必見! こと京都の防災指針「台風にはこうやって備えよう」

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必見! こと京都の防災指針「台風にはこうやって備えよう」

連載企画:農業経営のヒント

必見! こと京都の防災指針「台風にはこうやって備えよう」
最終更新日:2020年10月07日

天候不順が相次ぐ中で、とくに農家を悩ませているのが台風だ。大型の台風が上陸するたび、ハウスが倒れたり、農地が浸水したりして作物が収穫できなくなる。そうした被害を減らそうと、ネギを大規模に生産している農業法人の「こと京都」(京都市)は防災指針書を作成した。農家は天候不順に立ち向かうことができるのか。社長の山田敏之(やまだ・としゆき)さんに話を聞いた。

台風で60トンのネギが消失して得た教訓

こと京都は設立が2002年。アパレル会社に勤めていた山田さんが会社をやめて実家で就農し、事業を大きくするために立ち上げた。ネギを自社で生産するだけではなく、全国の農家からも仕入れており、売り上げは約20億円。山田さんは現在、日本農業法人協会の会長も務めている。

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「栽培がうまくいかなかったことを天候のせいにするのは簡単。でも売り先にいくら天気が悪かったと訴えても、『ああ、そうですか』と言われておしまい」。山田さんはそう話す。売り先は他の調達先を探し、農家は販路を失う。だが山田さんは「我々にはできることがたくさんある」と強調する。
販路は飲食店やスーパーが中心。農協や市場を通さず、直接売っている。そのためにとくに重視してきたのが、欠品しないことだ。栽培技術をいくら高めても、収量はどうしても天候に左右される。そこで打った手が、約束した量よりたくさん作ることだ。天候不順で仲間の農家の収量が落ちたときは、自社農場で多めに作っておいた分で補い、売り先に約束した量を出荷する。

台風で倒れたネギ

台風で倒れたネギ

仲間の農家の栽培が順調なら、自社で多めに作った分は余る。そのときは乾燥させたり、粉末状に加工したりして商品化し、廃棄に回さないですむように工夫してきた。だが、そうした地道な努力だけでは対処できない大きな災害が日本を襲った。2017年10月に日本に上陸した台風21号だ。
西日本一帯に暴風が吹き荒れたこの台風で、こと京都が自社農場で栽培していたネギのうち200トンが倒伏し、そのうち傷みがひどい60トンは出荷できなくなった。その結果、スーパーへの出荷を2018年1月から4月ごろまでストップせざるを得なくなった。1億円以上の売り上げが消えた。
ふつうなら、災害を嘆いて終わるかもしれない。だが山田さんは「人災の側面もある」と指摘する。スーパーなどとの契約を守ろうとして、残っていたネギをまとめて出荷してしまったのだ。生育途上の短いものも、カットネギに加工して販売した。1月以降に出荷するネギがなくなったのはそのためだ。
二つの課題が明らかになった。一つは、台風でネギが倒れるのをできるだけ防ぐ。もう一つはそれでも被害が発生してしまった場合、売り先に事情を説明して計画的に出荷量を減らす。そのために作ったのが、防災指針書だ。

防災指針書

こと京都の防災指針書

被害を受ける前の対策とは

防災指針書はA4で57ページ。想定されるリスクとして、台風、地震、コロナの三つを挙げ、対応方法をそれぞれ解説してある。ここでは指針書の中で最もボリュームのある台風対策を紹介したい。
災害時に優先して守るべきものとして順に掲げたのが、「従業員の安全」「自社の経営」「顧客からの信用」「供給責任と従業員の雇用」「地域農業の活力」だ。当然の内容のように見えるが、災害のさなかに何をすべきかをとっさに判断するうえで、優先順位を決めておくことには大きな意味がある。
では実際に台風が上陸するとわかったとき、どう対応するのか。戦略はシンプル。出荷時期が近づいているネギを、台風が直撃する前にいっせいに収穫することで倒伏を防ぎ、冷蔵庫に貯蔵する。これにより、出荷できなくなる量を最小限に抑える。指針はそのための手順を詳細に記している。
まず予想される台風の進路などの情報を収集。従業員の安全確保のためにやるべきことを確認するとともに、緊急で収穫する畑を決定。ネギを収穫し、冷蔵庫へと運ぶ。台風が通過する日は畑の作業を休み、通過後に状況を調査。風で被害を受けたネギが傷む前に収穫したり、追肥したりする。
売り先との情報共有も大切な仕事だ。いくら手を打っても、一部のネギは出荷できなくなる可能性がある。その量を把握し、売り先に出荷がどの程度減るかを早めに連絡。その後、畑の復旧状況や収穫予想を伝える。

台風で壊れた栽培ハウス

台風で壊れた栽培ハウス(写真提供:日本農業法人協会)

各作業の責任者も事前に決めておく。山田さんは防災指針の冒頭で「給料という収入の柱を災害から守ることは、自分の生命や財産、暮らしを守ることに等しい。そのために同じ方向を向いて行動してほしい」と訴えている。問題意識を経営者と社員が共有することが、防災の前提になる。
この指針書を作成するにあたり、山田さんは京都府や静岡県にある4カ所の拠点で60トンのネギを貯蔵できる体制を整えた。そう聞くと、「そんなに大きな貯蔵設備を持つことができるのは、こと京都のような経営規模の大きい農業法人に限られるのではないか」と思う人もいるかもしれない。
この点を質問すると、山田さんは次のような対策を示してくれた。日本には冷蔵設備のある大型のトラックが8万台以上あり、そのうち10%はふだん使われていない。緊急時にそれを貸してくれるよう、運送会社に事前に頼んでおく。農産物の運送用ではなく、貯蔵用にトラックを使うという作戦だ。
実際、こと京都は運送会社とすでに交渉を始めているという。経営規模をさらに大きくしていく過程で、自社の貯蔵施設だけでは足りなくなる事態も想定されるからだ。防災計画は、そこまで視野に入れて作った。

台風で落ちた梨

台風で落ちた梨(写真提供:日本農業法人協会)

「農業は天気次第」とあきらめない

自然災害やテロ攻撃などに遭ったとき、損害を最小限にとどめ、事業を続けることができるようにするのは企業にとって共通の課題。そのために平時と緊急時にとるべき行動がある。その段取りを定めた計画を、「BCP(事業継続計画)」と呼ぶ。山田さんは「農業にもBCPが必要だ」と話す。
もちろん、今回紹介した指針はネギを対象にしたもので、他の作物にそのまま当てはまるわけではない。ネギは収穫に適した時期にある程度幅があり、丈が通常より多少短くても品質に大きな差は出ない。これに対し、葉物野菜のように収穫適期が短い作物は別の対応が必要になるだろう。
肝心なのは「農業は天気次第」とあきらめるのではなく、各農家や生産者グループなどが自分たちに何ができるのかを考えることだ。山田さんは「台風などで被害を受けやすい時期は決まっている。そのときに100%出荷できるようにするため、企業努力でできることはたくさんある」と強調する。
山田さんが会長を務める日本農業法人協会は防災をテーマにしたセミナーを定期的に開いており、その都度、この防災指針書を公表して参加メンバーに対応を呼びかけている。自社のノウハウを明らかにすることが、各社が「企業努力」に取り組むための一助になってほしいと考えているからだ。

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