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農協に出すか自分で売るか、10年の模索でわかったベストの形

吉田 忠則

ライター:

連載企画:農業経営のヒント

農協に出すか自分で売るか、10年の模索でわかったベストの形

農家は農協を通さず、農産物を自分で直接売ったほうがいい。農業に関してそんな見方が根強くある。ネギやサツマイモを生産するシセイ・アグリ(大分県豊後大野市)の社長、衛藤勲(えとう・いさお)さんもかつてそう考えていた。だが10年余りの試行錯誤の末、それぞれのルートの利点をいかして販売すべきだという結論にたどりついた。衛藤さんの歩みを紹介したい。

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余った農地から感じたビジネスチャンス

衛藤さんは現在、42歳。東京農大を卒業し、いったん造園関係の会社に就職。30歳のときに実家に戻り、父親が経営していたシセイ・アグリに入社した。
同社には農産物の生産と、堆肥(たいひ)の製造・販売という2つの事業の柱がある。農業部門の売り上げは1億円強と、堆肥部門とほぼ同じ規模。だが12年前は堆肥部門が中心だった。衛藤さんはシセイ・アグリに入ると、事業のバランスを改めて農業部門を強化することを決意した。
理由は二つある。一つは堆肥の売り先が減り続けていたことだ。かつては公共事業による町並みの整備やゴルフ場の造成などで堆肥の需要がたくさんあった。だが衛藤さんが入社したときには、こうしたニーズは影を潜めていた。残る売り先である農家も高齢化で数が減ることが確実になっていた。
もう一つは、安い堆肥が大量に出回るようになったことだ。背景にあるのが畜産農家の規模拡大。たくさんの牛を飼うようになった畜産農家がふん尿を処理するために堆肥に加工し、ホームセンターに卸すケースが増えていた。彼らは堆肥で収益を上げるのが目的ではないので、価格競争が激化した。
一方、周囲を見渡せば、たくさんの田畑があった。高齢農家の引退は堆肥の販売にとってはマイナスになる。だがそこで余った農地を借りていけば、自社の農場を大きくすることができる。そこにビジネスチャンスがあると感じた衛藤さんは、農業部門の強化へと経営のカジを切った。

農業部門を強化

農業部門を強化してきた衛藤勲さん

農業部門を堆肥部門に並ぶ柱に育てる過程で取り組んだのが、栽培品目の見直しだ。シセイ・アグリがもともと主力にしていた作物はショウガで、高知県の卸会社に販売していた。だが衛藤さんが入社したときは連作障害が深刻になっていた。台風で茎が折れ、収穫できなくなることも度々あった。
ショウガの収穫は年に1回。病気や台風による被害で、多いときは2000万円もの損失が出た。そんなとき、衛藤さんは「1年間何をやっていたのだろう」とやりきれない思いを味わったという。それでも栽培を軌道に乗せようと努力したが、3年ほどたったとき品目を変えることを決断した。
そこで手がけてみたのがサツマイモだ。ショウガは農薬の散布やスプリンクラーによる水やり、台風対策など手間がかかるのに対し、サツマイモは栽培が簡単で台風にも強い点が魅力だった。まず0.3ヘクタールで作り始めた。
シセイ・アグリがいま栽培している品目はネギとサツマイモ、サトイモの3種類で、栽培面積は計20ヘクタール。売り先はネギが農協や外食チェーンなどで、サツマイモが農協、サトイモは冷凍野菜の製造会社だ。
父親の後を継ぎ、社長になったのが6年前。品目も販路もいまはほぼ安定している。だが、ここにいたるまでにさまざまな挑戦と挫折があった。

サツマイモ

ショウガに代わる品目として作り始めたサツマイモ

売ってみてわかった各販売先のリスクとは

「農作業をやりたかったわけではなく、経営者になって事業を大きくしたかった」。衛藤さんは12年前のことをそうふり返る。そこで栽培はスタッフに任せ、自分は各地を飛び回って販路を増やすことにした。「農協を通さず、自分で売るほうが賢いという時代の雰囲気」(衛藤さん)も背景にあった。
その結果つかんだのが、食品を扱うある小売チェーン向けの販売契約だった。栽培した品目はキャベツと白菜。相手側の経営陣は「できたものは全部買う」と言っていた。だが、いざ取引を始めてみると、店舗が定めた規格以外の大きさのものは買ってくれなかった。この取引は数年続けてやめた。
カラフルなミニトマトを冬にハウスで作り、通販などで売ってみたこともある。だが、期待していたほど販売量は増えなかった。暖房費がかさむこともネックになり、栽培そのものを断念した。漬物の加工会社と契約して大根を栽培してみたこともあるが、これもあまり長くは続かなかった。
いま収益の柱になっているネギにも曲折があった。「農協に出していたのでは飯を食えない」という周りの農家の雰囲気もあり、農協以外の売り先との契約を増やしていった。だがやってみてわかったのは、不作のときも豊作のときもリスクがあるという点だ。

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