「牛追い」大幅効率化。さまざまな確認が楽に
1600haの育成牧場(うち放牧地560ha)を管理する豊富町振興公社は、2019年からNTTドコモと連携し、ドローンを用いた牛追いや電気牧柵などを点検する実証試験をしています。名付けて「スカイカウボーイ」。日常業務の大半を費やしていた牛追い作業を大幅に効率化しました。
同公社は町内の酪農家から年間1600頭前後の乳用子牛を預かり、分娩直前まで育てています。牛追いは、200頭前後の群れで数~十数haの牧区を輪換しながら放牧している牛を、授精の兆候や病気などを見つけるため、毎日30ha四方のパドックに集める作業のこと。起伏が激しく足場の悪い放牧地を、作業員が大きな声を出しながら歩いて追うため1カ所で40~50分かかり、身体への負担も大きくなります。
この牛追いを、カメラとスピーカーが付いたドローンで行います。タブレットで画像を見ながら、地上15haほどの高さから音を流すと整然とパドックを目指して歩く牛たち。操作は機体が視認できればどこからでも行え、牛追い時間も5~10分ほどに短縮できます。

ドローンからの音声でパドックに異動する牛
音はなんでも録音できますが、犬や象のほえ(鳴き)声、踏切音など6種類を使っています。一つの音を続けると慣れて動きが鈍くなるため、変えながら使用。今年は自動飛行による試験をしています。
施設の点検では電気牧柵に沿って自動飛行させ、切れた箇所の把握が素早くできるようになりました。牧草の状態や作業員の位置を確認できたり、脱柵した牛の捜索にも役立っています。
今後は、人工知能(AI)で雑草を検知して部分的に除草する技術や、放牧しながらバイタルセンサーで牛の脈拍や呼吸レベル、体動などを検知し、健康状態の把握や繁殖管理などに活用を広げていく計画です。
澤正樹社長は「期待以上の成果。楽しんで仕事ができるので、若い人にも関心を持ってもらえるのではないか」と話します

「すでに実用化し、牧場全体の作業が効率化した」と話す育成牧場の小野一幸副場長
牧草撮影しAI解析。栄養価高い状態で採食、ゲート開閉も遠隔操作
天塩町で110頭を飼養する㈱宇野牧場(宇野剛司社長、37)とIT企業のINDETAIL(札幌市)は、今年から放牧業務を効率化する「スマート酪農」の実証試験をしています。自動飛行するドローンのカメラで撮影した牧草の状態をAIで解析し、その日最良の牧区に牛を誘導。ゲートは太陽光パネルの電源で開閉し、離れたところからリモートで操作できます。
宇野牧場は160haの牧草地のうち60haで輪換放牧しています。放牧地を1haずつ電気牧柵で区分けし、牧草の生育状況に合わせて牛を放す集約放牧で、搾乳牛は4~11月、育成牛は通年で放牧。牧草から生乳、加工までの全ての工程で有機JAS(日本農林規格)を取得して6次産業にも力を入れており、草づくりにはこだわっています。
草地の牧養力を維持しながら栄養価の高い牧草を採食させるため、牧草の管理・確認は重要。多すぎて食べ残すと周囲の草が枯れて草地が荒れるため、刈り取る必要があります。同牧場では週に1回、生育状況を草量計で歩いて調べていますが、60haを見回るのは時間がかかり、大きな負担となっていました。
生育は気象条件や草種で変わり、時期によって栄養価も違うため、管理・確認には経験が必要ですが、スマート酪農ではAIが①発育し過ぎ②食べどき③もう少し④まだまだの4段階で判別し、最適な牧区に牛を誘導します。数日後の生育状況も予測でき、日ごとの採食量も管理できます。

放牧場を空撮し、AIが牧草の生育状況を4段階で分類します
採草地でも同様の確認ができるため、施肥などの生育管理が向上し、最適なタイミングで刈り取りが可能です。
来年以降の実用化を目指しているとのことで、両社は共同で酪農法人を設立し、システムを検証して技術を確立する計画です。
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