畑の準備
よいニンジン作りには、よい畑の選定や畑づくりが欠かせません。望まれるのは耕土が深く、排水性・保水性に優れる畑です。有機質不足の畑では地面が固まりやすく、根がきれいに太れません。10平方メートル当たり20~30キログラム程度の堆肥(たいひ)を投入します。播種直前の投入はまた根の原因となるため、播種1カ月前までには行います。
ニンジンの播種時期と品種選定
露地野菜の生育は天候の影響を受けやすく、特に根菜類の根の伸長・肥大は地温の影響が大きいため、適期播種を心掛けます。むやみな早まきや遅まきは根の生育不良を招くため避けます。春まきでは抽苔を回避するために、春まき可能な品種を選びます。
ニンジンの肥培管理
夏まき栽培に必要な施肥量の目安は、10平方メートル当たりチッソ100~150グラム、リン酸150~200グラム、カリ100~150グラムです。このうち、元肥を7割、追肥を3割程度として、播種2週間前までに元肥を施用します。追肥は最終間引き後に行います。
ニンジンの播種(はしゅ)
ニンジン種子は小さく吸水力も低いので、均一な発芽のためには十分注意が必要です。播種溝の深さや覆土の厚さ、潅水が一定になるよう心掛けます。生ダネは株間1~2センチ程度で条(すじ)まきに、ペレット種子は株間6~10センチ程度で各所に5~6粒を点まきします。
播種溝や播種穴の深さは、人差し指の先から第一関節までくらいです。覆土は種子が見えなくなる程度に行い、乾燥防止のためしっかりと鎮圧します。
もみがらや敷きわらをかけると、強雨や乾燥対策になります。発芽がそろうまでは、畑が乾燥しないよう潅水を行います。ペレット種子は播種作業が容易ですが、生ダネに比べ発芽に多くの水分が必要なので乾燥に注意しましょう。
ニンジンの間引き
間引きは生育に合わせて行います。条まきでは本葉2~3枚で株間2~3センチ程度、肥大を開始する本葉5~6枚までに6~10センチ程度とします。点まきでも最終間引きまで2~3回に分けて間引きします。間引きが遅れると、根の肥大に影響するので気をつけます。間引き後は追肥を施し、中耕と株元への土寄せを行います。
ニンジンの収穫
収穫の目安は根重で150~200グラム程度です。収穫が遅れると割れや品質低下を招くので、適期収穫を心掛けます。
プロがお答え! 栽培Q&A
Q.ニンジンの表面に見られる黒い斑点状の病気は何ですか?
A.病斑が円形または長円形の褐色水浸状となり、病斑中央に縦の亀裂が入る場合、しみ腐(ぐされ)病の疑いがあります。
病原菌はかびの仲間で、過湿条件で発生が増加します。連作は病原菌の増加を招くため避けます。圃場(ほじょう)の水はけが悪い場合、高畝栽培で過湿になりにくくすることで予防します。
プロのおすすめ! 株間を変えて生育調整
株間は6~10センチが一般的ですが、意識して株間を変えることで生育を調整可能です。早く収穫したいときは広め、長期間収穫したいときは狭めにします。夏まきで播種を早めに行う場合、葉が強くできやすいので株間は広い方が根のそろいはよくなります。
ブリーダーのおすすめ品種
直売所にも家庭菜園でも
「向陽二号(こうようにごう)」は家庭菜園向けだけでなく、営利栽培向けとしても幅広く使われている大変作りやすい品種です。その理由は、土質を選ばず幅広い作型に適すること、しみ腐病に強いことがあげられます。
「恋ごころ」はやわらかい肉質で甘みに富むため、ジュースやサラダなどの生食用から惣菜加工用まで幅広い用途に向き、食味で差別化できるためおすすめです。
これらの品種は春まきでの栽培も可能です。一般地の露地栽培では3月中旬ごろ、ベタがけ栽培では3月上旬ごろから栽培可能なので、幅広い時期に収穫・出荷が可能です。
安定栽培ならこれ! 発芽率、発芽勢◎
「翔馬(しょうま)」は発芽率と発芽勢が高く、肩部の形状安定性も高いため、夏場の早まき栽培での秀品性に優れます。外皮色、芯色ともに濃橙色で、肌の照りに優れる点もおすすめです。なお、「翔馬」は種子の販売単位が1万粒と多くなりますので、直売所でグループ購入などして使用を検討されてはどうでしょうか。
「京くれない」はリコピンとカロテンを併せもつ赤色ニンジンです。肉質が緻密(ちみつ)で煮くずれしにくいため、生食から加熱調理まで幅広く活用可能です。
カロテンが従来品種の約1.5倍
「オランジェ」はフランス語で「オレンジ」を意味するように、外皮から芯まで濃いオレンジ色で、カロテンを従来品種の約1.5倍多く含みます。これらの品種は機能性に優れるファイトリッチ品種で、外観にも特徴があるため、従来品種と組み合わせることで注目を集められるでしょう。
筆者:タキイ熊本研究農場 前田匡夫(まえだ・まさお)