栽培する野菜をどのように選ぶか
少量多品目農家が抱える問題点の一つが労働力。販売チャンネルにもよりますが、定番野菜から珍しい野菜まで、品目が違いますので栽培方法も変わります。少量であっても多くの品目を栽培しているのですから、時間もなく忙しくなるのは当たり前。
私も同じ問題を抱えていた一人で、以前は毎日暗くなるまで働きヘトヘトに疲れ果てていました。そんなある日、時給として考えた場合、1時間でいくらの売り上げをあげているのだろうかと疑問がわき、「売り上げ」という考え方から、「労働力に見合った売り上げ」という考え方に変わったのです。
限られた時間と労働力、その中で売り上げを伸ばさなければならないのですから、あらゆる観点から考えて、作業効率と売り上げのバランスを考えるのが大事です。
一概にはどれが正しいとは言えないのですが、コマツナとカーボロネロを例にとって説明していきます。
販売先によっても売価や栽培する面積など条件は変わりますので、今回は、レストランへ販売しているタケイファームのケースで進めていきます。
1万円を売り上げるために
まずは作業時間と売上金額が明確な収穫と調整作業で比較してみましょう。
タケイファームがレストランへ販売していたコマツナ1束は300円(今は栽培していません)。決して安い金額ではないと思いますが、コマツナで1万円を売り上げるためには約33束必要です。1束4本200グラムとして6.6キロ、本数は132本。
それにかかる収穫時間は約20分、袋詰めにかかる時間は約50分。作業時間の合計は1時間10分です。

コマツナ
カーボロネロは葉1枚100円。1万円を売り上げるために必要な数は100枚。収穫時間は約15分です。1枚ずつFG袋に入れるのではなく、売り先の店舗ごとに大きなビニール袋にまとめて入れるので袋詰めにかかる時間は約1分。作業時間の合計は16分です。

カーボロネロ
コマツナとカーボロネロでは、同じ1万円を売り上げるのにも、収穫から調整までの作業時間は5倍近くも差が出てきます。作業時間が少なければ疲労の軽減にもなりますし、別のことに取り組むことができます。
作業効率を考えて栽培する
もちろん、栽培にも手間がかかります。収穫や調整に時間がかからなくても、栽培の作業効率が悪ければ、結果的に作業時間に対する売り上げが下がることになります。
コマツナは、種まき時期や気温など栽培条件によって収穫までの日数に幅があり、夏まきで25~30日、春・秋まきで45~60日。一般的な規格サイズに合わせた夏場の収穫時期幅は2~3日、冬場は10日以上。タケイファームでは、市場へ出荷するのと違い一気に収穫するわけではないので、種まき時期を数日ずらして対応しています。一度に栽培する面積は1畝ほどで年間を通して6回転ほど栽培していました。この「数日ずらす」ということが面倒なのです。
一方カーボロネロは、年に1度の栽培となります。7月に種まきをして200本ほどの苗を作り9月に定植、収穫は11月から始まります。カーボロネロはキャベツの仲間ですが、一般的なキャベツと違い結球しない葉を収穫しますので、次から次へと成長した葉の収穫を続けることができます。詳しくはこの後説明しますが、最終的に形を変えて収穫が4月まで続きます。
コマツナは種まきから収穫までの期間が短いため、6回転の栽培ができるのですが、言いかえると、種まきから畑の片付け、種まき、片付けと、作業が増えてしまうことにつながります。カーボロネロは収穫まで約4カ月の時間がかかりますが、収穫が半年続きますので播種から片付けまでの作業は少なくてすみます。労働力が少ない小規模農家にとっては、いかに作業効率が重要かがわかるのではないでしょうか。
規格にとらわれない収穫
コマツナの一般的な規格サイズは草丈が20~25センチ。これ以下でも以上でも規格外ということになります。
市場や直売所、スーパーに出荷している農家にとっては、この規格を守ることは大事でしょう。規格サイズのイメージが消費者に定着しているうえ収穫時期幅が比較的短いコマツナは、タイミングを逃さないために収穫に追われることになります。
タケイファームでは、規格サイズは私とシェフが作るものと考えていますので、コマツナも10センチから販売し、春にはトウ立ちして菜の花のようになったツボミも販売していました。種まきのタイミングではなく、収穫のタイミングをずらすことで、コマツナも長期間売り上げにつなげることができます。

小さなコマツナも販売
一方カーボロネロは、あまり規格がはっきりしていない野菜と言えるでしょう。タケイファームの場合は収穫が始まる11月は長さ約30センチの葉を、気温が低くなり成長が鈍くなったら10センチの葉を、その後、葉と茎の間から出てきたわき芽を収穫し、形を変えて4月まで収穫が続きます。

カーボロネロのわき芽を収穫
こうして収穫するサイズを変えることで、一度栽培した品目を長い間売り上げにつなげることができますので、結果、労働力の軽減になります。
資材で粗利も変わる
資材にかかる費用も、しっかり考える必要があります。
コマツナはべたがけ栽培やビニールトンネルなどの資材を使用することによって、露地栽培でも冬の間栽培が可能となります。私も以前は資材を使って栽培していましたが、その費用がもったいないなと感じていました。冬にコマツナを販売するために資材を使うのですが、実際は資材費が売価に加算されるわけではありません。資材を投入して栽培することで、粗利が減ってしまうのです。
今は、夏には暑さに強い野菜を、冬には寒さに強い野菜を栽培するようにしています。冬の時期であれば、ホウレンソウやブロッコリーを作っていればそれほど資材は必要としません。カーボロネロに至っては全く資材を必要としません。季節の理にかなった栽培をすることによって、資材費もその作業に伴う労働力も軽減されるのです。

コマツナのべたがけ栽培
今回は、コマツナとカーボロネロを例に説明してきました。販売チャンネルによっても売れる野菜のニーズは違いますし、西洋野菜のカーボロネロは現実的にニーズが少ないと思います。しかし、マルシェやスーパー、インターネットで直売する野菜セットなどでのニーズを考えたとき、私の場合のカーボロネロのような栽培効率の良い品目はあるはずです。「労働力が足りない」「時間が足りない」といった、小規模農家にとって課題となる問題は、栽培する品目を変えてみるだけで大きく変化する可能性があります。改めて栽培する野菜を考えてみませんか。