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「草むしり、させてあげます」で応募者3倍?! 「トム・ソーヤのペンキ塗り」に学べ【ゼロからはじめる独立農家#16】

西田 栄喜

ライター:

連載企画:ゼロからはじめる独立農家

「草むしり、させてあげます」で応募者3倍?! 「トム・ソーヤのペンキ塗り」に学べ【ゼロからはじめる独立農家#16】

畑で作物を育てるだけでなく、畑という場を舞台に見立ていろいろなことに活用する――。起農当初の屋号「無農薬野菜 風来(ふうらい)」を「菜園生活 風来」に変えたのはそんな意味をこめてのことでした。畑の可能性を最大限に引き出すことで小さくとも経営的に十分やっていける農業になります。たとえ一見マイナスなことも固定観念にしばられないで見るとプラスに転じることも多々あります。

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「トム・ソーヤ」の寓話(ぐうわ)がヒントに

自称日本一小さい農家の我が風来は、これまでたくさんの同業者による視察を受け入れてきました。視察後「おかげさまで経営的にうまくやれています」という声も多く届いているのですが、そのほとんどの人は私とは違う農法や規模だったりします。口を揃えて言うのが「視察に行って、これだったら私にもできそうと思った」という言葉。

バーテン、ホテルの支配人の仕事を経て、ゼロから起農した私。自然相手で思い通りにいかない、また体力的には大変なこともありましたが、やること全て新鮮に映りました。そして「バーテン時代のあのお客さんならこの野菜の花に感動しただろうな」とか「ミニトマトを房ごと出したら喜ばれるだろうな」など、サービス業の視点から見ると畑という場自体がとても魅力的に感じられました。

眺めながらヒントを探す

仕事終わりに畑を眺めながらヒントを探す

農家の会合、冒頭の挨拶でよく聞くのが「昨今厳しい農業情勢ですが」の言葉。確かに楽な状況ではありませんが、この言葉を繰り返し聞くと、農業は大変だとマイナスの自己暗示がかかってしまいます。しかし、農業は百姓的(百の仕事をする)にやっていくことで可能性は無限にあります。

そんなことを気づかせてくれたのは「トム・ソーヤの冒険」に出てくるトムが壁にペンキ塗りをするエピソードです。いたずらの罰として、おばさんから大きな壁のペンキ塗りをやるように命じられます。トムは最初は嫌々やって友達に手伝いを頼んだのですが、誰も手を貸してくれません。そこで一計を案じ、壁のペンキ塗りを楽しそうにやります。それを見た友達の方から「面白そうだからやらせてくれ」と頼まれるように。トムが断ると「このリンゴをあげるから」と頼まれ、「しょうがないけどそれなら」とペンキ塗りを友達にやらせることに成功。そのうちに「ペンキ塗りをしたい」という友達がどんどん増え、トムはペンキ塗りの仕事を友達にやらせつつ、その友達からの贈り物ももらうという話です。

「草むしりセラピー」

そんなトムのペンキ塗りのようなことを実践するキッカケになったのが、にっくき雑草です。無農薬栽培で大変なのは害虫と雑草。ある時雑草があまりにもひどく、ワラにもすがるつもりでお手伝いを募集しました。

そうしたところ5人ほど来てくれました。ただこちらがお願いしているという引け目から鎌や軍手など全てこちらで準備。作業中もケガしないかとずっと見守り、作業が終わった後にお菓子を用意して、お土産に野菜を持っていってもらいました。確かに除草は終わったのですが精神的にクタクタに疲れてしまい、これなら自分でした方が楽かなと思ったりもしました。

ただやるまではおっくうな草むしりですが、草むしりをしている時に新商品のアイデアが湧いたり、文章が浮かんでくることもしばしばあるなど、いいこともあるのです。そこで今度は「草むしりをさせてあげます」と呼びかけたところ「お手伝いお願いします」と呼びかけた時の3倍の応募がありました。道具も自分で準備、また飲み物やお菓子も持ち寄りとしました。作業後、お菓子をそれぞれシェアしながら和気あいあいとした雰囲気に。そして参加者は「あー楽しかった。またやってね」と満足そうに帰っていきました。

その姿をみて、草むしりセラピーとしてお金が取れるのではないかと思ったくらいでした。

イベントあとのお茶タイム

イベント終了後のお茶タイム

それから畑の可能性を心から信じられるようになり、根が張って困りものの雑草であるヨモギをみんなで片付けたあと、ヨモギ団子をつくったり(参加費ひとり500円)、 秋にはシソの片付けをみんなでしたあと、ご飯のお供になるシソの実の佃煮(つくだに)を作り、持って帰ってもらうなどさまざまな取り組みをしてきました。

土を触ること自体にも可能性を感じ、今年からハウス一棟の半分を自由に使えるスペースとして開放。ヨガの先生を招いて「畑ヨガ・リトリート」を開催しました。ヨガが終わったあとは畑の野菜でランチ会、そしてカフェタイム。裸足になることで自然との一体感が出たなどと好評で、リピーター続出の会となりました。市からも観光の目玉として取り上げたいとお声掛けがありました。現在は新型コロナウイルスの影響で休止していますが、また再開できる日がくればと思っています。

失敗を恐れずに呼び掛ける

少し前まではイベントをやるとなるとポスター作り、印刷、スーパーや自然食品店などのお店に張り紙をさせてもらい電話で受け付け。天候で中止や延期になった場合は、参加者一人一人に電話で連絡、イベントが終わると張り紙を回収……などやることが多くて大変でした。でも今はFacebookなどSNSの「イベントページ」を使えば無料で簡単に告知できるようになりました。名簿の作成や参加者への連絡も簡単で、終わったあとのフォローもできる。まさに隔世の感があります。

最初は集客が大変だったり逆に人が来過ぎてフォローできなかったりと失敗もあるでしょうが、回数を重ねていくと慣れてきます。とにかくやってみてダメならやめる。自分の畑で開催するのなら、金銭的リスクはほとんどないのですから。そして失敗ができるのも小さくやっているからこそ。「恥ずかしげもなく行く」その精神で動いていくと可能性がどんどん生まれてきます。

スベリヒユにうもれるニンジン

スベリヒユに埋もれるニンジン

さて、雑草の話に戻ります。やっかいな雑草のひとつに生命力の強い「スベリヒユ」があります。そのスベリヒユがニンジン畑にたくさん生えてきました。ニンジンは初期の頃、大変弱いので手作業で抜いていくしかありません。そんなスベリヒユを調べてみると、一時期流行したココナツオイルにも多く含まれるオメガ3がたっぷり含まれていることが分かりました。

そこでSNSでそのことを書き、「スベリヒユ取り放題」としてイベント告知をしたところ6人ほどが来てくれて、あっという間にニンジン畑がきれいになりました。野菜セットにも説明書き付きでおまけとして入れたところ、大変喜ばれました。

そんなことを続けていると、ある日ネット注文のお客様から「野菜セットの半分を雑草にしてほしい」という変わった依頼が……。なんでも、飼っているウサギに安全で新鮮な草を食べさせたいとのこと。こちらにとってもありがたいので、ウサギが好む雑草を入れて送ったところ大変喜んでくれました。後日届いたメールには「いろいろなことに取り組んでいる風来さんなら、無茶なリクエストもきいてもらえるかと思いお願いさせていただいた」とのこと。

ダメ元でもなんでも動いていけば、そのうち周りからヒントをもらえるようになります。そんな風にやっていくと畑が宝の山に見えてきます。農家になって思ったのがゴミが財産になりえるということ。例えば米ぬかも捨てると産業廃棄物ですが発酵させると肥料にもなる。まさにマイナスがプラスに。

そして畑を表現する舞台として活用する。そのことで経済的にメリットも出てきますし、なにより農業自体がどんどん楽しくなっていきます。 恥ずかしげもなく行きましょう!

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