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世界の若者が「お茶の武者修行」に 過疎の村と世界をつなぐインターン

世界の若者が「お茶の武者修行」に 過疎の村と世界をつなぐインターン

高級茶・宇治茶の産地、京都府和束町。人口は3800人の‟過疎の村“ですが、20年前に新規就農し茶農業を営む「おぶぶ茶苑」が独自に取り組む「国際インターン制度」により、世界各国から若者が集います。そのユニークな仕組みと人気の理由を現地で探りました。

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26カ国から124人が参加。卒業生がお茶の広告塔に

日本茶に関心を持つ海外の若者が約3カ月の間、茶農家に住み込みで‟武者修行”をする――。ユニークな国際インターン制度は、日本茶のファンを世界に増やすことを目的に2012年から始まった。

そのプログラムは、短期間にして「茶農家のすべて」を体験できる濃厚なものだ。

生産管理の行程は季節によるが、植え付けから茶葉の刈り込み、旨みを引き出すための「かぶせ(直射日光を遮る被覆作業)」、5~7月・10月は収穫をする。収穫後は畑に隣接する工場で製茶をし、手作業での袋詰めなど、お茶作りの全行程に関わると言っていい。代表の喜多章浩(きた・あきひろ)さんが、付きっ切りで作業のポイントを指導する。

地元農家から借りた約10アールの土地を草刈りする様子

さらに、ウェブサイトやSNSを使った広報や動画編集、商品ラベルのデザイン、ブログや会報の翻訳、インターン希望者の窓口対応……と挑戦できる業務は幅広い。

今春からプログラムに参加しているオーストラリア出身のアレックスさんは、「夏は朝7時半から夕暮れまで収穫作業をして夜は製茶工場の手伝い。仕事はとてもたくさんある!」とおどけて目を見張る。ただ、「喜多さんに付きっ切りでお茶作りの過程を知ることで、一杯のお茶への感謝が増した」とも話す。

農作業の合間にインタビューに応じてくれた、インターン生のアレックスさん(右)とクレールさん(左)。

これまでに26カ国から120人以上が参加した。年齢は20代が中心で、国籍はアメリカが最も多く、ドイツ、フランスなどヨーロッパ諸国が続く。日本茶の真髄を学べると‟卒業生”の口コミで評判が広がっていった。

事務所の壁にはこれまでのインターン生全員分の写真が。スタッフが指をさす女性が「第1号」。

現在は1年を7期に分け、1期につき3人を受け入れている。参加者はオンライン面接で選抜するが、茶苑側が最も重視するのは「お茶への情熱」の強さだ。

「お茶作りや種類の豊富さを知れば知るほど、奥行きが増してもっともっと学びたいと思うようになった」と、フランスから参加中のクレールさんは熱っぽく話す。クレールさんのようなインターン生はやがて帰国し、母国語で日本茶の魅力や「おぶぶ」での思い出を周囲に語り、SNSで発信する。その国の「Tea Lovers(お茶のファン)」を増やす広告塔となるのだ。
元インターン生の中には、母国のリトアニアで日本茶販売の事業を立ち上げるなど、どっぷりとお茶の世界に浸った人もいるという。

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労働力は「得がたい経験の提供」の対価

おぶぶ茶苑で茶葉の刈り込み作業をしているインターン生

10キログラム以上にもなる刈り機でお茶を製茶するインターン生。代表が付きっ切りで指導する。

観光ビザを利用して滞在する参加者が多く、基本的に賃金は無給だ。20カ所に点在する合計3ヘクタールの畑の管理は喜多さんがほぼ一人でいたため、茶苑のスタッフは「それはもう有難いこと」とかみしめるように話す。

「その分、価値のある体験を提供したい」と、プログラムには工夫を凝らす。技術の説明は丁寧過ぎるほどに一つ一つ指導をするし、参加者が母国の茶文化をプレゼンする時間や、「Japanese Tea Basics(日本茶の基礎)」というクラス形式で日本茶の基礎を学べる座学、そしてスタッフと一緒にお茶を使った料理を作ったりとコンテンツは多い。

インターン生がそれぞれのスキルを活かした「個人プロジェクト」に取り組む点も、ユニークだ。いわゆる自由研究で、和束町最大のイベント「茶源郷まつり」の企画や、ロゴデザインの考案、お茶の木を使った工作、お茶を使ったレシピの開発や、サイフォンを使った新しいお茶の入れ方の研究など、開催など十人十色だ。「農作業プラスワン」を得て帰る参加者の表情は充実している。

当事者意識が、時の流れを濃厚に

「人気を保って長く続けられるのは、参加者自身が積極的により良いプログラムのために改善提案してくれ、茶苑側も受け入れてきたことが大きい」と、スタッフの中嶋萌絵(なかしま・もえ)さんは言う。

前述の「個人プロジェクト」の題材に、インターン制度の改善を選ぶ参加者も多い。運営に参加してもらうことで常に仕組みが見直され、彼らのメリットがある形に‟進化”しているという。

たとえば「来日前にもっと細かい情報が知りたかった」というインターン生は、一日の流れ、参加理由や茶苑で経験できたこと、あれば期待と現実のギャップなどを、参加者自身が動画にまとめて発信することを提案。以来、プログラム修了3週間前の恒例行事となった。この動画を見て応募した人も増えているという。

おぶぶ茶苑のホームぺージに掲載している、卒業生たちのインタビュー

プログラムの後半には、次のタームのメンバーを迎える。にぎやかな時を過ごしながら先輩として仕事を引き継ぐ。「1カ月半前の自分と同じ状態で入ってきた人の気持ちを理解しながら教えられるんですよね。常に新しいメンバーが目を輝かせて入ってきてくれる風通しのいい環境は、私たちにも良い影響を与えています」と中嶋さんは言う。

「あらゆる機会を最大限に」

自身もインターン生だった、社員の中嶋さん。同僚もインターン経験者だという。

中嶋さん自身もかつてのインターン生で、高知大学農学部でお茶について研究していた。在学中にお茶を軸にしたアグリツーリズムに関心を持ち、おぶぶ茶苑の日本人インターン生枠の募集を見て門を叩いた。

流暢な英語でインターン生をサポートする現在の姿から想像ができないが、インターン参加前は全く喋ることができなかったという。ネイティブスピーカーたちとの共同生活という「英語を使わざるを得ない環境」に身を置くことで急速に上達した。

英語の習得だけでなく、インターンの経験後、自分の積極性に変化が起きたという。カナダの大学に、茶とツーリズムを専門に研究する女性教授を在籍することを知った中嶋さんは、授業の受講を希望するメールをしたためる。その熱意に感銘を受けた教授は、中嶋さんのためだけの講義を開いてくれことになり、4カ月間の短期留学で日本茶ツーリズムの可能性を探った。

「最初のオリエンテーションで、『Make the most of your Internship!(インターンシップの時間を最大限に活用しよう)」という言葉を必ず参加者に伝えています」(中嶋さん)。

最後に中嶋さんは、国際インターンの狙いはもう一つある、と教えてくれた。「日本人にとって、日本茶は当たり前すぎてわざわざ注目しない存在。海外の人に評価してもらうことで新しい視点が加わり、日本人の心をお茶や農業に向けることができる」と。

一期一会のインターンシップで得られる、そして与えられる経験を考え尽くす。おぶぶ茶苑には、「関係人口」作りのヒントが無限にありそうだ。

おぶぶ茶苑のインターン制度について

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