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おざなりなデザイナー選び&「盛り込み型」パッケージからの卒業!【#8】

おざなりなデザイナー選び&「盛り込み型」パッケージからの卒業!【#8】

地産地消には取り組んでいるけれど、広がらないし、なかなか儲からない……そういった街も多いのでは? そんな令和時代の地産地消事業を掘り下げる連載。
さあ、地産地消の素晴らしい商品ができた。では、パッケージはどうしよう? とても重要なことなのに、おざなりにしていませんか。

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商品にとって最高の媒体とは?

地産地消プロジェクトでは新商品が作られることがよくありますよね。
みんなで手塩にかけた貴重な商品、品質にも大いに自信がある。さあ、売ろう!
ところが、いざ発売してみると思ったより売れないぞ……。そういう状況はよくあります。
その理由はいろいろあると思いますが、まず見直してみるべきものに、パッケージデザインがあります。
パッケージをデザインするプロセスは、とても重要なことなのに、地産地消プロジェクトのなかではおざなりにされることが多いです。
本来、パッケージデザインは商品開発のなかで、中身を作ることと同じくらい大事です。
商品を買ってもらうには、その魅力を伝える努力が必要です。では、どうやって伝えるのか。パンフレットか、SNSか、イベント出店か……?
いえ、まず大事なのは商品の外見(用語メモ1)です。
パンフレットやSNSも大事ですが、商品のパッケージは、それを買おうとする人の目に必ず触れるものですから、最重要の媒体とすらいえます。

用語メモ1:商品の外見(パッケージ)

商品の外見が媒体として重要な理由は、そのままキッチンに持ち込まれるという点にもある。もしパッケージが素晴らしければ、そのおいしさも2割増し、3割増しにも感じるもの。後述するクラフトビールのような商品であれば、テーブルの上に載るだけで絵になり、デザインの出来映えは確実に味わいに影響する。つまり、パッケージの出来不出来は、新規顧客の獲得だけでなくリピーターの獲得も左右する。

地産地消デザインの失敗パターン5選

ここからは、地産地消のパッケージデザインの失敗パターンを5つ挙げていきたいと思います。

パターン1 そもそもデザインを重視しない

 
そもそもデザインを重視しないのは、「地産地消が良いことだから」かもしれません。
地産地消は、地元の経済に貢献するし、環境にもいい。だからおいしい商品があれば、きっと買ってくれるはずだ。そういう無意識の思い込みが関係者のなかにあるのではないでしょうか。
でも、関係者が思っているほど、消費者は地産地消に関心がありません(直売所を経営している筆者が言うのだから間違いありません)。その冷酷な事実に向き合うところがスタート地点。地産地消にまったく興味のない人に商品の魅力をどのように伝えるのか、最善の策を考えていきましょう。

パターン2 なんとなく素朴 or なんとなくかっこいい

 
地産地消プロジェクトから生まれる商品の見た目は、なんとなく素朴なものであることが多いです。実際、“手作り感” “田舎感”がある商品の方が売れるケースもあります。ただ、最近では直売所や道の駅もオシャレな空間になってきているところもあります。パッケージはそうした陳列される場所との相性も考える必要があります。
一方で、なんとなくかっこいいデザイン、オシャレなデザインにすることも気を付けたいところです。かっこいいデザイン案が会議に出てくるとなかなか反対しにくいため、こちらの方が素朴パターンより厄介かもしれません。しかし、銀座や渋谷で売れるものと田舎の道の駅で売れるものは当然ながら違います。
なぜそのようなデザインになっているのか、デザイナーと遠慮なくとことん話し合っていきましょう。

パターン3 なんとなくデザイナーを選ぶ

 
デザイナーの選定プロセス(用語メモ2)こそ、パッケージデザインを作り上げる過程で一番大事と言っても過言ではありません。後述する実例のように、素晴らしいデザイナーであれば、こちらが多くを語らなくとも、商品の魅力を十二分に引き出してくれる可能性があります。
ところが、地元の関係者のあいだで進んでいくプロジェクトでは、「あ、俺、友達にデザイナーいるよ」「じゃあ、その人にお願いしようか」というように、デザイナーの選定プロセスがおざなりになるのは、最頻出の“失敗パターン”なのです。

用語メモ2:選定プロセス

地産地消プロジェクトでは、デザイナーに限らず、業者の選定プロセスがおざなりになりやすい。誰かの知り合いだという理由や自治体がよく発注している先だという理由だけで選ばれることが多発、結果として、原価が高くなりすぎたり品質が不満足なものになったりする。売れる商品にするためには取引先は慎重に選ぶ必要がある。

パターン4 なんとなくワイワイ

 
地産地消プロジェクトの効用のひとつは、ワイワイガヤガヤと地域の多くの人が議論に加わり、地域コミュニティーが育まれることです。たとえば、地元の農家と商店主と自治体職員が一緒に同じゴールを目指して仲良くなれば、それは間違いなく地域の財産になります。
ただ、デザインというものは一般的に、「とがらせる」ために行うものです。ですから、ワイワイガヤガヤはかえって仇(あだ)になることがあります。あまりに多様で散乱した意見をデザイナーにぶつけると、ありきたりでつまらないデザインになりかねません。
とくに“公募”は要注意です。筆者は、基本的にデザインは公募に向かないと思います。
公募のプロセスでは、多くの人の議論のなかで最終作品を決めることになります。しかし、デザインとは本来、多数決とはあまり相性が良くないものです。

パターン5 なんとなく盛り込みすぎる

 
とにかく目立たせようと思って、パッケージを文字だらけにしたり、派手にしすぎたりすることも注意したいところです。
商品開発に汗をかいてきた人から、「俺のゴボウの良さはシャキシャキ感にあるんだから、それもパッケージに書き込んでくれよ」と言われたら、それを却下するのは難しい……。“地産地消あるある”のひとつです。
しかし、そんなときはこの格言を思い出しましょう。「良いデザイナーとは、余白を使うのがうまいデザイナーだ。」
なぜなら、消費者は店頭で手に取るときにいちいち文字を読んだりしません。直感的に目をとめて手に取ってもらう、つまり瞬間性(用語メモ3)が大事です。「盛り込み型」デザインは要注意です。
できればパッケージの文字は最小限にとどめ、POPで補完しましょう。最近では、QRコードをパッケージにつけて、詳細をWebサイトやYouTubeに誘導する方法も増えています。

用語メモ3:瞬間性

商品の魅力を伝える媒体としてパッケージを考える時に、もっとも大事な要素は何だろうか? それは「瞬間性」だ。
たしかに商品の良さというのはひとつの言葉では語れないだろう。
というよりも、本当の素晴らしさは、小田和正の歌にもあるように「言葉にできない」ものだ。だからこそ、そうした文字で表現しきれないものを視覚的に表現することで、瞬間的に消費者にそれを伝える。それがパッケージをデザインするという作業なのだ。

高知のクラフトビールの事例:「想像力の余白を作る」

ここからは、良いデザインの実例を紹介します。

高知市から15キロほど東に行ったところにある香美市に、2018年に創業したての小さなクラフトビールメーカー「高知カンパーニュブルワリー」(代表・瀬戸口信弥<せとぐち・しんや>さん)があります。銘柄名はTOSACO(とさこ)です。
TOSACOは地域の原料を多く使用して地元をPRしていくことをモットーにしている地産地消志向のビールです。
たとえば、主力商品で全国的な品評会でも表彰された銘柄「ゆずペールエール」は高知県産のゆずを使用していたり、「こめホワイトエール」は高知県産のお米を使用してスッキリとライトな仕上がりにしています。また、高知県本山町産の赤しそを使ったビールもあります。

tosaco

TOSACOの思いは、公式サイトによれば次のようなものだ。「高知県には果物や穀物などビールの副原料となる食材が豊富にあります。これらを再発見し、生産者がどんな情熱を注いでいるかを知り、その想いをくみとってビールづくりを行います。」

このパッケージデザインを担当したのは、東京から高知に移り住み、同じ市内に住んでいた坂東真奈(ばんどう・まな)さんです。坂東さんはパッケージデザインに視覚的に余白を作ることの多いデザイナーです。坂東さんによれば、これは「想像力の余白」なのだといいます。
「伝えたい情報をすべて詰め込んでしまうと、相手が想像する余白がなくなってしまう。3割くらいは相手が想像できる余地があった方が、印象に残るコミュニケーションになると思っています」
まさに盛り込み型デザインとは、逆の方向性です。

ちなみに、代表の瀬戸口さんからの最初の依頼内容は、瀬戸口さんの奥さんが書いた書道の文字をパッケージデザインにすることだったそうです。そのときにはまだTOSACOのブランド名も存在していなかったとのこと。
相談を受けた坂東さんは、パッケージを作るまえに、まずは統一されたブランド名とブランドロゴ、ブランドの根幹となるコンセプトを作るべきだと提案したそうです。そうして生まれたのがTOSACOというブランド名でした。
コンセプトは、「太平洋に、二人でビールの種をまく」。そして、坂東さんは次のような思いをロゴに込めました。
「ロゴのご依頼があった時、代表の瀬戸口さんはまだサラリーマンで、商品もできていませんでした。あるのは『ビールが苦手な妻も一緒に飲めるビールをつくりたい』『高知素材を使って、高知クラフトビールの波を起こしたい』という強い思いだけでした。そういった『初心の思い』をそのままロゴマークとしてデザインし、今後商品の味や事業戦略などは事業を進めていくうちに変わっても、いつでもスタートラインを思い出せるようにしました」

tosaco

ロゴマークは、「太平洋に、二人でビールの種をまく」というコンセプトを表現している

また、TOSACOのラベルはどの商品も白いカラーで統一されていますが、これも坂東さんの意図があってのことです。
「まだ無名のクラフトビールブランドが売り場で目立つには、商品棚で同じデザインを『面』で見せる方法が有効だと思い、メインラベルは統一、ネックラベルを変えて横展開していく手法をとりました」と坂東さん。
つまり、坂東さんは陳列されている状況をあらかじめ想定しながらパッケージデザインをしています。デザイナーなら当然のことのように思うかもしれませんが、現実には、依頼主が満足するクオリティーでありさえすればいいと注文を淡々とこなすデザイナーがいるのもまた確かです。坂東さんは次のように続けます。
「味ごとにメインラベルを変えるクラフトビールのデザインが主流だったので、瀬戸口さんは当初メインラベルが白一色で統一されるデザインにかなり不安を持っていたようです。でも、今ではシンプルな白ラベルが他にない特徴だとご好評いただいています」

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陳列されているときに、白が並ぶことで目立つ。消費者が瞬間的に興味を持つようになっている

TOSACOにはいろいろな商品がありますが、商品の違いをネックラベルで表現することで、デザイン料が新しくかかることを抑えることも意図しています。クラフトビールは次々に新商品を出すことが多く、逐一デザインをデザイナーに依頼するとコスト高になってしまうのです。

このように、パッケージデザインにいろいろと盛り込みすぎないこと、そしてそれ以上にデザイナー選びをおざなりにしないことの重要性を理解していただけたでしょうか。
信頼に足るデザイナーに依頼し、しっかり議論を重ねていけば、(1)生産者の思いをロゴやブランド名称という形にしてくれ、(2)売り場での状況も想定してデザインしてくれて、(3)将来に商品の複数展開をしたときのコストまで考慮してくれるわけです。

お手元の地産地消商品の売れ行きがイマイチだったら……パッケージデザインが適切なものかどうか、見直してみてはいかがでしょうか。

TOSACO(商品紹介)
ふつうのデザイン(坂東真奈さんWebサイト)

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