のイノシシは止め刺しに時間がかかって、あれは失敗例なんだけど……。あとは山で足を骨折したとか、どんくさい猟師の物語みたいになってるなって。もっとスマートな様子を使ってくれたら……と、ちょっと思ったというのは製作側へのクレームです(笑)。

ただ、全体を通して、いいところだけを見せてもそれはそれでウソですから。やっぱり長い間撮影してもらったがゆえに、いろんな面を総合的に撮ってもらえて。映画で使われたのは生活の一部の断面でしかないけれど、ちゃんと描いてもらったと思います。

──最後のイノシシのシーンは夜でしたよね。私は暗くて怖いので夜は山に行かないのですが、千松さんが夜に山に入るのには理由があるのでしょうか。

働きながらの猟生活で共働きなので、子供が小さい時は仕事が終わったらすぐ保育園にお迎えに行かないといけなくて。そのあと飯も食わせて、お風呂も入れて、寝かしつけてからだと、夜の10時から見回りに行くぞってなることもありました。

最近は子供が成長して、夕方、仕事帰りに見回りに行ってから帰宅できるので、夜中の見回りは減りました。それでも仕事が遅くなったり、用事が重なったりすると夜に行きます。夜の山も楽しいですよ。ムササビがいたり、フクロウがいたり。

ただ痕跡を見るのはやりにくい。あくまでも、毎日の見回りのなかで、どうしても日中明るいうちに行けなかった時にやむなく夜に行っています。

──なるほど! まさに働きながらの猟生活ですね。獲物を解体するシーンでは、お子さんや奥さんが一緒に作業していたのも印象的でした。家族で蜂蜜をとったり、イノシシの脂で軟こうを作ったり、千松家の暮らしぶりも素敵です。

妻は狩猟自体よりも、僕が山でとってくる草やムカデ油などの漢方薬みたいなものにすごく興味を持っています。映画にも出てきた軟こう作りは、妻が主導してやっています。妻もお肉を食べるのは好きなので、夫婦で解体をすることは子供が生まれる前からずっとあります。

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「自分と家族、友人が食べる分以上は捕らない」

──千松さんは大学在学中にわな猟をはじめてから、もう20年近くも猟を続けています。長く猟を続けていくために、モチベーションを維持するひけつはあるのでしょうか?

無理にモチベーションを維持しようとかはないです。山に入ると楽しいので。確かに友達で、3年間何も捕れなくてあきらめてやめちゃった人はいます。僕は獲物が捕れているので、楽しくやれています。

いろいろ考えるならば……僕は猟期以外の有害鳥獣捕獲をしていないので、年間のうち4カ月しか猟をしないから、猟のシーズンが終わったら次の猟期が待ち遠しいぐらいで。メリハリがあるのがいいんだと思います。猟が終わったら渓流釣り、山菜採り、川や海辺の魚取り、秋にはキノコ狩り、そしてまた猟期解禁。

僕は、自分と家族、友人が食べる分以上の獲物は捕らないって決めているので、猟のシーズンが4カ月あっても、捕りたい獲物がぜんぶ捕れたら2カ月しかたっていなくても猟を終えます。

有害鳥獣捕獲や焼却処理施設への考え

──千松さんは有害鳥獣捕獲に参加した経験はあるのですか?

シカとイノシシの類いでは、ないです。網猟の方で、技術の継承という観点からスズメ、ヒヨドリ、ムクドリとかの駆除に参加してはいますけれど、基本的に、いわゆる有害鳥獣捕獲という目的で人間の活動に害があるから動物を減らすっていう発想は、あんまり僕は好みではないです。

──映画のなかで、駆除された動物を焼却する施設が出てきました。私にとっては胸が苦しくなる映像でしたが、千松さんはあのような施設についてどのような考えを持っていますか。

あれは狩猟者側の問題というより、農作物を食べる現代社会の暮らしを行っている人たち側の問題として、必要だから存在するものですよね。

映画では象徴的に描かれていたけど、有害鳥獣捕獲をしている猟友会の方はふだんは楽しく猟をしている人だと思うんです。それが、大多数の人が獣害で苦しんでいる状況があって、狩猟の技術を持った人ができる社会貢献として有害鳥獣捕獲があって。

有害鳥獣捕獲は、多くの人がボランティアの感覚で捕っていると思うんです。夏場なんか汗だくになってダニとかブヨとかに刺されながら。狩猟犬も、夏に出したら熱中症で死んでしまいそうになることもあります。それでも頑張って捕っているのは、社会貢献としてやっているんだと思います。僕はやっていないので、大変申し訳なくて……。

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──有害鳥獣捕獲に協力している猟友会の人たちには、かなりの負担がかかっているように思います。たくさんの動物を産業廃棄物として燃やさねばならない現状は、何とかならないんでしょうか……。

これだけ獲物がいるんだから、もっと狩猟する人が多くてもいいという状況で、捕って食べる暮らしをする人がいないからこそ、あんな風に焼却しないといけないわけで。

猟師の高齢化も問題になっているけど、もっとそれぞれの地域、それぞれの田舎に捕って食べる人が広くいれば、焼却処分は減ると僕は思っています。今は必要だからあのような施設が存在しているけど、心情としては認めがたいですよね。

ちょっと手をかけて丁寧にやれば、おいしい肉のブロックになるものを処分しているのだから。ちょっとしたボタンの掛け違いなのか、食文化的な問題なのか……。

農業被害について「獣害はあっても害獣はいない」

──農林業では獣害が深刻になっています。

獣害は本当にひどい状態だと思うんですけど、シカやイノシシは人間に悪さしてやろうっていう気持ちは全くなくて、そこにうまそうな食べ物があるから食べたってだけの話。存在自体が害になっている生き物なんていなくて。獣害が発生しやすいような自然環境を、人間が作っちゃったんです。だから僕は、獣害はあっても害獣はいないと言っています。

実は農耕をはじめてからの人類の歴史は、獣害との闘いの歴史でもあって。ここ100年ぐらいは、急激な人口増加や山林の大規模な伐採や開発によって、一時的に野生動物の数が減少し、山奥にシカやイノシシを押し込んでいただけで。今は林業などが衰退して人間が森に関わらない文化を選択しているので、逆に人間が動物に押し込まれている状態です。

──農業被害がひどくなり、自ら狩猟免許を取得する農家が増えています。獣害に悩んでいる農家さんへアドバイスをお願いします。

自分で捕獲できるなら自分でやるのが一番いいと僕は思っていて。猟友会も高齢化でなかなか手が回らないことも多いと思うので、自力で獣害対策もやっていくしかないと思います。

──農地に入ってくるイノシシやシカは、初心者でも捕獲できるでしょうか。

頑張れば捕れますよ! 「果樹園よりもオリ(箱わな)でイノシシを捕る方が楽しくなっちゃった」というおじさんもいるし。80歳過ぎた女性でも「私は今はオリが生きがいでねぇ」と、誘因物を工夫して捕っている人もいます。

電気柵を張って、夜中にやぶられて「やられて大変や大変や、もう無理や」と言って防御一辺倒になると、どうしてもしんどいんです。それを捕獲っていう選択肢を手に入れると「捕ったぞー!」みたいに意欲的になれることもあります。向き不向きがあるとは思うんですけれど、守りつつ攻める、獣害対策は両方でやるほうがいいかと思います。

コロナと豚熱、今期の狩猟


──新型コロナウイルス以降、日々の暮らしや今期の猟について考えていることはありますか。

僕は街と山の境界線上で暮らしているから、仕事に行く時は手を消毒して、マスクをしてトラックを運転するんだけど、その後で山に入る時は、手の消毒薬のにおいを落としたいから水でしっかり洗い流して、マスクをはずして、っていう正反対のことをして暮らしています。自分が境界線に暮らしているんだなっていうのを、より今回は実感させられたなって思っています。

今期の猟では、コロナよりも豚熱(豚コレラ)の問題のほうが甚大です。京都でも今年の春に確認されているので。

──昨年度の猟期は、豚熱で狩猟が全面禁猟になった県もありました。気が重い問題です……。コロナの話に戻りますが、アフターコロナに向かうこの時代、働きながら猟をする千松さんの生き方が注目されています。

コロナウイルスの動向で、家でできる仕事をするとか、田舎暮らしに興味のある人も増えているから、そういう人たちが狩猟をやりやすい環境になる可能性があるかなと最近は思います。情報はあふれているので、興味がある人は狩猟に関われる時代だと思います。

──狩猟に関心がある人は、絶対この映画を見に行ってほしいです! 私もいろいろ考えさせられました。今この映画を見ておくことが、たくさんの人のこれからの人生に深い意味をもたらすような気がしてなりません。千松さん、今日はありがとうございました。

映画「僕は猟師になった」

8月22日(土)東京・ユーロスペースほか全国順次ロードショー

8月28日(金)公開 京都・出町座
9月11日(金)公開 アップリンク京都
9月12日(土)公開 大阪・第七藝術劇場、兵庫・元町映画館

語り:池松壮亮 出演:千松信也 監督:川原愛子
製作:NHKプラネット近畿
配給:リトルモア/マジックアワー
2020/日本/カラー/HD/16:9/5.1chサラウンド/99分
映画「僕は猟師になった」公式サイト

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