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農産物の卸販売「就農者の皆さん、できたものは全部買います」

吉田 忠則

ライター:

連載企画:農業経営のヒント

農産物の卸販売「就農者の皆さん、できたものは全部買います」

農家にとって貴重なパートナーが農産物の卸会社。最近は消費者に直接売る農家も少なくないが、栽培に専念したり、多様な売り先を確保したりしようと思えば、信頼できる卸の存在は大切だ。卸は農家にどんな思いを抱いているのか。農家民宿と貸農園、そして農産物の卸販売を手がけるコロット(埼玉県所沢市)の社長、峯岸祐高(みねぎし・ゆたか)さんにインタビューした。

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就農をためらった理由と新たな商機

峯岸さんは現在、38歳。4年ほど会社に勤めた後、「独立して事業をやりたい」と思い、脱サラした。真っ先に思い浮かんだのが農業。実家は祖父母の代まで兼業農家をやっており、農地を持っていたからだ。
まず栽培技術を学ぶため、所沢市のベテラン農家のもとで研修に入った。だが数日やってみて「これはちょっと無理だ」と感じた。体力的にかなり大変だと思ったこともあるが、理由はそれだけではない。
実家の農地は丘陵地帯にあり、合計でも0.5ヘクタールと狭いうえに、細かく分かれていた。畑から畑へトラクターを移動させるのも難しく、効率的に栽培する道ははじめから閉ざされていた。
研修先は対照的。面積が数ヘクタールと広く、平地にあった。数棟の栽培ハウスや大型のトラクターもあった。そこで実際に農作業をしてみて、「農業で食べていくというのはこういうことか」と実感した。プロの農家の営農の姿を見て実家の条件の厳しさを知ったことが、就農をためらった最大の理由だ。
ただし、実家の農地を生かして事業をしようという目標は変えなかった。そこで選んだのが貸農園だ。0.5ヘクタールは農業をやるには狭いが、農作業を楽しみたい人に貸すには十分な広さだ。その利用者向けの休憩所として、祖父母がかつて住んでいた家を使ってみたところ、別の商機も生まれた。利用者から「ここに泊まりたい」という要望が出るようになったのだ。

農家民宿の室内

農家民宿の室内。古い家屋の趣が魅力

祖父母の家は築100年前後。大黒柱にはケヤキの木を使い、くぎをほとんど使わずに建てた昔ながらの家だ。土間や炊事場を含めて64畳の広々とした造りで、鉄製の風呂釜に底板を沈めて入る五右衛門風呂は今も現役。貸農園の利用者が泊まりたいと思うのもうなずける魅力的な建物だ。
ここで農家民宿を営むことにした。目指したのは、古い家屋の趣をじっくり味わいたい人のための宿にすること。そこであえて大々的には宣伝せず、ホームページを見て予約してくれる人に利用を絞ることにした。それでも人気はじわじわ広がり、週末は3カ月先まで予約が一杯という状況になった。
一方、脱サラ直後の研修先での体験は、就農とは違う形で農業との接点を生んだ。それが農産物の卸販売だ。きっかけは、農場で規格外のニンジンが大量に捨てられているのに気づいたこと。研修先に聞いてみると、「出荷の手間を考えると、売っても利益が出ない」というのが廃棄の理由だった。
そこで規格外のニンジンをわけてもらい、近くのレストランに持っていくと、「これ買うからもっと持ってきてよ」と好評だった。スーパー向けなど一般の流通には向いていなくても、味の良さは変わらなかったのだ。こうして峯岸さんは農産物の卸販売に参入した。仕入れ先は農家の紹介で増やしていった。
貸農園や民宿の仕事は週末が中心なので、平日は集荷や販売に当てるという形で仕事を両立させることができた。現在、埼玉県を中心に120~150軒の農家から仕入れ、飲食店や小売店、学校給食向けなどに販売している。

珍しい五右衛門風呂

珍しい現役の五右衛門風呂

農家にメリットのある仕入れ方法

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