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キングダムを読んで練る戦略「地元で1000ヘクタール、さらに全国へ」

吉田 忠則

ライター:

連載企画:農業経営のヒント

キングダムを読んで練る戦略「地元で1000ヘクタール、さらに全国へ」

埼玉県加須市で稲作を営む中森剛志(なかもり・つよし)さんは、就農からたった4年で栽培面積を100ヘクタールに拡大した。目的は大規模経営のノウハウを高めながら、たくさんの若者を農業の世界に呼び込み、農地を守ることにある。農業の未来をどう展望しているのか。中森さんに話を聞いた。

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チームの平均年齢は20代! まるで若者の秘密基地

中森さんは東京農業大学を卒業した後、青果店の運営を経て、27歳のときに就農した。5年前のことだ。栽培面積は4年目に100ヘクタールに達し、現在はさらに増えて135ヘクタール。コメを中心に麦や大豆を作っている。

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職員を雇用して大規模に営農することを当初から目指しており、就農とともに農業法人の中森農産を立ち上げた。社員はいま10人で、平均年齢は20代半ば。日本の農家の平均が70歳近いのと比べ、格段に若いチームだ。
事務所は、古い木造の空き家を借りて開いた。玄関を入ってすぐ左にあるのが応接室。そこで取材をしながら奥の部屋をふと見ると、さまざまな機器が置いてあった。床にあったのはドローン。農薬散布用に購入したもので、いかにも先進経営の農業法人らしい機械だ。だがその横にあったのは、懸垂用のぶら下がり健康器とダンベル。天井からはサンドバッグがつり下げてあった。
懸垂をしたり、サンドバッグにキックしたりするのは仕事が終わった後。稲作はいくら機械化が進んでいるとはいえ、やはり体力仕事だ。それが終わった後に、もう一度体を動かしたいと思うものなのか。そう聞くと、「みんな若いので、トレーニングが好き」とのこと。それほど元気ということなのだろう。

サンドバッグ

天井からつるしたサンドバッグ

右側にある大広間は会議室だ。本棚を見ると、農業関係の本に混じって人気マンガが積んであった。秦の始皇帝による古代中国の統一物語を描いた「キングダム」だ。なぜキングダムなのか。この質問には、トレーニング器具よりも直球の答えが返ってきた。「いろんな戦略や戦術がいっぱい出てくる。それが面白いし、仕事や生活にも生かせると思うんです」
若者たちの秘密基地。それが筆者の抱いた感想だ。日々さまざまな議論をしながら、わくわくするような農業の未来像を描いているのだろう。
組織がまだ小さいので、スタッフを確保するために求人サイトで広く募集したりはしていない。すでにいるスタッフが自分の友人に声をかけたり、取引先の息子を紹介してもらったりする形で徐々に人数を増やしてきた。
その過程で、入社希望者の父親から「農業なんかをやらせるために大学に入れたんじゃない」と言われたことがある。中森さんはそのとき、「いまはお父さんが言うような産業かもしれませんが、僕がそれを変えます。ぜひ息子さんをうちに入れてください」と訴えたという。父親はその場では首を縦に振ってくれなかったが、その後、息子が中森農産に入ることを認めてくれた。
スタッフに求めているのは「ビジョンを共有できること」だ。ただし、入社時点で同じビジョンを抱いていることまで求めてはいない。一緒に仕事をする中で、同じ思いを抱くようになってくれればいいと思っている。

キングダム

本棚に積んだ「キングダム」。59巻は最新巻

想像以上に進む食料供給能力の危機

仕事が終わった後はなお余った体力をトレーニング器具で発散し、キングダムを読んで戦略のアイデアを競い合う。そんな若い活力に満ちたチームだが、地域の人たちにとっては、ときに「よそもの」に映る。

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