農産物の卸販売「就農者の皆さん、できたものは全部買います」

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農産物の卸販売「就農者の皆さん、できたものは全部買います」

連載企画:農業経営のヒント

農産物の卸販売「就農者の皆さん、できたものは全部買います」
最終更新日:2020年09月24日

農家にとって貴重なパートナーが農産物の卸会社。最近は消費者に直接売る農家も少なくないが、栽培に専念したり、多様な売り先を確保したりしようと思えば、信頼できる卸の存在は大切だ。卸は農家にどんな思いを抱いているのか。農家民宿と貸農園、そして農産物の卸販売を手がけるコロット(埼玉県所沢市)の社長、峯岸祐高(みねぎし・ゆたか)さんにインタビューした。

就農をためらった理由と新たな商機

峯岸さんは現在、38歳。4年ほど会社に勤めた後、「独立して事業をやりたい」と思い、脱サラした。真っ先に思い浮かんだのが農業。実家は祖父母の代まで兼業農家をやっており、農地を持っていたからだ。
まず栽培技術を学ぶため、所沢市のベテラン農家のもとで研修に入った。だが数日やってみて「これはちょっと無理だ」と感じた。体力的にかなり大変だと思ったこともあるが、理由はそれだけではない。
実家の農地は丘陵地帯にあり、合計でも0.5ヘクタールと狭いうえに、細かく分かれていた。畑から畑へトラクターを移動させるのも難しく、効率的に栽培する道ははじめから閉ざされていた。
研修先は対照的。面積が数ヘクタールと広く、平地にあった。数棟の栽培ハウスや大型のトラクターもあった。そこで実際に農作業をしてみて、「農業で食べていくというのはこういうことか」と実感した。プロの農家の営農の姿を見て実家の条件の厳しさを知ったことが、就農をためらった最大の理由だ。
ただし、実家の農地を生かして事業をしようという目標は変えなかった。そこで選んだのが貸農園だ。0.5ヘクタールは農業をやるには狭いが、農作業を楽しみたい人に貸すには十分な広さだ。その利用者向けの休憩所として、祖父母がかつて住んでいた家を使ってみたところ、別の商機も生まれた。利用者から「ここに泊まりたい」という要望が出るようになったのだ。

農家民宿の室内

農家民宿の室内。古い家屋の趣が魅力

祖父母の家は築100年前後。大黒柱にはケヤキの木を使い、くぎをほとんど使わずに建てた昔ながらの家だ。土間や炊事場を含めて64畳の広々とした造りで、鉄製の風呂釜に底板を沈めて入る五右衛門風呂は今も現役。貸農園の利用者が泊まりたいと思うのもうなずける魅力的な建物だ。
ここで農家民宿を営むことにした。目指したのは、古い家屋の趣をじっくり味わいたい人のための宿にすること。そこであえて大々的には宣伝せず、ホームページを見て予約してくれる人に利用を絞ることにした。それでも人気はじわじわ広がり、週末は3カ月先まで予約が一杯という状況になった。
一方、脱サラ直後の研修先での体験は、就農とは違う形で農業との接点を生んだ。それが農産物の卸販売だ。きっかけは、農場で規格外のニンジンが大量に捨てられているのに気づいたこと。研修先に聞いてみると、「出荷の手間を考えると、売っても利益が出ない」というのが廃棄の理由だった。
そこで規格外のニンジンをわけてもらい、近くのレストランに持っていくと、「これ買うからもっと持ってきてよ」と好評だった。スーパー向けなど一般の流通には向いていなくても、味の良さは変わらなかったのだ。こうして峯岸さんは農産物の卸販売に参入した。仕入れ先は農家の紹介で増やしていった。
貸農園や民宿の仕事は週末が中心なので、平日は集荷や販売に当てるという形で仕事を両立させることができた。現在、埼玉県を中心に120~150軒の農家から仕入れ、飲食店や小売店、学校給食向けなどに販売している。

珍しい五右衛門風呂

珍しい現役の五右衛門風呂

農家にメリットのある仕入れ方法

卸販売を手がけるに当たり、峯岸さんが選んだ手法が播種(はしゅ)前契約だ。農家が毎年栽培を始める前に、値段と数量を基本的に決めておく。出荷時の相場によって値段が変わる一般的な取引の仕方と比べ、農家の側からすれば収益の見通しを立てやすいというメリットがある。
農家にイタリア野菜など珍しい品種の栽培を提案することもある。農家がもっと特色を出せるようにするのが目的で、種や肥料の仕入れ先も紹介する。背景には、新たな野菜を扱ってみたいという売り先の要望もある。
卸販売を始めようと思った原点を踏まえ、規格外のものも仕入れるようにしている。ただそれは、規格に合ったものも買うことが前提。安く調達するのが狙いで取引に来たと誤解される恐れがあるからだ。峯岸さんは「思った通りにできた農産物をまず買ってほしいのが農家の本音」と話す。そうした気持ちを理解することが、農家から信頼を得るための出発点になる。
一方、レストランや小売店などに対しては、腕のいい農家が作ったものを安定して提供できる点などをアピールし、売り先を増やしてきた。シェフが「顔の見える農家が今朝収穫したトマトを使ったサラダ」などをメニューに加えたいと思っても、自ら安定的に調達するのは難しいからだ。峯岸さんが農協などを通さず、農家からじかに仕入れているからできる取引方法だ。

色や大きさが不ぞろいの卵

色や大きさが不ぞろいの規格外の卵。味の評判は高い

こうして卸事業を拡大する過程で、貴重な出会いもあった。東京の西多摩地区を中心にした新規就農者の集まりである「東京NEO-FARMARS!(ネオファーマーズ)」のメンバーたちだ。峯岸さんが卵を仕入れている東京都西多摩郡瑞穂町のベテランの養鶏農家が語った一言で、彼らの存在を知った。「この辺りで若い就農者が頑張っているが、売り先が足りなくて困っている」
峯岸さんが今も忘れられない光景がある。メンバーの女性農家を冬に訪ねると、一人でダイコンを収穫していた。軽トラの荷台に水を入れたタンクを積み、ダイコンを一本ずつ洗っては、黙々と袋に詰めていく。作業場がないため、寒空のもと畑で作業していたのだ。3年ほど前のことだ。
このとき峯岸さんは「この人は何をやっているんだ」と思ったという。批判ではなく、賛嘆の言葉だ。「農家の家に生まれれば、トラクターの井戸も作業場もはじめからある。洗浄機も持っている。この人はゼロからスタートしたのに、文句も言わずに作業をしている」。農作業がいかに大変かを身にしみて知っているだけに、彼女の姿を見たときの驚きはいっそう大きかった。
しかも、峯岸さんが深く感じ入ったのは「メンバーたちに悲壮感がない」という点だ。「親に無理やり継がされたわけではなく、自分の意志で農業を選んだ人たちだ。それだけで素晴らしい」。その後、徐々にネオファーマーズのメンバーたちとの取引を増やしていった。

東京ネオファーマーズ

東京ネオファーマーズのメンバーたち

農家が腕を上げ、売り先を確保する好循環づくり

峯岸さんは会社をやめたとき就農を考えたが、研修でその大変さを知って断念した。だがまったく別の世界に進んだわけではなく、農家民宿や貸農園、農産物の卸販売という形で農業に関わり続けてきた。それは祖父母の住んだ家や畑を守ることから出発し、農業を応援することにもつながった。
取材でとくに印象的だったのが、新規就農者への思いだ。仕入れは事前に値段や量を決めておくことが基本。だが就農したばかりの人の中には、計画した通りに収量をあげることができない人もいる。そんな人には「できた分を全部買うから、持ってきてほしい」と話す。一定の上限は設けてある。だがそれは、頑張っても作るのがなかなか難しい量。事実上の青天井だ。
なぜ彼らを応援するのか。そうたずねると、峯岸さんはこう答えた。「栽培がうまくいかないのは農家の責任と突き放してしまったら、彼らは育たない。技術を高めてもらうには、買い続けるしかない」。彼らが腕を上げれば、いい売り先を確保することにもつながる。期待するのはその好循環だ。
ビジネスである以上、収益を度外視して長く取引することはできない。仕入れ値を含め、ときに生産者との間でシビアなやりとりもある。だが本音をぶつけ合うからこそ、ウィンウィンの関係も生まれる。そんな生産者とのネットワークを全国にも広げる。峯岸さんの次の大きな目標だ。

全国の農家とのネットワーク作りを目指す

全国の農家とのネットワーク作りを目指す

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「食と農」の現場を日々取材する記者が、田畑、流通、スマート農業、人気レストランなどからこれからの農業経営のヒントを探ります。

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