農作業だけが農家の仕事ではない
「農閑期なんてない」という忙しい農家の皆さんも多いのではないでしょうか。私も「農閑期」がない農家の一人ですが、仕事がコントロールできるようになり、自分のメンテナンスに使える時間が確保できるようになりました。自分のペースで仕事ができていない頃は、朝から晩まで農作業をしているのが農業だと思っていましたので、それが達成感と感じていた気がします。もちろん、自分のメンテナンスなんてことは考えたこともなく、待っていたのは毎日の疲労とストレス、金銭的な悩みそして腰痛でした。
今は、畑にいる時間は1日4~6時間ほど。残りの時間は、自分を磨くための勉強、人との交流、心身ともに健康にすることなど、普段から自分に投資し、結果的に農業という仕事につながってきています。
体を鍛えるのも農家の仕事
朝から晩まで農作業をしていた時は、首、肩、背中、腰の痛みがひどく、診療所に通っていました。整体やマッサージなど何カ所も通い詰めましたが、私にとって一番効果があったのは鍼(はり)で、週に1回、2年ほど通院していました。鍼を打つと、痛みが緩和され、次の日の仕事に臨むことができたのです。1回の治療は4000円。この頃は売り上げも少なかった時期でしたので、月に1万6000円を支払うのはきつかったのですが、農作業を続けるために他の所で節約をしていました。
その後販売チャンネルを減らしたことで、仕事の効率があがり時間のコントロールができるようになったので、ジムに通い始めました。昔から体重はあまり変わっていないのですが、体型が変わってきたことに気付いたことがきっかけです。
バーベルやダンベルを使い上半身を中心に筋トレをしていますので、若かった頃よりも筋力がつき、農作業で重いものを持つのも楽になりました。長年抱えていた肩こりもいつの間にか消えてしまったのにはびっくりしています。現在は、新型コロナウイルスの対策でジムはお休みしていますが自宅で筋トレをしています。

トレーニングジム
外見を整えるのもブランディングの一つ
モチベーションを保つ美容院
農業を始めた頃の写真は一枚もありません。メディアの取材を受けるようになった頃から、少しづつ自分を表に出すようにしてきました。当時の写真はバンダナを巻いているものが多いのですが、これには理由があります。この頃は、床屋さんで使うお金がもったいなくて髪は自分で切っていました。前も後ろも横も、当然ながらボサボサの頭です。バンダナを巻いていたのは、それを隠すためだったのです。

バンダナでボサボサの髪を隠していたころ
数年前から売り上げが安定し、髪を切るためのお金を使うことができるようになりました。知人から紹介された美容師さんに髪を切ってもらうことになったのですが、彼が勤めていたのは銀座の美容院。それ以来、今も髪は銀座で切っています。美容院の椅子に座ると思い出すのがバンダナを巻いていた頃のこと。髪を切るために銀座に出向けることで、バンダナの頃に戻りたくないというモチベーションをキープしています。

美容院に通えるようになりました
レストランに通ってレベルアップ
「レストランではどのように野菜が使われているのか」「どうすれば野菜のポテンシャルをあげる調理ができるのか」「もっとおいしいものを知りたい」。
そんな好奇心から、外食にも時間を使っていて、農家の中でも食べ歩いている方ではないかと思っています。高級店でシェフと料理について話すことから学ぶことも多く、ただの「野菜の使い方」ではなく「最高においしい野菜の使い方」を語れるようになれました。

先日フレンチレストランで感動した土臭さのないビーツ料理。シェフによると調理法による工夫とのこと
このように外食も多いため、服装にも気を使うようになりました。ドレスコードがあるお店にも行きますので、スーツや靴を買ったりします。買い物によってストレスが解消されることも、最近になってわかりました。
レストランでの出来事はSNSでアップする時もあるのですが、この時の服装も自分をどんな農家に見せたいかのキャラクター作りの一つなのです。

スーツ姿でミシュラン三つ星シェフのミッシェル・トロワグロ氏と
モチベーションを維持するための活動
最近では農業以外の仕事も増えてきました。記事の執筆、講演や大学等の講師、イベント企画、動画制作など多岐にわたります。

レストランでライブ動画配信
これらは、今までやってきた農業のおかげです。これ以外にも畑に見学者が来たり、メディアの取材を受けたりしています。テレビ番組の撮影などでは時々芸能人も来ますので、仕事にメリハリがあって楽しいです。

SMAP×SMAPのロケ
いつもの農業以外にこなさなければなりませんので、忙しいと言えば忙しいのですが、農作業の時間をコントロールできるようになったことで可能となりました。前のタケイファームのやり方であれば絶対に無理だったでしょう。
今は、たくさんの人たちとの交流ができて気分転換にもつながっています。特に異業種の人たちとの出会いは刺激にもなり、新たな挑戦や勉強になっています。同業者で話をしていると、どこかでなんとなく順位がついてしまいますが、異業種の人とはそんな事はなく、お互いを尊重し合うことができるのです。農業を知らない人との会話からは、農家では絶対に発想できない案があがったりして、新たなビジネスチャンスにもつながります。
心のメンテナンスも大切
農業を始めて20年目に入りました。私の場合、ガムシャラに野菜を作って販売しているだけだったら、心も体も続かなかったかもしれません。たまたま続けていたブログがきっかけでメディアに出ることになり、それからは人との交流に力を注いでいます。本を読むことも大切ですが、人から聞く話は面白く勉強になり次のステップにつながっています。これが私の農業のモチベーションを保つのに役立ち、自分なりの心のメンテナンス方法なのだと思います。