LINEで完結する農業バイト
アイアグリは農家と主に大学生のマッチングをする。アルバイトを探す側は、LINEでアイアグリの公式アカウントを「友達に追加」し、気になる仕事があれば応募する。作業日時や内容、時給など必要な情報が載っているのはもちろん、これまでにアルバイトをした人の農家に対する口コミを、5段階で満足度を評価するgood率とコメントから確認できる。アルバイトをするに当たり、面接も履歴書の提出も求められない。LINEでやり取りが完結するため、気軽に参加できる。
「農業というだけで一つハードルがあるのに、そこにさまざまなハードルを重ねていくと、参加者がどんどん減ってしまう。ハードルをいかに下げていくかというのが、サービスとして重要な部分だ」
アイアグリ事業部代表でサービスの発案者である高橋大希(たかはし・だいき)さん(24)は、狙いをこう語る。3月に愛媛大学を卒業したばかりで、在学中に友人から誘われて宇和島市のミカン農家で摘果のボランティアをした。どうせなら収穫までしたいと、収穫の時期にアルバイトとして再訪した。そんな中、現場の人手不足の実態を知る。
「農家は中心的な働き手が一人減っても大変になる。一方で、僕のような時間のある学生も結構いる。大学生を農家に紹介できたらと考えた」
付き合いのある農家に学生の友人を紹介したところ、その働きぶりに「最近の若い者も骨のあるのが多いな」と感心してくれた。一方、友人からも「“ミカン山”は見るだけだったけれど、作業をしてみると面白い」と好評を得る。人を紹介する仕組みを作りたいと考えた高橋さんは、地域の活性化に取り組むキリに4月に入社し、5月に早速アイアグリを立ち上げた。求人の掲載は無料で、マッチングが成立した場合のみ農家から手数料を受け取る。
学生を中心に登録が相次ぎ、10月初旬までに延べ人数で約300人を松山市周辺の中予地区(県中央部)の農家に送り出してきた。柑橘の収穫が繁忙期になる11月から、ミカンの産地である南予地区にも対象を広げ、相当の人数を送り出すことになりそうだ。

アイアグリでマッチングした農家で段ボールを組み立てるアルバイト
農家の声から新サービスが誕生
アルバイトの手続きがLINEで完結する一方、農家とキリのやりとりは電話やFAXを使う。新しい農家とのマッチングを手掛ける場合、現地を訪れ、直接会って話をする。マッチングの精度を高めるために、農家とアルバイトの双方が相手を評価し、そのデータを蓄積している。
学生の単発バイトのため、ドタキャンの心配もあるのではと思いきや、そうではないという。これまでドタキャンは1人だけ。アルバイトに事前に予定を何度かリマインドし、返信がなかったり、チャットでのコミュニケーションが成り立たなかったりする場合は、リスク回避のためバイトの予定を取り消す。当日は、家を出発する前にキリに連絡を入れてもらう。連絡が来ない場合、同社から電話をし出発を確認したり、促したりの「地道な努力でリスクは避けている」(高橋さん)。
日帰りの単発バイトに加え、住み込みバイトの仲介をする「アイアグリ・トラベル」という仕組みも、今秋始動する。学生が集中する松山市から距離があり、収穫作業が長期にわたる農家からの要望を受けたものだ。これに限らず、同社のサービスのほとんどが農家や異業種からの要望を受けて生まれたもの。
「サービスはすべて、課題ベースでできている。頂いた課題の解決策を探りながら、やってきた」と高橋さんは語る。
アルバイトをきっかけに就農者も

松山市内のイチゴ農家と就農を決めた学生
アイアグリを使ったアルバイトがきっかけで就農を決めた学生もいる。愛媛大学4年の男子学生で、松山市内のイチゴの観光農園に2021年に就職予定だ。もともと農業に関心があり、アルバイトを通して仕事の内容を知り、農家の人柄に触れるにつれて、イチゴ農家になろうという思いを強めた。学生は、将来の独立を考えており、この農園なら数年間学んだ後で独立できることも、後押しになった。
「農家も学生も、どちらも喜んでくれた。一緒に働くという経験から、さまざまなコミュニケーションときっかけが生まれるのはうれしい」(高橋さん)

高橋大希さん(左)とキリ代表取締役の中野泰誠(なかの・たいせい)さん(松山市の本社で)
高橋さんは、農業の道を選ぶ若者が増えにくい理由に、農業を身近に感じる機会が少ないことが影響していると考える。
「農業分野で働きたい人は、もっといると思う。アルバイトであっても農業体験をしてみることで、身近に感じて農業を職業として選ぶ人もいるかもしれない。仕事として選ばなくても、消費者として農家の苦労に思いをはせて、愛媛の農作物を買ったり広めたりすることで、農業現場の力になるかも」
アイアグリは、人手不足を補うのはもちろん、農業に関わる人材を増やす可能性も秘めている。まずは県内でサービスの対象を広げ、いずれ全国にも展開したいと、高橋さんは構想を膨らませている。
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