農地売却に必要な許可
農地の売却には農地法に基づく許可が必要です。
所有権移転を伴う農地法の許可には、以下の2種類があります。
※指定市町村とは、農林水産大臣が指定した市町村のこと。
上記の内容に示してある、農地を農地以外のものにすることを「農地転用」といいます。
例えば、農地から建物を建てるための宅地にする、農地から太陽光発電を行う雑種地にするというような場合は農地転用に該当します。
農地転用を伴う売却は原則として農地法の5条許可が必要です。しかし、すでに市街地を形成している区域またはおおむね10年以内に優先的かつ計画的に市街化を図る区域である市街化区域内の農地であれば、農業委員会への届出を行うことで売却することが可能となります。
また、農地の売却は、農地として売却するよりも農地転用を前提に売却する方が、売却価格は高くなることが一般的です。しかし、農地の一部には、農地転用ができない農地もあるため注意が必要です。
農地転用ができない農地は下表の3種類です。
また、農地法については以下の記事で詳しく解説していますので、こちらも参考になさってください。
関連リンク:農地法とはどんな法律?農地オーナーにわかりやすく解説!
農地売却の手続きと流れ
農地売却に必要な手続きと流れは下図の通りです。順を追って解説します。
役所への事前相談
農地の売却では、最初に役所への事前相談を行います。
相談先は、3条許可なら農業委員会、5条許可なら都道府県知事または指定市町村長です。
さらに5条許可の場合、農地転用できる農地であるかどうかを確認するために、事前に役所に農地種別調査を依頼します。
価格査定
事前相談によって許可の見通しが立てば、次は不動産会社へ対象の農地の価格査定を依頼します。
農地の価格は地域や面積、転用の有無、土壌の状態等で価格が異なるため、細かく調査して適切に査定してもらうことがポイントです。
中には、不動産会社というと尻込みしてしまう方もいると思います。
その場合には、インターネット上で一括査定ができる不動産一括査定サイト「リビンマッチ」がおすすめです。
不動産一括査定サイトの中には農地の査定は行っていないサイトもありますが、リビンマッチは一括査定サイトがまだ普及していなかった2006年のサービス開始時から農地査定を行っています。
農地査定に関して長い歴史を持ち、信頼性の高いサイトですので、活用してみるとよいでしょう。
媒介契約の締結・売却活動の開始
価格査定が済み、依頼したい不動産会社が決まったら、不動産会社に仲介を依頼するための媒介契約を締結して売却活動を開始します。
売却活動は、許可申請前に行うことが重要なポイントです。
理由としては、3条許可においては、買主に農業ができる能力があるか等の審査が行われ、5条許可においては、転用後の買主の事業の確実性等の審査が行われるからです。
そのため農地の売却では、不動産会社と媒介契約を締結後に売却活動を行い、買主を決めた後で許可申請を行うというのが流れとなります。
停止条件付き売買契約
農地売却の売買契約では、買主が決まったら停止条件付き売買契約を締結します。
停止条件付き売買契約とは、条件とする事実が発生するまでは、売買のような法律効果の発生を停止させるという契約のことです。
具体的には、「農地法に基づく許可が取れたら」という条件のもとに、その条件が発生した場合に「本契約の効力が発生する」という契約になります。
農地の売却は農地法に基づく許可が下りない限り、売買契約は無効です。一方で、許可を取得するために先に買主を決めておく必要があります。
そこで、停止条件付きの売買契約を締結し、契約時点では契約の効力を発生させず、後で許可が下りたら契約の効力が発生するように段取りを整えておくのです。
許可申請・許可指令書交付
売買契約を締結したら、許可申請を行います。
許可申請から許可指令書の交付までは、通常1カ月程度を要します。
引渡
農地法に基づく許可が下りたら、次に農地の引渡を行います。
農地の引渡では、所有権移転登記申請のために、売主が農地法の許可指令書を買主へ引渡すことが必要となります。
確定申告
農地の売却により税金が生じる場合や、節税のために特例を利用する場合には、確定申告が必要です。
確定申告は売却した翌年の2月16日から3月15日までの間に行います。
相続した農地を売却するために必要なこと
相続した農地を売却するには、登記簿謄本の名義変更が必要です。
相続における登記簿謄本の名義変更は法律上の義務はありませんが、売却するのであれば買主に対して売主を明確にするために、名義変更は実質的に必須となります。
相続した農地の名義変更には、以下の3つの方法があります。
- 遺言による名義変更
- 遺産分割協議による名義変更
- 法定相続による名義変更
「遺言による名義変更」とは、遺言書が残っている場合に、遺言書に基づいて農地を承継する人に名義の変更をする方法です。
農地を相続した際は、遺言書が残っているかどうか合わせて確認しましょう。
「遺産分割協議による名義変更」とは、相続人同士で話し合う遺産分割協議によって承継する人を決めて名義の変更をする方法です。
遺産分割協議は、「遺言書がないケース」や「遺言書とは異なる分け方で分割したいケース」の際に行います。
また、遺産分割協議を成立させるには、相続人全員の同意が必要となり、名義変更の必要書類となる遺産分割協議書の作成も行います。
「法定相続による名義変更」とは、法定相続割合の共有状態で名義の変更をする方法です。
共有物件の売却となるため、売却にあたっては共有者全員の同意が必要となります。
また、農地法の許可申請も共有者全員で行います。
尚、農地を相続したら農業委員会への届出も必要です。
届出の提出期限は、被相続人(死亡した親)の死亡を知った時点から10カ月以内で、届出の際には相続したことを確認できる書面が必要となります。
名義変更した登記簿謄本も相続したことを確認できる書類の一つとなるため、売却するか否かに関わらず相続したら名義変更は早めに行うことをおすすめします。
農地売却の税金
この章では農地売却の税金について解説します。
また、農地を贈与する場合にかかる税金については以下の記事で解説しています。
関連リンク:農地を贈与したい!贈与税の計算方法や手続きの流れを解説
譲渡所得とその計算方法について
農地売却では、譲渡所得が生じると税金が発生します。
譲渡所得とは、農地を譲渡することで生じる所得のことで、以下の計算式で求められます。
譲渡価額とは「農地の売却額」、取得費とは「農地の購入価額」のことを意味します。
また、譲渡費用とは仲介手数料等、売却に要した費用を指します。
農地の場合、先祖代々から引き継いだ農地であることが多いため、取得費がわからない場合もあります。
そのように取得費がわからないときは、概算取得費と呼ばれるものを取得費として代用します。
取得費は「譲渡価額の5%」で計算されます。
そして、譲渡所得により発生した税額は、譲渡所得に税率を乗じて求めます。
税率は農地の所有期間によって2種類に分かれ、所有期間が5年超であれば長期譲渡所得、5年以下であれば短期譲渡所得に分類されます。
それぞれの税率は下表の通りです。
所得の種類 | 所有期間 | 所得税率 | 住民税率 |
---|---|---|---|
短期譲渡所得 | 5年以下 | 30% | 9% |
長期譲渡所得 | 5年超 | 15% | 5% |
相続で引き継いだ物件の所有期間は、被相続人(死亡した親)の所有期間をそのまま引き継ぎます。
つまり、被相続人の所有期間が5年超であれば、相続人が5年以下で売却しても長期譲渡所得の税率が適用されます。
農地の場合は、先祖代々から引き継いでいる物件が大半であるため、長期譲渡所得の税率が適用されることが多いです。
また、譲渡所得の発生時には、復興特別所得税と住民税が発生します。復興特別所得税の税率は、所得税に対して2.1%を乗じます。
以下に税金の計算例を示します。
農地の売却では、上記の計算例のように「概算取得費」と「長期譲渡所得の税率」を用いることがよくあります。
「概算取得費」と「長期譲渡所得の税率」を用いるケースでは、税金は売却額の2割弱か同程度となることが多いです。
譲渡所得の特別控除について
一方で、一定の要件を満たす農地売却では、特別控除額として譲渡所得から一定額を控除できる特例が存在します。
特別控除額は以下の計算式のように譲渡所得から差し引くことができるため、譲渡所得がより小さくなることで税額が減り、節税につながります。
特別控除額には3種類あり、それぞれの金額と適用要件は下表の通りです。
農地売却は農地法の許可が必要で税金も生じるケースが多い
以上、農地売却について解説しました。
農地の売却に必要な許可には、「農地を農地として売却する3条許可」と、「農地を農地以外に転用して売却する5条許可」の2つがあり、売却活動の際にはそれらの許可を停止条件とした売買契約を締結することが一般的です。
そして、農地の価格査定について自身でじっくり比較検討したい場合には、リビンマッチの一括査定サイトを利用して価格の相場を参考にするのがおすすめです。
また、農地売却には、売却額の2割弱か同程度の税金が生じることがよくあります。一定の要件を満たす農地売却では特別控除があるので、売却時には節税特例の要件をしっかりと確認しながら、慎重に検討するとよいでしょう。