家業から企業経営へ。「どうやって経営を自分のものにしたか」

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家業から企業経営へ。「どうやって経営を自分のものにしたか」

連載企画:農業経営のヒント

家業から企業経営へ。「どうやって経営を自分のものにしたか」
最終更新日:2020年04月24日

農業でどれだけの事業規模を目指すかは人それぞれだろう。新規就農で奮闘している農家もいれば、代々農業をやっていてそれなりに豊かな農家もいる。ネギの生産・販売のこと京都(京都市)の社長で、日本農業法人協会の会長を務める山田敏之(やまだ・としゆき)さんは、彼らに対し「本気を出せば、もっと大きなことができる。チャンスは広がっている」とエールを送る。

踏み出そうとしない若い後継者たち

山田さんは実家が農家で、アパレルメーカーに勤めた後、32歳で就農した。1995年のことだ。会社員時代に大きな事業を任されていた山田さんは「どうせやるなら年商1億円ぐらいの農家になりたい」と思って就農したという。
もともと実家ではいろんな野菜を作っていたが、山田さんは品目を九条ネギに絞り、さらにカットネギの製造に進出して売り上げを拡大した。このとき強みを発揮したのが、会社員のときに培った営業力だ。ガイドブックを片手に東京のラーメン店を飛び込みで訪ね、取引先を増やしていった。
事業の拡大に伴い、自社農場だけでは需要に応えきれなくなった。そこで京都のベテラン農家をグループ化し、九条ネギを仕入れ始めた。その後、京都以外の農家にもネギの調達先を広げた。関連会社も含めると売り上げは約18億円。当初の目標をはるかに上回り、なお成長を続けている。

飛躍のきっかけになったカットネギ

山田さんは日本を代表する農業経営者の一人と言っていい存在だ。今回の取材は、若い農家へのアドバイスを聞くのが目的だった。そこで山田さんが語ったのは、現状に満足している人がいることへの物足りなさだった。
「売り上げが家族で2000万~3000万円の農家が結構います。利益もしっかり出ています」
ここで山田さんが指摘したのは、家族で代々農業をやっている専業農家だ。高単価の作物を作っていたり、栽培面積がそれなりに大きかったりして、手取りが家族全体で1500万円を超す例もあるという。物足りなさを感じているのは、その後継者たちのことだ。
「もちろん彼らはよく頑張っています。でも、それ以上拡大しようとしない。彼らなら地元に顔も利くし、面積を広げて地域を担うことができるのに」
高齢農家の引退が加速しており、借りることのできる農地は増えている。山田さんが若い後継者たちと接して感じてきたのは、一歩踏み出してチャンスをつかみ取ろうとしないことへのもどかしさだった。

京都の農家をグループ化し始めたころ(2010年撮影)

経営を任せてもらうために必要な行動

山田さんの実家も周囲の農家も、売り上げはそれほど多くはなかった。そういった小規模な農家と違い、「裕福で、拡大意欲のない農家」が意外に多いことを知ったのは、講演などで各地を回るようになってからだ。
若い後継者たちに、事業を大きくしたいという気持ちがまったくないわけではない。同世代で話して「頑張ろう」と決意を固めることもある。ところが、家に帰ると「オヤジさんにコテンパンにやられてしまう」(山田さん)。
父親から投げかけられるのは、次のような言葉だという。「おまえにいったい何がわかる」「十分な収入があるのに、何が問題なんだ」。父親からポルシェやベンツを買い与えられている人もいる。そして「懇々と諭されて、翌日はいつものように畑で作業する。そんなことの繰り返しです」(山田さん)。

建設中の本社・加工工場(2010年撮影)

では自身はどうやって一歩先へ踏み出すことができたのか。最初に掲げた目標は1億円。だが実際は、両親を含めた全体で売り上げは400万円しかなかった。山田さんにはすでに2人の子どもがいた。「こんな収入ではダメだと思いました。困ったから頑張れたんです」。山田さんはそうふり返る。
山田さんの場合も、父親との衝突はあった。とくに頭を悩ましたのは、農業経営と家計が分かれておらず、そのすべてを父親が握っていたことだ。
東京で飛び込み営業を始めた背景にはそうした事情もあった。自ら開拓した売り先なので、自分の売り上げにすることができたのだ。「こっちの通帳に回る売り上げが増えるうち、オヤジも『もうそれでいい』と言うようになった」(山田さん)。山田さんはこうして経営を自らのものにしていった。

ネギをカットする機械(写真提供:こと京都)

だがもっと大きな困難はその先に待っていた。ここで山田さんは「3000万円で満足している農家たち」の側に立ってそのことを説明した。「3000万円から1億円に増やそうとすると、利益が減って苦労が増えるんです」
1億円まで増やそうとすると、臨時のパートではなく、社員を雇うことが必要になってくる。ところが「いい人は必ずしも来てくれない」(山田さん)。例えば採用面接をして「来週から来てください」と言ったはずなのに、そのまま現れない。いったん働き始めても、無断で急に休んだりする。
こと京都グループの社員は現在、50人弱。さまざまな試行錯誤を重ねながら、社員教育の仕組みや勤務体系を整え、安定して人を雇用できるようにしていった。その難しさを知っているから、山田さんはこう話す。
「1億円を目指して、すぐにいい世界が見えてくればいいが、実際はそうではない。かなり苦労した後に、やっと次のステージが見えてくるんです」

成功する新規就農者の特徴

山田さんは若い後継者たちについて「どうしたらいいのかなあ」とくり返したが、頑張っている人がいることも認めている。「父親と生計を別にして、『自分でやりたい』と言って事業を伸ばしている人もいます」。山田さんを含め、農業界を引っ張っている経営者たちはそうやって営農の形を築いてきた。
一方で、新規就農者に関しては「よく頑張ってます」と目を細める。「この5~10年で売り上げが億円単位になったのは新規就農者が多い」という。栽培品目や経営の形はさまざまだが、彼らに共通しているのは「事業を大きくしたいという意欲が強い」こと。山田さんは取材でその点を何度も強調した。
「以前と違って市場出荷ではなく、自分で売ることができる。農地もまだまだ出てくる。事業意欲がある人にとって農業にはチャンスが広がってます」

九条ネギを使ったバーベキューイベント

ここから先は、本人たちのやる気次第としか言いようがない。家族経営のままでいたり、ある程度の売り上げで満足したりすることが否定されるべきでもない。そのほうが、農作業に向き合う充実感を味わえることも少なくない。
これに対し、山田さんは畑に出ることはめったにない。背広を着込み、マネジメントに専念する毎日だ。「起業のつもりで就農した。一生農作業をするつもりはありませんでした」。そう語る山田さんと同じ道を目指すチャンスはいくらでもある。それが、山田さんから若い農家への最大のメッセージだろう。

こと京都の15周年記念パーティー(2016年撮影)

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「食と農」の現場を日々取材する記者が、田畑、流通、スマート農業、人気レストランなどからこれからの農業経営のヒントを探ります。

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