昼間からシカの群れが……急増する野生動物
6月の第1週目になると、ケモノがやってくる。
わが家のジンクスのようなもので、必ずこの時期にシカやイノシシが侵入してきて、畑を荒らされてしまう。今年は特にひどかった。
電気柵で囲った畑は無事だが、これまでの数年間、ワイヤーメッシュの柵だけで防げていた畑にイノシシが侵入した。
ワイヤーメッシュは90度に曲がり、支えていた木のくいは折られていた。足跡からして子どものイノシシだろうが、この力は恐ろしい。
即座に電気柵を注文したが、設置するまでの数日間はなすすべがなく、絶好調だったズッキーニをはじめ、9割程度の野菜を食べられてしまった。残ったキャベツも泥まみれ。見事に全滅してしまったのだ。踏まれて穴が開いたマルチからは草が生えてしまうので、ウネを再利用して何かを植え付けることもできない。
いつもながら鳥獣害は心が折れる。空き巣に入られたような怒りや、これまで育ててきた野菜が一瞬にしてなくなる悲しさ、また来るという恐怖など、さまざまな感情がわいてきて、比喩ではなく、夜も眠れない。被害額に換算したほうが気分的にはマシなくらいだ。
もちろん、電気柵を適切に設置すれば、シカやイノシシの被害のほとんどが防げるのだが、それにしても、昼間からシカの群れが歩いていたり、国道沿いのジャガイモ畑が全滅したり、ケモノの様子が変わってきているように感じる。「暖冬の影響で、動物がドッと増えたんや」と、近所の猟友会のおっちゃんは言うが、ケモノの数が人口を超える日は近い気がしてきた。
今まで散々やられたのだから一矢報いたいという個人的な感情ももちろんあるが、猟友会のおっちゃんたちが次々と引退していくなか、この町で安心して農業をしていくには自分自身でケモノの数を減らすしかない。
腹をくくり、狩猟免許(わな猟)をとり、猟友会に入って、箱わなを購入した。
免許取得と箱わな設置
免許を取得して、わなを設置するまでに必要な手続きや費用を簡単にまとめてみた。
狩猟免許を取得し、登録をする
狩猟免許は各都道府県が行う狩猟免許試験に合格することで取得できる。地域によって開催時期も回数もまちまちだが、年3~5回開催するところが多いようだ。
運転免許をとる時のように、筆記試験と実技試験がある。
筆記試験(マークシート方式)は狩猟に関する法律を中心とした狩猟知識を確かめるような問題で、実技試験は狩猟してもよい鳥獣を見分ける試験や、実際に箱わなを設置する試験などがあった。
筆記試験は猟友会で購入できるテキストや例題集を何度か読めば大丈夫。また、実技は「予備講習会」という自由参加の講習会で練習できる。この講習会は、運転免許でいう「虎の巻」的なものでもある。
無事、免許を取得できたら、猟友会に入会し、狩猟保険に入ることになる。
私が狩猟免許を取得し、登録をするまでにかかった経費は以下の通り。
■狩猟免許取得費用(その他の狩猟免許を持っていない「初心者」の場合):5200円(証明写真費用、診断書費用などを除く)
■予備講習会受講費:1万2000円
■猟友会年会費:5300円(大日本猟友会と大阪府猟友会の合計)
■猟友会支部入会費・年会費:6000円
■狩猟税と手数料:1万円
■わな保険料(施設賠償責任保険):1300円
※ 2020年8月時点。いずれも箱わなの場合。金額は所属する支部等により変わりますので、各都道府県の猟友会にお問い合わせください。
わなの種類
シカやイノシシをとる「わな」には2種類ある。
今回設置したオリのような「箱わな」と、「くくりわな」というトラップだ。
後者は値段的には安いが、ケモノの足をワイヤーで捕らえる仕掛けなので、逃げようと暴れるイノシシを仕留める技術が必要。
初心者の私は、猟友会の先輩の助言を受け、とりあえず最初は箱わなを選んだ。
箱わなにかかる費用
私が購入した箱わなは、送料込みで7万円弱。安くはない買い物だったが、農協で3割補助が出た(有害鳥獣被害防止対策補助事業によるもの。補助の有無や内容は農協による)。わが町には制度がなかったが、鳥獣害対策に力を入れていて、独自に補助金を出している市町村もあるようだ。
箱わなには、箱の両側が開く「両開き」と、片方しか開かない「片開き」がある。今回買ったのは「両開き」で、値段は高いが、ケモノに警戒されにくいということで選んだ。
箱わなの購入費も合わせると、免許の取得からわなを設置するまで合計で11万円ほどかかったことになる。そこから補助金を差し引くと、およそ9万円。
ちなみに、有害鳥獣駆除としてシカやイノシシを仕留めて処理すると、私の地域では成獣1体につき7000円ほどの報酬がもらえる(金額は、国の予算や地域によって変わる)。ベテランの猟友会会員は1つの箱わなにつき1年で10体以上を捕獲するそうだ。
設置場所と組み立て方法
猟友会の先輩にアドバイスをもらい、以下の条件が整ったところに箱わなを設置した。
- 獣道があるところ(そのほうがかかりやすい)
- 平らな場所(わなが安定するため)
- 軽トラが入れるところ(仕留めたケモノや道具の積み下ろしに便利)
箱わなは総重量が100キロもあるが、組み立て式で、メタルラックくらいに簡単に組み立てられるようになっていた。なにかあったときのために2人以上で作業したほうがいいと思うが、1人でも1時間もかからなかった。
仕掛けはベテランに聞くべし
仕組みは箱わなによってさまざまだが、だいたいが「蹴り糸」と呼ばれる仕掛けにケモノが触れると、扉が落ちるような仕組みになっている。蹴り糸の種類を、見えにくいピアノ線にしたり、そのへんのツルを使って警戒されないようにしたり、大きいイノシシだけがかかるように蹴り糸の位置を高めにしたり、みんないろいろと工夫しているようだ。
みんな最初は、エサだけやって、扉は落ちないようにしているらしい。ケモノの警戒心を解くための工夫で、オリの中のエサが食べられたことを確認してから、仕掛けが作動するようにする。
「釣りみたいなもんや。食いつくまでが勝負」というベテランの言葉が腑(ふ)に落ちた。何も考えずにやるところだった。
トレイルカメラで仕掛けるタイミングを見計らう
<動画>
わなの近くにはトレイルカメラ(ケモノが近づくと作動するカメラ)を設置したのだが、わなを仕掛けてから2日後にはイノシシの親子がやってきて、入り口付近の米ヌカを食べていた。まだ警戒心が解けておらず、中には入らない。
警戒心が解けて、中にある米ヌカを食べるようになったら、仕掛けを「オン」にしようと思う。
まだ、私の箱わな猟は始まったばかりだが、ケモノの止め刺しや解体は、近所の猟師の人と一緒に3度だけやったことがある。販売するのでなければ、手順はそんなに難しいものではない。「硬くて、血の味がする」と思っていたシカ肉は、ちゃんと血抜きをすれば、マトンの香りとホルモンのようなコリコリ感があり、市販の肉よりもよっぽど好みだった。部位によって変わる味の違いも楽しい。
果たしてケモノはかかるのか?! それはまたの機会に紹介したい。
【参考】
狩猟免許を取得する(環境省)