「飲み水がない」SOSに応えた他地域の協力
積立金の名称は「災害支援対策準備金」。千葉県農協青年部協議会が2020年4月に作った制度で、募金を出した人を含めて関係するメンバーのことを「Bondsネットワーク」と呼んでいる。bondsは英語で「絆」の意味だ。
青年部は各農協に加入している40代までの農家の集まりで、協議会はその上部団体。4月まで委員長を務めていた稲垣さんが発案し、実現した。稲垣さんはすでに委員長を退き、現在は協議会の参与の立場にある。
稲垣さんは以前から構想をあたためていたが、ある災害をきっかけに実現を急ぐべきだと判断した。2019年9月9日に千葉県を直撃した台風15号だ。
記録的な強風を伴うこの台風により、千葉県各地で栽培ハウスの倒壊や作物の倒伏、倉庫の損壊など甚大な被害が発生。千葉県が2020年3月にまとめた最終報告によると、農林水産業を合わせた被害総額は665億円に達した。
台風の直後、稲垣さんは県内各地の青年部と連絡をとろうとした。だが被害が深刻な地域は停電でスマートフォンを充電できなかったり、携帯電話の基地局が機能しなくなったりして、状況をつかむことが難しかった。真っ先に連絡がとれたのは、千葉市の東側にある八街市の青年部員。相手が訴えたのは「飲み水がない」ということだった。断水の影響だ。
苦境を知った稲垣さんは、関東甲信越地域の農協青年部協議会の委員長に「水を手配できませんか」とLINEで伝えた。対応は迅速だった。群馬と神奈川の委員長がホームセンターでペットボトルの水を買い、トラックで現地へ届けてくれた。その後、他の各県も飲料やブルーシートを送ってくれた。
農協の青年部の活動なので、本来なら農家に支援物資を届けるのが筋かもしれない。だがこのときは対象を農家に限定せず、青年部のメンバーが被災地の各家庭を回って水を提供した。稲垣さんは「農家のためとか、そんな小さなことを言っていられる状況ではなかった」と振り返る。
一口で500円の募金を集める工夫とは
台風15号の経験を通し、稲垣さんは「いざというときにすぐ支援物資を買える資金が必要だ」との思いを強めた。災害の種類は地震や台風、豪雪などさまざまで、何が必要になるかを予想するのは難しい。だが、お金を積み立てておけば柔軟に対応できる。そこで作ったのが、「災害支援対策準備金」だ。